騙したな?
母と娘が異世界へ転移し、
トラウマを抱えた娘の心を癒すために、
オカンが異世界で食堂をはじめます。
強引な王子に負けず、日常の中で少しずつ心を取り戻していく娘。そして──
いつの間にかイケメンが釣れていた!?
この物語は
【1章38話】転移から王宮を出るまでの話
【2章25話】食堂Openと色々な人との出会い
【3章35話予定】それぞれの恋模様
*恋愛パートは三章からになります。
ゆっくりじっくり、温かい物語をお楽しみください。
いつもと変わらない穏やかな朝のはずだった。
まさかあんな事になるだなんて…
仕事が休みの朝、私は立ったままコーヒーを飲み、昨夜の残りの煮込まれて芋の形が崩れた具沢山スープを温めていた。
娘は三連休らしく、昨夜から半年後に結婚する予定の彼氏の家に泊まっている。
娘の居ない朝は何度目だろうか?
既に慣れてしまい彼氏が一緒なら心配すらしなくなった。
「雨が降りそうね?」
キッチンの窓から見えた空に黒い雲が広がっているのが見えた。
ゴロゴロと、雷鳴も響き始めた。
まずい、洗濯物を取り込まないと。
私は一旦スープの火を止め、足早にベランダに向かう。
全ての洗濯物を取り込んでホッとした頃、ポツポツと雨が降り出した。
キッチンに戻り、窓から雨粒を確認して直ぐ、
激しい雨がバチバチ窓ガラスを叩き始めた。
「間に合ったわ、危なかった」
昨夜仕事から戻り、鍋にスープの食材を放り込み、とりあえず洗濯物だけは、と疲れていたけど頑張って干した。
台無しにならなくて良かった。
私の名前は丸寺透子、娘は瑠璃。娘を妊娠して直ぐ男に逃げられた為、旦那は居ない。
1人で産み育てる事に、なぜだか全く躊躇しなかった。
仕事は美容師をしていたが、融通が全く効かない店だった。
少しでも娘の側に居たくて
貯金をはたき小さな自分の店を持った。
そこからは、意識が飛ぶ程に、毎日が慌ただしく、決して安穏としていたとは言え無いけど…
娘が可愛くて、毎日が楽しく幸せだった。
——その娘が結婚するのだ。
半年前、幸せそうに紹介してくれた娘を見て、こんなに嬉しい事は無いと思っていた。
窓の外では落雷が響いていた。
天候はかなりの荒れ模様
私は中途半端に温まったスープを装い、雷の鳴る空を眺めながら、キッチンで立ち食いしていた。
5分程で食べ終わり、鍋と食器を洗い終わった頃
ガチャガチャ!バン!ドタドタバンバタン!
玄関から乱暴な開閉音がした。
——娘だろうか?
今夜も彼氏の家に泊まる筈だ。
忘れ物でもしたのか足音が慌てている。
私は気になって娘の部屋に向かう。
廊下が水浸しだ。
この激しい雨に打たれた様だ。
途中風呂場でタオルを掴みドアをノックする
「瑠璃、おかえり」
———返事が無い。
普段は必ず返事をする子だ。
彼氏と何があったのだろうか?
「開けるわよ?」
私は扉を開けてびっくりした。
ずぶ濡れで娘が、部屋の中心で静かに涙を流しながら立ち尽くしていたからだ
とりあえず、着替えさせないと
私は娘のクローゼットから、服と下着を取り出した。
呆然としている娘を、黙ってタオルで拭いて着替えさせた。
娘の着替えを手伝うなんて、発熱時を除いて5歳の頃を最後に記憶に無い。
——余程の事が、あったのだろう。
私は一旦キッチンへ戻り、暖かくて甘いミルクティーを入れて娘の元に向かう。
あの子の好きな飲み物だ。
娘はまだ立ったままだ。
とりあえずサイドテーブルに湯気の立つ、紅茶を置いて娘をベッドに座らせた。
手に紅茶を持たせて
「飲みなさい」
と促すと、ぼーっとしながらも一口飲んだのがわかった。
娘の手がストンと落ちそうになり、私は慌ててカップを取り上げた。
自分の手に熱い紅茶が掛かって熱かったけど
娘の状態が、気になってそれどころじゃ無い。
「瑠璃?るーちゃん?」
私は、大人になった娘を、小さな頃の呼び方で呼んでいた。
私が守ってあげなきゃいけなかった頃よりも、今、目の前の娘は儚かった。
「…たの」
瞬きすら忘れてしまった娘の目からは
とめどなく涙が溢れていた。
娘が何か呟いたが、天井が薄い賃貸の屋根は防音効果が薄い。
雨音が激しくて娘の声は私まで届かない。
——雨で身体が冷えてるわ
とりあえず抱え込んで、娘の背中を摩り続ける。
「…全部、嘘、だったの」
娘の声が届いた
——嘘?何の事だろうか?
消え入りそうに弱っている娘を、問い詰める訳にもいかず、
黙って体を摩りながら次の言葉を待つ。
「彼、名前すら、偽ってた。経歴も、何もかも。他にも、複数人の、女性がいた。私の事は、愛してすら、居なかった」
娘は途切れ途切れ言葉を綴った。
言葉を最後まで拾った頃には、
私の中から抑えきれない怒りが膨らんで
———今にも爆発しそうだ。
私の命よりも大切な娘を傷つけだだと?
「絶対に許さない」そう呟いた時
私と娘の周りが雷鳴と共に急に眩しく光った。
落雷?!
私は咄嗟に、娘の頭と身体を抱えて、身体を丸め娘を守ろうとした。
落雷なら、2人とも助からないだろう。
目を閉じて、痛みが来る覚悟をしたが、一向に痛みも衝撃も来ない。
———即死だったのだろうか?
何となく空気が変わった気がして恐る恐る目を開けたら
「やった!でかしたぞ!召喚成功だ!」
…貴方達誰よ?
目の前には、日本ではあり得ない、明らかに異質な服装と髪色の人達が居た。
見つけてくれて、ありがとうございます。
娘の事が気になりすぎなオカンは
怒りのままに転移!
この話は、今後も他の作品とも世界がリンクしてます。
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