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その凍結は.....

──戦場・前線司令幕舎──


 大地が揺れる。

 魔物たちの咆哮が響き渡り、空は灰色に濁っていた。


 アデルナ王国と魔王国の連合軍は、死地と化した前線に臨時の司令幕舎を設営し、刻一刻と悪化する戦況に対応していた。


 その幕舎の中、二人の王が対峙していた。

 アデルナ王国国王、レオンハルト・アデルナ

 そして魔王国を統べる者、魔王レグニス・アーガイル。


 戦況は極めて厳しい。封印遺構の座標で発見された“魔核を内包した飛竜”を中心に、無数の魔物が出現し、周囲を蹂躙している。


 だが、この地から逃げるわけにはいかなかった。ここで抑えなければ、感染拡大と魔素の汚染は避けられず、王国も魔王国も壊滅的な被害を受ける。




 軍議が始まる。重苦しい空気の中、まず口を開いたのはレオンハルトだった。


「魔核を宿したボスは、魔王国の力で抑えていただきたい。我々、アデルナ王国軍は……その周囲を固め、他の魔物の殲滅を担う」


 その言葉に、魔王国の将官たちがざわめいた。


「無謀だ! あれだけの数を人族だけで食い止めるなど——!」


「それは自殺行為に等しい!」


 だが、レオンハルトは静かに、しかし強い口調で言葉を返す。


「……分かっている。だが、我々には魔王国のような強靭な魔力はない。ならば、我らが成すべきは盾となり、王国に道を繋ぐこと。我らが盾となり、レグニス殿の剣が届く道を切り開く。それが人族としての覚悟だ」


 静まり返る幕舎。

 その中でレグニスが、静かに立ち上がった。


「……レオンハルト王よ。貴殿の覚悟、しかと受け取った。ならば、我が身もまた、魔王として応えよう」


 レグニスの目は、既に前線を見据えていた。


「魔核を凍結する……それが最も現実的な策だ」


 その言葉に、幕舎の中の魔術師たちが息を呑む。


 レグニスが口にしたのは、遥か昔、語り部によって記録された“封印の手段”。

 強大な魔核の活動を一時的に止めるため、絶対零度に近い凍結魔法で核ごと封じる——それは、魔王でなければなし得ぬ領域の魔術だった。


「……しかし、我ら魔術師だけでは不完全。私も術式に加わる」


 その決断に、幕舎内の者たちは言葉を失う。




 そして数刻後——


 戦場では地響きが続いていた。無数の魔物たちが襲来するなか、アデルナ王国の兵たちは決死の覚悟で前線を維持していた。


「押し返せ! ここを抜かれたら、すべてが終わるぞ!」


 レオンハルトの声が響く。自ら剣を振るい、血を流しながらも兵たちを鼓舞し、前線を支えていた。


 その背後では、魔王国の飛行部隊が空を制し、魔術砲が次々と炸裂する。

 だが、飛竜——その腹に魔核を抱く異形の魔物は、まるで死をも恐れぬように暴れ狂っていた。


「魔素障害発生! 退避を——ッ!」


「耐えろ! あの飛竜を止めるんだ!」


 その瞬間、空が凍り付いたような気配が満ちる。


「……我が魔力よ。凍土の眠りを与えよ」


 レグニスが浮上し、詠唱を始める。


「《氷封絶域・深層第七環》……」


 大地が震え、空間が歪む。

 飛竜の動きが鈍る。


 咆哮を上げ、全てを薙ぎ払おうとする飛竜に、レグニスは手を伸ばした。


「氷結せよ──!」


 その一言とともに、蒼い光が飛竜を包み込む。

 氷の結晶が瞬く間にその身を覆い、動きを止めていく。


 魔核からは耳を裂くような悲鳴のような魔素波が発せられた。

 それでも、レグニスは手を止めず、氷を深く、深く押し込んでいく。


 ……しかし——


「っ……駄目だ、まだ……魔核が……」


 氷の中で、魔核が熱を放ち、竜の内側から氷を溶かそうとしていた。

 凍結の進行が鈍り、完全凍結に至らない。


 魔王国の術師たちが魔力を集中させて補助するが、それでも足りない。


「くっ……!」



 その時——


「──間に合って!」


 前線に駆けるようにして、アヤが現れた。


 研究棟での分析と記録の再読を進めていたアヤは、かつて前世で“凍結封印”の術式を提唱した研究者の存在を思い出していた。


「飛竜は倒さないで! 完全に封じるには、凍結し、一定の封呪をかけなければ……今、倒せばウイルスが拡散するわ!」


 アヤは叫びながら、氷結魔法の補助陣を起動させた。


「レグニス、あと数秒だけ耐えて……!」


「……あぁ、来てくれたか、アヤ」


 彼女の魔力が結界を形成し、凍結の核心に触れる。魔核の動きがわずかに沈静化し始めた。


 そして——アヤはレグニスが施した凍結に、液体をかけた。


 周囲の魔術師たちは驚きの声を上げる。


「液体……?」

「と、溶けてしまう!」


 だが次の瞬間、溶けるどころか竜はさらに凍っていった。

 その液体は、液化窒素——−196℃の超低温の液体。


 蒼白い蒸気が立ち込め、竜の咆哮が凍りつくように止まった。


「触れないで! 危ないから!」


 アヤは驚いている一同を見回し、にっと勝ち誇った笑みを浮かべた。

「これは、普通の氷じゃない。後で詳しく説明するけど−196℃で、空気を圧縮・冷却して液化したもの」

足元に転がっている魔物の死体に液体を掛ける。

瞬く間に凍る前足.....。

その上にアヤは石を落とした。

パリンッ........砕ける前足。血液すらも凍った結晶のように物体と化して砕けている。


畏怖の表情になる一同。

(やりすぎた.....かな)

アヤは小さく咳払いしながら、この場を治めるためにレグニスに向き直った。


「レグニス、私の魔力と共鳴してこの竜を研究棟の特別室に運べるかしら?」


 レグニスは息を整え、魔力の残量を確認し静かに頷いた。


「……可能だ」


 アヤはホッと息を吐き、彼に寄り添った。

(良かった......。間に合って)




 レオンハルトは剣を掲げ、全軍に向けて声を上げた。


「勝鬨を上げよ──!」


 連合軍の兵士たちが一斉に武器を掲げ、勝利の咆哮を放つ。

 荒れ狂っていた戦場に、束の間の静寂が訪れる。




 だが、まだ終わってはいない。

 魔核は……まだ死んではいないのだ。

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