ー幕間ー乙女心
──帝都・中央議事堂──
帝国の医療技術共有と視察が本格化して数日。アヤと各国の医術士たちは皇帝エドワールの招きを受け、帝都に設けられた最新の培養施設や隔離区域、研究設備の視察を進めていた。
アデルナ王国、魔王国、そして帝国。三国合同の視察チームは、日々組み分けを変えながら知見の共有に励んでいる。
その中心にいるアヤは、皇帝との協議を経て、正式にセイラン=ヴァルメルを「技術交流大使」に任命することを提案し、すでに承認の手続きを進めていた。
セイラン自身も落ち着いた態度でそれを受け入れ、視察チームのまとめ役として振る舞っている。
一方、アヤとレイ――魔王レグニス――の間には、視察の合間を縫って、短くも密度の濃い時間が存在していた。
中庭の片隅。夜風に髪をなびかせながら、アヤが静かに呼吸を整えていると、レイがそっと隣に立つ。
「制御、うまくいってるか?」
「……うん。昨日よりは、だいぶ慣れてきた。ありがとう、レイ」
魔力の暴走を抑えるために、魔素の流れを意識して調整する――その手法の確認と調整を、ふたりは毎日欠かさず行っていた。
周囲から見れば、それは「仲睦まじい恋人同士の逢瀬」のように映ったのかもしれない。
──中庭──
木陰に隠れて視線を送っていたミレイが、手で口元を押さえてふるふると震える。
「ちょ、ちょっと見た? いま、アヤさんと……レ、レグニス様よね? あんなに近くで……!」
隣にいたサリアが、目を丸くしながら囁いた。
「これ、確定じゃない? なんか……ふたりの空気、違いすぎるっていうか……! わたし、あんな雰囲気、読んだことあるもん! 恋愛小説で!」
「ちょ、待って! それじゃ、アヤさんって……魔王妃候補ってこと!?」
こっそり視察スケジュールを持っていた事務担当のラミルまで目を輝かせながら参戦する。
「う、うそ……すごい……! 恋と魔力訓練が一緒に進んでるなんて……乙女ゲームかなにかですか!?」
視察の合間、医術士たちの間でアヤとレグニスの噂は、静かに、しかし確実に広がっていった。
──食堂──
ある日の昼休み。
食堂の端で、アヤがレイと簡単な昼食を囲んでいた。
魔力訓練についての記録を共有しながら、淡々と話すその姿――。
しかし、廊下から見ていたリリィが、手を口元に当てて小さな声で囁いた。
「……ねぇ、もう、これ、絶対つき合ってるでしょ……」
「ほら、アヤさんがちょっと笑った! いま、あの、ちょっとだけ……はにかんだような!」
「キャーっ、そんなの反則……! 魔王様の笑みもレアだし、貴重すぎて記録したい!」
「いや待って、職務中だよ私たち……でも、これ尊い……」
隅の方で歓喜と妄想を膨らませる医術士女子たち。
──廊下──
視察から戻る途中、アヤとレグニスが魔素制御について囁き合う場面が再び。
レグニスがほんの少しアヤに身体を寄せ、視線を合わせる。
「次回の練習、神殿にするか? 誰にも邪魔されない」
「うん、……ありがとう、レイ」
そのやり取りを遠くから目撃したミレイたちは、即座に回廊の陰に隠れて、顔を見合わせた。
「これ、もう間違いないよね……」
「私たち……すごい場面に立ち会ってるのかも……」
噂は視察団の若手に限らず、控えめな研究者や書記官にまでじわじわと広がっていった。
──ある晩、アヤはその噂の一端を耳にする──
「レグニス様と、付き合ってらっしゃるんですか?」
質問したのは、新人医術士の少女だった。無邪気な笑顔と、純粋な興味。
アヤは目をぱちぱちと瞬かせ、頬を赤らめて俯いた。
「え、そ、そんなこと……ない、と思う……けど……」
頬が熱い。
声がうわずる。
冷静な返答など、できるはずもなかった。
そのやり取りを遠くから見ていたレイが、アヤの反応に気づいたのか、柔らかく微笑んで近づく。
「アヤ。そろそろ時間だ。次の視察準備に移ろう」
「は、はい……!」
返事は完全に裏返っていた。
微笑みを浮かべるだけのレグニスと、顔を真っ赤にして逃げるように去っていくアヤ。
その様子に、またひとつ噂が生まれた。
「ねぇ、もしかして……両想い、なのに気付いてないやつ……?」
「ていうか、アヤさんが自覚してないだけなんじゃ……?」
「きゃあああ、そういうの一番好き……!」
帝都の視察という緊張の空間で、ひとつだけ咲いた“乙女の妄想の花”は、今日も密やかに膨らんでゆく。
乙女たちの、ちょっとした息抜き?を
彼女たちの観察眼で、アヤとレグニスの色々を私にも教えてほしい(願望)




