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招待状

──ノクス=フィア 拠点・執務棟──


 穏やかな朝陽が、診療棟の白い壁を照らしていた。昨日までの雨が嘘のように空は澄み渡り、遠くで若手たちの声が交差している。


 その静けさを破るように、執務棟の扉が慎重にノックされた。


 「帝国から、正式な文書が……」

 報せを受けたアヤは、静かに立ち上がると手渡された封書を受け取った。


 封蝋には、帝国の双頭鷲の紋章。差出人は――「エドワール=カストリア皇帝」。

 淡い緊張が、場の空気を引き締めた。


 手紙は丁寧な筆致でこう綴られていた。


「帝国は、医術士アヤ殿ならびにノクス=フィアの医術連携団を、

帝都カストリアへと公式に招待いたします。

本招待は、帝国の今後の医療・衛生政策において貴重な知見と協力を賜りたく存じるものであり、

貴殿らが築かれた実績を心より尊重するものです」


 文末には、エドワール皇帝自らの署名と、皇印。

 文面は理知的かつ丁重だったが、その背後にある緊張と重みは、読み手をして容易に感じ取れるものだった。


 アヤは息をひとつ吐き、ゆっくりと視線を窓の外へと移した。


 ……帝国が、正式に「扉を開いた」。


 その事実だけでも、かつてなら想像もできなかったことだ。

 帝国至上主義を掲げ、反するものは全て認めない......。

 過去、帝国に行った際に皇帝の孫の治療を行った。

 帝国の医術では救えなかった命。

 その時に認められた"医術士"としての自分。


 だが、同時に懸念もまた生まれる。

 これまでの帝国の行動を思えば、裏に何らかの思惑があることもまた確かだった。


 その予感は、アデルナ王国にも、魔王国にも届いていた。




──アデルナ王国・王城 謁見の間──


 報告を受けたレオンハルトは、沈黙のまま招待状に目を通していた。


 「……帝国が、名指しで“アヤを”招くとはな」


 隣で待機していた側近が、慎重に言葉を選ぶ。


 「陛下。これは……罠の可能性も否定できません。あの帝国が、真正面から招くなど――」


 レオンハルトは短く首を振った。


 「危険はある。だが……アヤは、すでに選び続けている。

 恐れて動かなければ、何も変わらないことを、誰より知っているはずだ」


 そして静かに続けた。


 「……アヤが“行く”と言えば、我らはその背を守る。ただそれだけだ」

 

 



──魔王国・議事の間──


 魔王国の議会にも同様の報が届いた。


 議場には重苦しい空気が漂っていた。

 「帝国の本心は見えぬ」「また医術士殿を狙う気では」と、懸念と怒気が交錯する。


 そんな声を制したのは、玉座に座る魔王レグニスだった。


 「決めるのは、アヤ自身だ」


 議員たちは戸惑いの面持ちを見せたが、誰も反論はしなかった。


 「我らがすべきは、彼女が何を選ぼうと“備える”こと。

 もしも帝国がまた剣を向けるなら……私は迷わず、その心臓を穿つまでだ」


 その言葉に、魔族たちは静かに頭を垂れた。





──ノクス=フィア 拠点・執務棟──


 その夜、執務室には若手の医術士たちが集められていた。


 アヤは机の前に立ち、一通の文書を掲げて言った。


 「これは帝国からの公式な招待状。

 私たちの活動を“医療・衛生の連携”として認め、さらなる交流を望むと記されている」


 室内にはざわめきが広がった。

 「帝国と?」「まさか正面から?」という声が次々に飛び交う。


 アヤは一つ一つ頷きながら、続けた。


 「ただし、危険もある。帝国には、私たちの存在をよく思わない勢力もあるでしょう。

 だからこそ、私は決めました」


 その瞳が、真っ直ぐに若手たちを見つめる。


 「行くかどうかは、強制しません。――“行きたい”と願った者だけで行きます」

 「それが、命を預かる者としての、覚悟のはじまりだから」


 静かだった空間に、やがてひとつ、またひとつと手が上がる。

 サリアが、ミレイが、フェルが……そして多くの若者たちが、その意思を示した。


 アヤは、彼ら一人ひとりの目を見て、深く頷いた。


 「ありがとう。必ず、全員で帰ってこよう」


 その言葉には、不安も恐れもあった。

 それでも――彼女たちは、“行く”ことを選んだ

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