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村での最初の手当て ―ケガの少年―

フェリア村での生活が始まって、まだ三日目のことだった。


その日、彩子はアンナと共に、村の広場近くを散歩していた。

子どもたちが数人、楽しそうに木登りをしているのが見えた。


「あっ、アヤ、あれ見て! あんな高いところまで登ってる!」


アンナが指差した先には、小柄な男の子がいた。

無邪気な歓声が広がる中──


バキッ。


甲高い音とともに、子どもが乗っていた枝が折れた。


「きゃっ──!」


次の瞬間、少年の体が枝から滑り落ち、地面に叩きつけられる。


「リオ!!」


子どもたちが駆け寄り、悲鳴が上がる。

少年──リオはうずくまり、うめき声を上げていた。


「ちょっとみんな下がって、誰か男の人を呼んできて」


彩子はリオの状態をすばやく目視しながら、指示を出した。


(意識はある。目立つ外傷は──)


右足のすね部分が不自然に膨らんでいる。

彩子は両手でリオの頭から首、肩、腕、腹部、背中、脚へと丁寧に触れていった。


「痛い!」


右足の腫れた箇所をリオが痛がる。

(これは単純な打撲じゃない──骨折だ)


膝から下の骨は二本。そのうち、太い脛骨が折れていると判断した。


バッグからハンカチと拾ったばかりのしっかりした木の枝を取り出す。


「アンナ、お願い! できるだけ真っすぐな枝を、あと二、三本探してきて!」


「うん!」


アンナはすぐに駆け出した。


リオは痛みに耐えて涙を滲ませていたが、彩子はそっと微笑みかけた。


「大丈夫、ちゃんと手当てするからね。怖がらなくていいよ」


リオの足を慎重に固定しながら、丁寧に副木を作る。

やがてアンナが戻り、さらに固定を強化した。


そこへ呼ばれたリオの父親が駆けつける。


「骨が折れていると思います。そっと、動かさないように運んでください」


リオが寝かされると、彩子は自宅に走り、何やら荷物を持って戻ってきた。


「骨折すると発熱します。患部を冷やしましょう」


取り出したのは、水を張った桶と、昨晩読み終えたばかりの薬草学の本。

薬草の図を示し、リオの父親に採取を頼み、母親には水の交換を指示する。


9歳のリオは顔が赤く、発熱の兆候を見せていた。


(魔法で治せるかも)


彩子はハンカチを患部に広げた。


「リオ、がんばれ!」


そっと右手を患部に、左手でリオの手を握る。

──骨が元通りになるイメージを強く思い浮かべた。


すると、不思議なことに、右目にはまるでレントゲン写真のように骨の内部が透けて見えた。

子どもの骨は大人より柔らかい。完全な断裂ではなく、折れかけた状態だ。


ほんの一瞬、ハンカチがほのかに光った。


(──良かった、骨が戻った)


副木をそっと外してみる。


「あ!」


小さな声が上がった。


「腫れがない!」


「良かった!!」


両親が歓喜の声を上げた。


彩子はほっと小さく息を吐き、慎重に言葉を選びながら伝えた。


「骨折は治りました。でも、落ちた衝撃が身体に残っているかもしれないので、今日と明日はベッドで安静にしてください」


頭部の打撲の可能性も考慮していた。症状は時間が経ってから出ることもある。


自らの意思で初めて使った魔法。

当直明けのような、軽い気怠さはあったが、心地よい疲労だった。


(──私にもできることが、みつかったかもしれない)


小さなあくびを噛み殺しながら、彩子は静かに自宅へと戻っていった。


アヤの前世の知識と魔法という新しい力を初めて意識して使いました。

実は、アヤ(彩子)は家事ができません。www.....

掃除、洗濯はもちろん、料理もです。この先の生活はどうなるのでしょうか...


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