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【王と母の策謀 ―静かなる布石】

──アデルナ王宮・離宮応接室(発表前夜)


重厚な扉の向こう、扉の隙間から漏れる灯の下で、皇太后セレナと王レオンハルトが向かい合っていた。


「……本当に、あの場で明かすのね?」


セレナは椅子に腰掛けたまま、静かに問いかける。


「ええ。“事実”は誰かの口から出た瞬間、真実になる。ならば、“私たちの口”で語らなければ、歪められる前に光に出さねばなりません」


レオンハルトは立ったまま答えた。声は穏やかだが、その奥には強い意志があった。


「王家が命を預けた医術士。その重みは、誰より私が知っている。そして──誰より、彼女を守りたいと思っている」


セレナは息を吐き、ゆっくりと茶器を持ち上げた。


「……あなた、本当に似てきたわ。あの人に」


「父上に?」


「ええ。“好きになった相手のためなら、王の威光を傘にしてでも庇う”。──あの人も、そういう王だった」


イザリアの声に、懐かしさと痛みが混ざっていた。


「貴族たちの中には、私の快気祝いを口実に“彩子を王妃に据える布石”だと騒ぐ者も出るでしょうね」


「ならば、“騒ぐ価値のない既成事実”にしてしまえばいい。 王家の恩人として正式に認められれば、下手に手出しはできません」


レオンハルトは手元の巻紙を掲げた。それは、セラフォード公爵家の証言書だった。


「ここまで来たのです。もう、“水面下”の均衡では守りきれない」


セレナは一口、紅茶を含んで言った。


「……あなたの想いが本物ならば、私は“女”としてではなく、“王の母”として、それに力を貸しましょう。 でも忘れないで。政治とは感情だけで動かせるものではない。あなたが守ろうとする彼女を、あなた自身の手で危機に晒さないで」


「覚悟はあります」


レオンハルトの瞳には揺らぎがなかった。



セレナはやがて微笑んだ。


「ならば、明日は堂々と語りなさい。“王としてではなく、男として、ひとりの命に礼を言う”と」


彼は静かに頷いた。


──この母子のやりとりは、誰の耳にも届くことはなかった。

だがこの夜、アデルナ王国の未来を形づくる“ひとつの決断”が確かに交わされたのだった。


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