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―王都でのトラブルと、名も告げぬ助け手―

王都での翌日。

彩子は朝から市場通りを歩いていた。


「地元の薬草事情も見ておきたいし、何か珍しい物があれば村に持ち帰ってもいいわね」


レイは宿で留守番。彩子は一人、布の袋を提げて街中を散策していた。


市場は多くの人で賑わい、野菜、布地、香辛料──そして露天の薬草も並んでいた。

彩子は店先でハーブを選びながら、薬効や保存法を確認していた。


「すみません、この“グレイミント”って、乾燥させると効果が落ちますか?」


「へぇ、よく知ってんな。あんた薬師か?」


「ええ、少しだけ」


そんなやり取りをしていたときだった。


「おい! そこの女!」


突然、怒鳴り声が市場に響いた。

数人の男たちが、こちらに向かって歩いてくる。


(何?)


「てめぇ、昨日“王都の路地”で倒れてたヤツを勝手に診たろ? あれ、別の組の情報屋だったんだよ!」


「組……って、まさか……」


地元の裏通りを仕切るならず者たち。

彼らの縄張りでは、外部の者が勝手に手出しすることを極端に嫌う。


「病人を助けただけよ。そんなことに文句言う筋合いあるの?」


「なんだと? その口の利き方じゃあ、ここでの礼儀を知らねぇってことだな」

「ちっと教えてやんなきゃ、か?」

下卑た薄笑いを浮かべる男たち


周囲の空気が変わる。

店主たちは息を潜め、距離を取る。



(……まずいわね)



彩子は周囲を窺い退路を探す。

自分がいざというときに戦闘で圧倒できるタイプでないことも理解していた。

多少の護身術は知っていたが、はたして通用するのか?



男の一人が腕を振り上げた──その瞬間。


「そこまでだ」


静かだが、鋭く通る声が響いた。



人混みの中から現れたのは、一人の青年。

上質な外套をまとい、隠そうとしてもにじむ品の良さと気迫。


「こっちは私の連れだ。手を出せば、ただじゃ済まさない」


男たちは一瞬たじろいだ。

だが、リーダー格の男が睨み返す。


「なんだテメェ……貴族気取りか?」


「“気取り”でここまで来れるなら、誰も苦労はしないさ」


皮肉めいた言葉に、男たちは一瞬、言葉を失った。


そして──背後に現れた数人の黒衣の男たちに気付いた。

いつの間にか、取り囲まれている。

分の悪さを自覚してたじろぐ仲間達。


「……ちっ、覚えてろよ」


男たちは舌打ちを残し、渋々その場を後にした。




青年はフードを被っているため顔ははっきり見えない。


(……どこかで、見たような)


「君、大丈夫か?」

青年の付き人が彩子に声を掛けた。


「え、ええ……助けてくれて、ありがとうございます」


青年は微笑み、軽く頭を下げると、そのまま通りの雑踏に紛れて歩き去っていった。


「……アルバート?」


そう呟いたときには、もう姿は見えなかった。


彩子はふっと息を吐いた。


「どうして……?」


けれど、彼が誰なのかを深く考えることはしなかった


──ただ、一つだけ確かだった。


彼は、自分を助けた。

何も告げずに、ただ静かに。まるで“影”のように。


もともと権力や派閥などの力関係には疎い。

(考えても仕方ない.....)

お店の人たちに同情されつつ、彩子は宿に戻った。




レイに怒られ説教されているうちに彩子は昼間の出来事を記憶の片隅に追いやった。


「アヤ、今度は僕も一緒に行くから。ダメと言っても付いていくよ」

「子供じゃないんだから…」

「いけません!」

メッという表情で彩子を見るレイは、まるで保護者のよう。


(私の方が年上なんだけどなぁ)

苦笑しながら素直に「はい」と返事する。



家事を取り仕切るレイの方が1枚上手になっていた。

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