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―レオンハルトとの出会い―

──それは、ある陽気な午後のことだった。


フェリア村での生活に戻ってから、ひと月ほどが過ぎたある日。


「少し腰が痛んでな……」


往診に訪れた彩子は、アンナの父の様子を診ながら、軽くため息をついた。


「骨に異常はなさそうね。大したことはないけど、数日は無理しないで安静にしてて」


「はあ……でも王都に薬草を納品せにゃならんのだがな」


薬草は村にとって大切な収入源。

中でも、王都のクレイグ商会傘下の薬草問屋への定期納品は重要な取引だった。


「私が代わりに行こうか?」

ふと思い出したのは、以前王都から訪ねてきた商会の男。


「薬草は生ものだし、早めに納めたほうがいいでしょう?」


その一言で話は決まり、代理納品が決定した。


「僕も行きます!」


声をあげたのはレイだった。

結局、村の者たちの後押しもあり、馬の扱いに慣れたレイと共に行くことになった。




──数日後。


「陽の高いうちに出ましょう」


薬草を積み込んだ荷車に乗り、二人は王都へと出発した。

道中は順調で、王都への到着と納品は問題なく済んだ。


用意されていた宿にチェックインを済ませた後、彩子はレイに言った。


「ちょっと、“クレイグ商会”に行ってみようと思うの」


「お供するよ」

にやりと笑って上着を羽織るレイ。


道を尋ねながら歩くことしばし、二人は立派な屋敷の前にたどり着いた。


「……すごいわね、まるで貴族の邸宅みたい」


彩子が感嘆する隣で、レイは眉をひそめた。

だが、そのとき──


「あっ、アヤさん!」


以前出会った商会の使いの男が扉の向こうから駆け寄ってきた。


「ようこそお越しくださいました! ぜひ中へ!」


案内されるままに屋敷の中へ通される。


その様子を、二階の窓辺から見下ろす影があった。


「……こんなに早く会えるとは思わなかったな」


その声に応えるように、部屋の扉がノックされた。


「ご主人様、客間にお通しいたしました」


「ご苦労」




──客間。


「お待たせしました」


穏やかな笑みを浮かべて現れたのは、ブラウンの髪の若き男。

──アルバート・クレイグ。


「アルバート・クレイグです。先日は当家の者を助けていただき、ありがとうございました」


そう名乗ったその男こそ、王であるレオンハルト・アデルナが民の姿で在る時の偽名だった。


「“アヤ”と呼んでください。こちらはレイ、訳あって預かっている子です」


まったく臆する様子もなく、礼儀正しく挨拶する彩子。

その自然体に、アルバート──いや、レオンハルトは小さな驚きを覚えた。


(……誰だって、俺の顔に“何か”を感じるはずなのに。クレイグ商会という名前にも動じない?)


名も家も誇らず、媚びず、目をそらさず、ただまっすぐに話すその姿は、彼にとって新鮮だった。


「あなたは薬師なのですか?」


「そうですね。魔法も少し使えるので“医術士”とも呼ばれていますね」


「お噂は伺っております。非常に評判がよいとか。

治療院などは開かないのですか? 開くなら、ぜひ当商会が後押しを──」


「ありがとうございます。でも、今はまだ考えておりません」

(……また言われたわね)


先日、魔族の里でも言われた言葉。

治療院を開け、という期待と提案。


「機会がありましたら、そのときはよろしくお願いします」


そう返しながら、彩子は目の前の男の横顔をふと見た。


──なぜだろう。

いろんな人を見てきたはずなのに、

この“アルバート”という男は、なぜか記憶に引っかかる。


(……なんか、改めて見つめられると……ドキドキするわね)


まさか目の前の人物が、アデルナ王国の王──レオンハルト本人だとは夢にも思わず。

それでも、胸のどこかが、ざわついた。


(ま、色恋とは縁がないから)


心の中でそう言い聞かせながら、彩子は笑ってその場を和ませた。


──短い談笑を終え、商会を後にする二人。


夕暮れの王都は、どこか温かく、そしてざわめいていた。


「アヤ、さっきの人……妙に落ち着きがあったよね」

ぽつりと呟くレイ。


「そうね……ただの商会の主って雰囲気じゃなかったような……」


けれど、その正体に気づくには、もう少しだけ時間がかかることになる。


彩子は、ただの“巡り合わせ”だと思っていた。


この出会いが、やがて国の命運を左右するほどのものになるとは──

まだ、誰も知らない。


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