異世界での目覚め
「寝過ごした!?」
思わず叫びながら、彩子はガバッと体を起こした。
身体が軽い。だが同時に、妙な違和感があった。
(……ここ、どこ?)
当直勤務では、目覚ましがなくても自然に時間で起きる癖がついていた。
仮眠中もピッチ(業務用携帯端末)のコール音でたびたび起こされ、
そのたびに無意識のうちに反応してきた。
──今も、何かの物音がした気がして、反射的に飛び起きたのだ。
周囲を見渡す。
そこは病院でも仮眠室でもなかった。
柔らかい草の匂い。
暖かな木漏れ日。
木々に囲まれた、小さな森の中。
「おはよう」
クスクスと楽しそうに笑いながら、声をかけてきたのは──見知らぬ少女だった。
亜麻色の髪を肩で切り揃え、薄いグリーンのワンピースを着た少女。
年の頃は、10代後半から20代前半くらいだろうか。
優しげな笑顔を浮かべながら、彩子のそばにしゃがみこんでいた。
「私、アンナ。あなたは?」
「アヤコ・シノハラ」
「?.....難しい名前ね」
(難しい?)
「アヤ...でいいわ」
「アヤね!ここに倒れてたからすっごくびっくりした!」
少女──アンナは、まるで長年の友人にでも話しかけるような口ぶりで言った。
「……えっと、ここは?」
声を震わせながら尋ねた彩子に、アンナは太陽のように屈託ない笑みを向けた。
「ここは、エルネアの森だよ。
──アヤ、何か怖い夢でも見てた?」
その言葉に、彩子の胸に鈍い痛みが走る。
(……事故。救急車。……青年の手。
──あの光景は、夢だったの?)
ぼんやりとした意識の中で、現実感のない感覚だけがじわじわと彩子を支配していった。
自分がどこにいるのか。
なぜここにいるのか。
──何もわからない。
ただ一つだけ、はっきりしていた。
(……生きてる)
鼓動が、胸を叩いている。
息をしている。
自分の体が、確かにここに存在している。
「……ありがとう、アンナ」
そう呟くと、彩子はそっと膝を抱えた。
胸の奥に広がる、得体の知れない空白と、これから始まる何かへの直感的な予感を抱きながら──。
まずは目覚めました。
いつもの癖で起きちゃうことぅてありますよね。彩子はまだ状況把握できてませんが、少しずつ解ってくると思います。お読みいただきありがとうございます。