―王と帝の視線―
アデルナ王国・王都
「……フェリア村?」
一枚の報告書を手に、若き国王──レオンハルト・アルバート・アデルナは眉をひそめた。
報告にはこう記されている。
──辺境の小村にて、帝都より流入した感染症が発生。
しかし、魔法の効かぬ病に対し、村の一女性が“別の技術”で完全鎮圧。
死亡者ゼロ、回復率100%。
「魔法が通じぬ病に、三週間で全快……? それが、“アヤ”という女の仕業か」
報告書の一節には、確かに“彩子”の名が記されていた。
王の瞳に浮かぶのは、興味と警戒──両方だった。
「……医療とは、魔法とは別の技術。
ならばそれは、場合によっては“武器”にもなる」
レオンハルトは静かに立ち上がり、窓の外に目を向けた。
「まずは、見極める必要がある。敵か、味方か──」
その声は、風に紛れるように低く鋭かった。
王が極秘裏に進めている“王都医療対策チーム”の結成。
その中核に、彼女が加わる可能性が浮上しつつあった。
帝国・帝都 ザラディア
同じ頃、アデルナの西に広がる大国──ザラディア帝国。
帝都中央府にて、宰相の元へ一通の密告書が届いていた。
──辺境の村に、魔法に頼らぬ医療を操る“異邦の者”あり。
魔族の癒しにも類似せず、独立した知識体系を持つ。
災厄の収束に貢献。名はアヤ。出自不明。
「……異邦の者。常識の外にある存在、か」
宰相はその報告書を、無言で皇帝へ差し出す。
「陛下。彼女の知識は、帝国の医術研究においても──
脅威であり、同時に価値でもあります」
「ふむ」
皇帝は興味を示しながらも、表情は崩さなかった。
「ならば──調査せよ。ただし慎重にな。
アデルナの王が、同じ情報を掴んでいないとは限らぬ」
「はっ」
静かに、だが確実に──
“アヤ”という名が、帝国と王国という二大勢力の中枢に刻まれ始めていた。
フェリア村
その頃。
彩子は、相変わらず村の片隅で、
レイとともに薬草を摘み、
村人たちの診察や食事の相談に応じる、穏やかな日々を過ごしていた。
──けれど、その背後に迫る影に、まだ誰も気づいていなかった。
その名は、“医術士アヤ”。
今、世界がその存在に──静かに、しかし確実に注目し始めていた。
―設定ー
アデルナ王国/国王
名前:レオンハルト=アルバート・アデルナ(Leonhart=Albert・Aderna)
年齢:28歳、性別:男性
身長・体格:185cm、引き締まった筋肉質な体型。無駄な装飾を嫌う実戦派。
髪・瞳:金髪、瞳は澄んだ蒼色。
金髪と蒼の瞳ははアデルナ王族特有の血統の証とされる。
外見の印象:威圧感のある鋭い美貌だが、笑うと年相応の青年らしさが垣間見える。
婚約者:なし