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新しい命

──二年後・魔王城──


 柔らかな朝陽が降り注ぐ黎明の庭。

 白銀の羽を持つ鳥たちが、澄んだ空を旋回し、薄紅の花々が揺れる中、アヤは静かに草花の間を歩いていた。


 春の訪れは、この世界でも命の芽吹きを祝福するように穏やかで、あたたかい。

 ふと足を止めて、アヤは自らの腹に手を当てた。


 (本当に、……この中に命がいるなんて)


 少しずつ、確かな実感を伴ってきた鼓動。

 数日前、正式な診断を受けたアヤは、「懐妊」という言葉の響きにまだ戸惑っていた。


 それでも、どこか満ち足りた気持ちが胸の奥からあふれてくる。


 足音を立てぬよう、背後から近づいてきたレグニスがそっとアヤの肩に手を置いた。


 「……ここにいたのか、アヤ」


 彼の声は優しく、少しだけ掠れているようにも聞こえた。

 アヤは振り向いて微笑む。


 「おはよう、レイ。今日は政務、早くない?」


 「早めに切り上げてきた。……どうしても、君の顔が見たくて」


 そう言って彼女の手を取り、掌を彼女の腹に重ねた。


 「……あたたかい。……君の中に、新しい命があるんだな」


 その言葉に、アヤの目元がふわりと緩む。


 「まだ、小さな芽生えだけど……でもね、私、自分の身体が変わっていくの、初めてじゃないのに、やっぱり不思議な気持ちになるの」


 「前の世界の記憶か……それでも、この子は、この世界に生まれる、俺たちの子だ」


 レグニスの眼差しは、深く揺るぎない光を湛えていた。

 彼はアヤの手を引き、二人で庭の中央にある大樹の下へと向かう。


 ──その後、魔王城では密かに、しかし確実に“喜びの気配”が広がっていた。


 第一報を受けたのは、レグニス直属の側近、ユノスだった。


 「……アヤ様が……? お子を……?」


 驚愕と喜びに目を見開き、声を抑えながらも震えるような喜びを伝えた。

 次に知ったのは、魔術塔でともに研究を行っていたフェル。


 「アヤ様が母に……いや、もう……感無量ですね」


 そして医術院の若手、ミレイとサリア。


 「うわっ、すごい……おめでたいです!」

 「赤ちゃん……アヤさんが……うれしい……!」


 魔族と人間、そしてあらゆる種族を超えた“命の結びつき”。

 その知らせは、やがて魔王国全土に静かに、だが大きな波紋を生んだ。


 ──「アヤ様が、新たな命を授かった」と。


 王族の懐妊である。

 それは単なる家族の拡張ではない。

 新しい未来の象徴。

 

 そして何より、それが“人間”であるアヤと、“魔王”であるレグニスとの間に授けられた命だということ。


 それは多くの民にとって、種族の違いを超えた愛と共存の実例であり、希望であった。


 

 ──魔王国・王城謁見室──


 祝賀の儀は、あくまで静かに、しかし国を挙げて行われることが決定された。


 「民には、日常の中で祝ってもらいたい」

 「我らの喜びが、すべての者に届くように」


 そう言ったのはレグニス自身だった。

 アヤの身体を案じ、静かな式典の形を取りながらも、王城の外では至る所で花々が飾られ、祝辞の紙灯が舞い上がった。


 夜には光の祝祭が行われ、天に向かって輝く魔光が連なった。


 アデルナ王国からも、親書と贈り物が届けられた。

 レオンハルトからの直筆である。


 >「彩子殿へ。心からの祝福を」

 >「そなたの歩んだ道に、新たな命が加わることを、我が国の誇りとも思っている」


 アヤはその文を静かに読み、涙をこぼした。


 「ありがとう、レオン……」


 

 ──夜。魔王城の寝室──


 祝賀の余韻が残る中、アヤは静かにベッドに腰を下ろしていた。


 窓からの月明かりが彼女の頬を照らし、レグニスは彼女の隣にそっと座る。


 「……皆が、祝ってくれたな」


 「あんなに多くの人が、私たちのことを想ってくれるなんて……」


 アヤは、ゆっくりと自らの腹を撫でながら、呟く。


 「この子には、たくさんの愛が集まってる……それって、とても幸せなこと」


 レグニスは彼女の肩を抱き、額に口づけた。


 「この命は、君が命を賭して守ってくれた世界が育んだものだ。俺は、それに報いよう」


 「……レイ」


 静かに、アヤはレグニスの胸に身体を預けた。


 「あなたとなら、きっとどんな未来でも越えていける。だって……あなたがいるだけで、私は強くなれるから」


 「君と出会って、俺の世界は変わった。これからも、君とこの命と共に歩んでいく。それが俺の願いだ」


 暖かな抱擁の中、ふたりは静かに目を閉じた。


 祝福の灯が、ふたりの未来を照らす——


END

ここまでお読みいただきありがとうございました。

仕事一筋のアヤがレグニスにじっくり、しっかり包囲され愛を自覚した次第です。

この本編では書けなかった"番外編"などもチョイチョイ載せる予定です。

嫉妬するレオンハルトとか.....、ミリムの『アヤさん観察日記(仮)』とか、レグニスの日記風なアヤ観察日記?とか.....。

他に書きたいかも、なのは『もしもレオンハルトを選んでいたら』とか?

ちなみに、アヤは救命救急だけでなく、内科、外科、小児科、皮膚科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、在宅訪問医療など経験してます。

ありがとうございました^^

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