表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/104

―恩返しと驚きの朝―

朝の光が差し込む気配に、彩子はゆっくりと目を覚ました。


(……あれ?)


書庫の床に寝落ちしていた自分に気づき、体を起こす。

毛布の感触があたたかい。誰がかけてくれたのかは、考えなくても分かった。


隣を見やると──レイの姿がない。


「……帰った?」


少しだけ胸が締め付けられた。

無理もない。彼は魔族で、自分の正体を隠している。

助けたとはいえ、信用しきれないのは当然だ。


(でも……帰れるくらい元気になったなら、それでいい)


そう思いかけたとき、リビングのほうから小さな物音が聞こえた。


──カタン。


(え?)


彩子は立ち上がり、書庫の扉をそっと開いた。


目に飛び込んできた光景に、思わず声を漏らす。


「……え?」


昨日まで雑然としていたリビングが、まるで別の家のように整えられていた。

床は磨かれ、家具にはホコリ一つなく、窓ガラスは陽光を反射してきらめいている。

キッチンも、まるで調理器具の展示室のように整然と輝いていた。


そしてその中央に、エプロン姿で立っていたのは──


「おはようございます」


レイだった。

昨日とは違い、表情には少し余裕すらある。穏やかで、微笑んでいた。


「ど……どういうこと?」


彩子は戸惑いを隠せないまま訊ねた。


レイはまっすぐ彩子を見て、真面目な顔で答える。


「夕べ、いろいろ考えました。僕、自分にできることは何か?って。

今は、ここに匿ってもらってる。だったら、恩返しがしたいと思って」


言葉に迷いはなかった。


彩子はその場でがっくりと膝をついた。


(……いや、確かに私は家事が苦手だけど)


現実を突きつけられて少し複雑な心境になりながらも、

家の中の変貌ぶりに内心で拍手を送りたくなった。


ふと、気になって尋ねる。


「そういえば……額の角は?」


レイはにこっと笑い、首元から小さな首飾りを取り出して見せた。


「ありますよ、ここに。

これ、“封角ふうかくの飾り”っていうんです。

魔族の子供にときどき使われる簡易の封印具で、角を収納するのに便利なんです」


「なるほど……便利な文化ね」


「それと……」

レイは机の上の本を指差した。彩子が例の“読みにくい”と感じていたページだ。


「この章の部分、魔族語なんです。昨日、ここに“魔力の気配を薄める術式”があったので、試してみました。効果、出てますか?」


彩子は目を丸くした。


「……あぁ、だから。読めなかったのか。やけに意味が取れないと思ったら……」


納得と、ちょっとした敗北感が入り混じった複雑な表情を浮かべながらも、

彩子は素直に感心していた。


レイはまだ幼さの残る少年だ。

だが、自分で考え、自分で行動しようとする姿勢はしっかりしている。


(助けた命が、こうしてちゃんと“生きよう”としている)


彩子の胸に、小さな充足感が灯った。


--設定--

【魔族基本概念】

魔国(魔王国):長命

魔族は上位種と下位種に分かれる。

魔族の社会は基本的に強者が支配する実力主義。

上位種と下位種の間に明確な差別意識があるが、必要に応じて共存・協力することもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ