Replica in a Cage (意味深ばーじょん)
なんかさ、全然覚えてないんだけどさ。
小二くらいだったかな。
夏休みにじいちゃんちに行った時にさ……
「ねえ、じいちゃん、この人だれ?」
祖父の膝の上で、ミチルは古いアルバムを見ていた。
ミチルが指さした、兵士のような格好をした若い男性の写真を見た祖父は、悲しそうに笑う。
「それは、じいちゃんのお父さん。ミチルのひいじいちゃんだよ」
「ひいじいちゃん? じいちゃんの顔、してないよ」
ミチルがそう言うと、祖父は寂しそうに微笑んだ。
「そうだね。ひいじいちゃんは年がとれずに遠くに行ってしまったから」
「どこに行ったの?」
「遠い遠い海を渡って、そのままお空に行ってしまったよ。お空の高いところにね」
「えー、すげえ!」
ミチルが目をキラキラさせてそんなことを言うと、祖父は小さく声を上げて笑った。
◇ ◇ ◇
まったく、調子に乗っていつまでも川で遊んでるから。
呆れた母の声が遠く聞こえる。
「くそぉ、ついてねえ……」
高熱に浮かされながらミチルは呟いた。
せっかくじいちゃんちに遊びに来たのに。
ここには嫌な同級生がいないのに。
好き放題遊べると思ったのに!
二日目の夜に風邪引くとか、最悪だ。
お盆が終わっちゃう。
「ぷちゅん!」
ミチルはやや寒気を感じて、中途半端なくしゃみをする。
そのまま、すぅっと眠ってしまった。
『母上、またそんな高い肉を買って』
黒い髪のお兄ちゃんが、怖い顔をしてる。
『うちはもう収入がないんですよ。困ったな、落ち穂を拾いに行くしかないか……』
ものすごく貧乏そう。
でも、顔がめっちゃカッコイイ。
12歳の黒い髪の少年は、きっとこれから強い騎士になるんだろう。
そんな想像を、夢の中で考えたミチルは寝ながら笑う。
「ぷちゅん!」
もう一度、ミチルは小さなくしゃみをした。
『あのさあ、オジサン。子どもの遣いじゃないんだけど』
金髪で青い目をしたお兄ちゃんが、おじさん相手にすごんでる。
『ボスはこれで水に流してやろうって言うんだよ? ありがたく思わないと……ダメなんじゃなあい?』
あ、これ完全にヤンキーだ。不良だ。半グレだ。
でも、顔がめっちゃかっこいい。
16歳の金髪少年は、きっと裏道にいる人の気持ちがわかる優しい人になるんだろう。
そんな想像を、夢の中で考えたミチルは寝ながら笑う。
「ぷちゅん!」
もう一度、ミチルは小さなくしゃみをした。
『ざっけんなよ! 僕は父上のために人質になんかならないからな!』
おかっぱ頭のお兄ちゃんが、地団駄踏んでお爺さんに怒鳴ってる。
『ヒッヒッヒ、こうなったらやってやんよ。父上も真っ青になるほどの悪事を重ねてやる……』
うわあ……意地悪い感じ。いじめっ子だな。
でも、顔がめっちゃかっこいい。
15歳のおかっぱ少年は、逆境でもたくましく強気なギャル男になるんだろう。
そんな想像を、夢の中で考えたミチルは寝ながら笑う。
「ぷちゅん!」
もう一度、ミチルは小さなくしゃみをした。
『おい、もういっぺん言ってみろ。貴様の××を××して×××な×××にしてやろうか』
銀色の長髪のお兄さんが、よくわからない言葉で誰かを脅してる。
『ふ。それでいい。大人しくしていれば、極楽を見せてやるぞ……』
ヤバい。これはマジのやつ。絶対に近づいたらダメなやつ。
でも、顔がめっちゃかっこいい。
23歳の銀髪お兄さんは、下半身で君臨するどエロ師範になるんだろう。
そんな想像を、夢の中で考えたミチルは寝ながら笑う。
「ぷちゅん!」
もう一度、ミチルは小さなくしゃみをした。
『にいたん、にいたん、どこ?』
オレと同い年くらいの、肌の色が濃い男の子が泣いてる。
『ぼく、ひとり……? ぼくの、ぷるくら、いつ、会える?』
泣かないで。いつかきっと会えるから。
ていうか、めっちゃ顔がかっこいい。
8歳の少年は、とても良い子で素直な子になるんだろう。
そんな想像を、夢の中で考えたミチルは寝ながら笑う。
「ぷちゅん!」
もう一度、ミチルは小さなくしゃみをした。
暗い。
とても暗い。それから寒い。
何も見えない。
……ううん、見えないけど、何かいる。
ぼんぼろぼーん
何?
ぼんぼろぼーん
音? それとも何かの気配?
『チルチル……』
誰の声?
『チルチル……』
違うよ、オレはミチル。
『ミチル……』
そうそう。ミチル。で、何?
『ミチル、早く来て……』
どこに?
『ミチル、ああ、ミチル……』
どこに行けばいいの?
『ミチル、我の***……』
え? 何だって?
ここに、世界は結ばれた。
【オレの世界】と【ワタシの世界】が繋がる。
捧げたこの【血】を導に来たれ、プルケリマ=レプリカ。
己の【最愛】と出会うために──
◇ ◇ ◇
「──!!」
急に突風が吹いた。ミチルは驚いて立ち止まる。
「雪……?」
空から白いものが降ってきた。
ふわふわと舞い踊るそれは季節外れの風花かと思った。
「羽……?」
よく見るとそれは鳥の羽だった。
さては上空で大きな鳥が喧嘩したんだなと思った。
「!」
しかし、その羽はミチルの周りをふわふわと取り囲み、次第に数が増えていく。
「え、な、なに!?」
無数の白い羽は、ミチルの鼻先をくすぐる。
元々花粉症のミチルはむず痒さをすぐに感じた。
「ハ、ハックション!」
思わずくしゃみをしてしまった後、周りの羽に異変が起きた。
真っ白だった羽が、ひとつ残らず青く染まっていく。ミチルの視界も青く染まった。
「──!」
まばゆく青い光とともに、ミチルの体は【オレの世界】から消えた。
Next to Meets01……!
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