1章
どこにも居場所がない。
そう感じたのはいつだっただろうか。
二人組を作らなくてはならないとき?
みんなはもらえていた友達からのお土産をもらえなかったとき?
インスタのストーリーで僕以外のいつめんでカラオケに行っているのを見たとき?
きっと日々の小さな所で感じていたのだ。
生きづらさを。
「は?判定おかしいだろなんで今のでダメ入らねえんだよ。おかしいだろおい」
部屋に無機質なゲーム音声と苛立ちで飽和した舌打ちが鳴りひびく。
『おいおい。あんまり声荒げるなよ。近所迷惑って知ってっか?』
心地いいまであるゲーム音に調子に乗った声が混じってくる。
こいつはネッ友の『山田だよピースピース☆彡』だ。
最初の頃はFF関係なだけだったが、だんだん一緒に通話をしたり、ゲームをする仲になっていった。そろそろオフ会というものに手を出してみようと考えている。
『♰刃♰は学校には行かなくてもいいの~?』
「その名前で呼ぶな!学校はいいんだよ…もう」
不登校になってからというものずっと山ピスと一緒にゲームをしている。
ちなみに♰刃♰というのは一個前のゲームとSNSのアカウント名だ。黒歴史だからさっさと忘れさせたいんだが忘れてくれない。
『え~学校は行っといたほうがいいよ~。俺みたいになりたくなけりゃ』
「たしかに学校に行った方がいいかもしれんな」
思いっきり切り付けてやると山ピスはおい!とツッコんだ。
『そろそろFFになってから3年だね~』
FFになってから3年ということは不登校になってから、こいつとゲームを一緒にするようになってからもう1年が経つのか。
「やっぱそのキャラ強すぎるって!」
『課金限定キャラだからね!強いに決まってるだろ~!』
「課金できないんだよ!こっちは金欠なんだから課金なんてできるわけないだろ?」
『バイト、紹介してやろうか?』
バイトか…アリか?いや、ナシだな。
「働いたら負けだと思ってる」
『ミームを積極的に取り入れていくんじゃない』
やっぱりこいつと話すのは楽しいな。どんな変化球を出してもちゃんと拾ってくれるし。
会ってみたいな。こいつに。
「なぁ、オフ会…しないか?」
ついに言ってしまった。沈黙がやけに長く感じる。
『オフ会?いいぞ。じゃあ空いてる日教えて…って言っても実質ニートだからいつも空いてるか!こっちで予定決めるから最終確認だけたのむね~。ディスコに送るから』
意外とあっさり決まってしまった。あと…
「実質ニートってなんだよ!不登校なだけでニートじゃねえよ!」
そう叫んでボイチャをブツ切りしてやった。
声にうれしさがにじんでるのがバレないように。