第2話 イナッシング スチューデント
2話です。もうちょいペース上げたいけど定期テストがあって無理そうです。
オムニバスユニークラス!!
第二話 イナッシング スチューデント
シャクシャク……
「うまっ! なんやこの梨、びっくりするほどうまいやん!」
嚙んだ瞬間にわかる、大きな生命力に溢れるようなシャクシャクとした聞き心地のいい食感!みずみずしくてさっぱりしているのに優くて強い甘みが舌を包み込む。ふんわりとした香りとは裏腹に口の中で果汁が爆発して脳がもっともっとと訴えかける。おいしすぎるやろ……
「えへへ、ありがとう」
「これ、すごいうまいなぁ。生産者さんに直接お礼言いたいわ。こんな梨育てれるて、よほどすごい人なんやろな」
「なはは……そんなに褒めないでよ」
宇宙ちゃんが宇宙服のごつい手で後頭部をかく。
「いやいや、生産者さんに言ったんよ」
「えへへ……ありがとう。もっといる?」
「いや、だから……え? ゆきちゃんがこれ育てたん?」
「む!……そうだけど……仏の顔も三度までだよ」
「仏の顔?ってか、え!すごいやん!この梨作ったん?天才やな」
「ナッシングのナンバー8のやつだよ」
「ナッシング?」
すると、ゆきちゃんはハンモックの中から真っ白のナップザックを手に取り、一冊の本を取り出した。その本には「MY KUDAMONO DIARY『ぼくのくだものにっき』」と達筆に書かれていた。
おい、DIARYまで英語にしたんならKUDAMONOもFRUITにせえや。そして「くだものにっき」が小学生風やな。達筆なのにひらがななのが惜しい!
「ほら」
開かれた本に梨の木の写真があった。木に「命名 ナッシングナンバー8」とへにょへにょの字で書かれたプレートがかけてある。
「この木から栽培されたやつだよ。去年はナンバー1から9まであった」
「今は?」
「今もだよ」
「じゃあ、去年っていう必要あらへんやん……なぁ、ナッシングって、梨だけに?」
「そう。梨だけに」
「なし、なっし…おお、めっちゃセンスええな」
「おお!分かってくれる⁉」
宇宙服の暗闇のなかで目がすっごいキラキラしているのがわかる。
「そういや、あの…ずっと気になってたんやけど、ゆきちゃんなんで宇宙服着とんの?名前が宇宙ゆきだから?」
「む!二回……ん……まぁ」
そう言って胸にある謎のボタンたちを順番に押してゆく。
ウィーン……
「両翼ウイング!」
ゆきちゃんが叫ぶ。
「翼とウイング、意味おんなじやぞ」
すると、宇宙服の背中から棒が二本、生えてきた!すごい!
肩から翼のように伸びている二つの細長い棒はゆっくりと伸びて腕の長さぐらいで止まった。
はたから見ると突っ張り棒が背中に二本突き刺さった宇宙飛行士にしか見えない。
ん…?すごいか?
「これは……なんや?」
ガシュ!パンパパパパーーン‼
という音とともに棒から旗が出てきた。旗には「宇宙服じゃないぞ!スーパー宇宙スーツ5号だ!覚えて帰れよ!コノヤロウ!!」と言う文字と、カレーライスらしきものが描いてある。
「宇宙服じゃなくて、スーパー宇宙スーツ5号!」
「いや、どっちでもええわ!てか、なんやそのいらん機能!無駄やろそれ」
「いやいや。洗濯物干すとき役に立ってるから」
「じゃあ役に立ってへんやんけ!普通に干した方がいいやろ。第一どうやって一人で背中の棒に洗濯物干せるねん」
「こうやるんだよ」
ゆきちゃんが腕の赤いボタンを押す。するとゆきちゃんの胸のあたりが回った。背中にあった二つの棒がゆきちゃんの腕の下を通ってグルンと胸の方にやってきた。
「いや、その機能こそいらんやろ!そこがプロペラとして回転さして飛べるぐらいの機能ないとただのやばいなにかやぞ」
「とべるよ」
「え!とべるん?」
「うん少しだけ。1・22秒」
「すご!…いけど、それはジャンプしたほうがええんちゃうかな」
「た!」
「なんや、急にどうした?」
「…………しかに……」
と言ってくるっとあたしの方を向く。
驚き方癖強いな。口覆う仕草しとるけど宇宙服があるから、口、塞げてないで。
「で、なんで、その…スーパー宇宙スーツ?やっけ。着とるん?」
「そりゃもちろん宇宙飛行士に憧れたからだよ!」
また暗いヘルメットの中で目を輝かせてる。
「あの重力が少ないなか、月に降り立ち、ぴょんぴょこするの楽しそうじゃん!そして足跡が消えないのがめちゃくちゃ大好き!足跡消えない!ずっと雨の日の後のぬかるみごっことか、初雪ごっこができる!そして、宇宙服がかっこいい!スーパーかっこいい!一目見た時から憧れるようになったの」
「かっこいい……?かっこいいか…。あと、足跡が消えないからなんや。珍しい憧れやな」
キーンコーンカーンコーン!
「チャイム!ん!そうや、あたし今……!」
あたし今のんきにおしゃべりしてる場合ちゃうやんけ。転校初日の朝やぞ。なんで棒が出てきて回る宇宙服を鑑賞せなあかんねん。
そういや、冷静になって考えてみるとおかしなことやぞ。教室にゆきちゃん一人て。
教室間違えたんやな、きっと。ドアには西組って書いてあったけど、それは東京流の罠だったんやな。
「西組ってどこ?」
「ここ」
罠やなかった。だとしたらやっぱり主張強いよなぁ。
「なんで誰もいないん?ほかの学年はいるみたいやけど」
「ええと……たしか、へーさ!」
「?」
「学年閉鎖してるの今!」
「はっ?……は、え?」
なるほど、転校初日に学年閉鎖って……んなわけ、
あるの?
読んでくれてありがとうございます!短編も出しているのでぜひ読んでみてください。