第1話 こてこて小天ちゃん
週一か週二で投稿しようと思ってます。
オムニバスユニークラス!
第一話 こてこて小天ちゃん
「犬飼 小天です!犬飼だけど犬は怖いので飼っていません。大阪から転校してきました! よろしく‼」
鏡の前で少女が明日の練習をする。
「よっしゃ、完璧やん。これは友達たくさんできるやろなあ。うぅ~ん! 東京の学校楽しみやなぁ」
「こてん! 明日、学校やろ! 早く寝んか!」
一階からおかあが叫んだ。
「はぁ~い」
布団に入り、明かりを消して、目を閉じ考える。
どんなんやろなぁ新しい学校。東京っておしゃれなとこやからきっと、みんなキラキラしてるんやろな…
とりあえず、東京って髪染めなあかんらしいから、あたしの短い髪、金髪にしてきたけど、街にはそんなに染めてる人おらへんかったなぁ…まぁええか。
おしゃれなことには変わらへん。
でも、あたし東京の人っぽく出来なさそうやんな…
こてんだけに古典文学が好きなんや!
これ、うちの学校では手袋が必要なほどおおスベりやったけど、東京ではどうなんやろか。ためしてみたい!
うーん…でもやっぱ落ち着いた文学少女で行くべきや。
大阪のやまちゃんとまっつんとひーちゃんも言ってたからな。東京の人はみーんな落ち着いた紳士やて。それでいて少し変わってるんやて。まあ大阪とは文化もちゃうやろし。
うん、普段の関西弁のあたしは多分怖がられるやろうから落ち着いた文学少女にならな。あたし古典文学好きやからほんまのことやもん。
あぁ…緊張するわぁ。犬以外怖いこと無かってんけどな…
ああでも友達と別れるん辛かったわ……大阪から東京に引っ越すって聞いたときはたくさん泣いたもんなぁ。
やまちゃん、まっつん、ひーちゃん、徳井、あかね、みっくん、おぺたろう、せー先生、ゴロ…とその飼い主のおっさん、めーめと、ラーメン屋「餃子になんて負けへんで」の店長と、そこのお気にいりの席と、愛しのコーン味噌バリ固海苔二十枚トッピングラーメンと半チャーハン…その他、大阪のみんな。
あたし頑張るからな!大阪で見たってくれよ!
もぉー……あたしなんで今そんなん思い出すんや。
涙出てきそうになるやんか……。
うぅぅ……
ぐうぅぅ……!
……ちょっとお腹もすいちゃったやんか。
少しカップ麺が思い浮かんだけど…夜食はいけへん。夜食はいけへん。だめや。今食べたら即死やと思おう。それや。…死因は飢餓とかにしとくか。
……それじゃだめやん! なんでカップ麺食べて飢餓になるんや! 逆やろ!
……
はぁ、もうなんか疲れたな。今日も引っ越しのごたごたで疲れるわ、新しい家だからうまく寝れんわ、いやな日や。
でも明日は心配やけど楽しみや。早く新しい友達と東京クールおしゃれガールズトークしてみたい……
ふぁーあ。あたし何組になるやろか…………
そんなことを考えながら少しずつ眠くなっていく。
数分後、彼女はもうすぅすぅと寝息をたてていた。
次の日
待ちに待った!転校初日!
やっばい! 東京や! 都会や! 朝からテンション爆上がり!
校門にはたくさんの生徒!制服なし、髪染めオーケーの学校やから、みんなおしゃれな恰好しとんなぁ。
ん……?
あまり髪染めてる人おらんな…いても百人のうち一人程度。あたし転校初日から金髪はまずいやろか……。東京やから普通やと思ってたけど…そんなことなかったやないか! 金髪の文学少女は通せるんやろか。
裏山G中学校の…二年生の棟は、ここやな。
「なんやこれ、でっかぁ…」
昇降口の前に自分の身長の6倍はあろう大きな金の餃子の像が見えた。ありえない立ちかたで餃子が金に輝いている。
「……東京の文化はやっぱ難しいわ」
題名「中身は紫蘇チーズの垂直餃子」か…
「いや、そこは王道いけや! なんでマイナーな餡で勝負しとんねん。ほんでちょっとうまそうやないか」
はっ! まずい!
きょろきょろと周りを見渡すが誰もいない。
「ふぅーーー」
危ないところやったー……今の聞かれてたらさすがにやばいわな。あたしこの学校では文学少女で通すんやもん。そないしないと、きらわれもんになってまう。はぁ……やっぱなんでもツッコんでしまうのはあたしの悪い癖やな…。なおさなあかん。
「しっかし、人いないな…」
登校しながら一人くらい友達つくったろと思ったけど無理そうやな。
他の学年の棟には人たくさんいるのになぜやろか…?
職員室におはようございまーすと言って入る。
「おはよう、犬飼さん」
「おはようございます。腹巻先生」
編入手続きの時にいろいろ説明してくれた顔見知りのとっても美人な若い女の先生、腹巻先生。優しい声をしている。夏の初めだっていうのにマフラーを巻いて、厚手をしている。暑そうで気が気じゃない。まるで真冬みたいだ。
「先生あたし何組ですか?」
「えぇ~と…犬飼さんは、あっ…西組だね」
「ん? 西組? え、1組、2組とかじゃなく?」
「ええ。うちの学校はクラスが四つあるときは北組、西組、南組、東組と別れてるの」
なんかヤクザみたいやな。という言葉を飲み込む。ここは都会人っぽく答えなあかん。
「なるほど! クールビュウティーな呼び方ですね」
「え? ええ…それは…そうかもね。それにしても、うーん大変なクラスに当たっちゃったわね。頑張って!」
「大変?」
キーンコーンカーンコーン!
はっ!落ち着いた文学少女が初日から遅刻したらダメやん!
「ああっ! まずい! 遅刻しちゃうので行きます!」
そう言って職員室を飛び出した。
「あ、ちょっとまって!犬飼さん! 転校生を紹介するぞーの流れだから職員室いていいのに…」
そう言って崩れたマフラーを直す。
「あ‼ まてよ、というか今日って………ああやっぱり…」
流石にしょっぱなから遅刻はまずい。でも、初めてやったから教室間違えましたーとかでも言っときゃあ大丈夫やろ。
ええと…西組は…ここやな。
「なんやこれ」
ドアにでっかく「西組‼」って筆で書いてある…。他のクラスこんなんなかったぞ。主張激しすぎやろ。
ガラガラ…
「すみません。教室間違えて、遅刻しました……ん?」
教室には誰もいない……あれ?教室間違えた嘘つこうと
したら、ほんまに間違えてしもたんか?
教室出てもう一回「西組‼」ドアをみる。
うん。相変わらず主張が激しいな。
あれ?ここ西組やんな……?
ガラガラ…
もう一回教室に入る。
「ん……?」
教室のなかはがらんどう。椅子に誰も座っていないし、机の下に隠れてるやつもいない。いるのはハンモックで寝ている宇宙飛行士くらいだ。黒板も輝くほどきれいだし、机も完璧に整頓されている……ん?
ガラガラ…ぴしゃ!
「なんやあれ……」
この学校きてから「なんやあれ」しか言ってない気ぃするわ。思わず教室から出てしまった。あれが幻じゃないんだとするなら天井から釣り下がったハンモックに宇宙飛行士の恰好したやつが寝ていたことになる。なんじゃそりゃ。
もう一回そおーーっと覗いてみよう。
やはりバナナなどのフルーツが描かれたハンモックに宇宙飛行士が寝ている。
その真下にはスイカぐらいの大きさの目覚まし時計。時計の横には分厚い筋トレの本。ふむ……。
あたしより少し大きいぐらいの身長だ。あたしも小さい方だから、この宇宙飛行士は大人ではないだろう。
顔は黒いヘルメットに覆われて見えないが、ごつくて白い宇宙服に包まれた胸がゆっくりと上下している。とてもぐっすり寝ているようだ。
「……おるな」
教室に入ってハンモックをさわってみる。
「幻やない。完璧におるな」
人は自分の常識を超えた状況に遭遇すると逃げてしまう人がいるらしい。
しかし、この少女は違った。自分の常識を超えた状況になればなるほどこの少女はアレをしたくなる。アレがもう染みついた体なのだ。逃げるなどもってのほか。彼女は本能的、反射的にアレをしてしまう。
「あぁあーーー!もう我慢できへん!」
そう!ツッコんでしまうのだ!
「なんっや、この状況‼ 転校初日に教室に行ったらハンモックに宇宙飛行士て! まず、教室で本格的にくつろぐな! そして、くつろぐんやったらもっとくつろげる恰好にせえ! 宇宙飛行士なんて一番、ハンモック&バカンスに似合わへんからな! それでいてなんやねんその柄! バナナトロピカルやないか! なんっで宇宙飛行士がトロピカルしとんねん! そして、熟睡しすぎやねん! めっちゃ落ちそうやないか! トロピカルと宇宙飛行士で、どっちの意味でもアンバランスやん!」
ここまで一気にまくしたてる。
「あ、やば……」
ちらっと宇宙飛行士をみるがすぅすぅと寝息を立てている。
「ほッ……」
とにかく、もう一度職員室行ってみるか…。
「う、う~ん……」
悪い夢でも見ているのか、宇宙飛行士がうなされている。
くるっ!
急に寝がえりをうち、ハンモックが、回って下を向く。
宇宙飛行士がハンモックから落っこちる……!
危ない!
ふうぅぅ……
「間一髪やったなぁ。よぉわからん奴、助けてもうた」
落っこちた宇宙飛行士は私の腕でお姫様抱っこされている。
「いや、教室で女子中学生が宇宙服着たやつお姫様抱っこしてるってどんな絵面やねん……しかもまだ寝てるし」
ジリリリリリリ!
やばっ! 目覚まし時計が鳴った! 起きてまう! 止めな!
ガチャ
危ない危ない。
「ふぁーあ……」
宇宙飛行士があくびをして、あたしの腕の中で「う~ん……!」と腕を伸ばしてのびる。
やばっ! 危なくなかった!
すると、あたしに抱っこされているのに気づいたようで宇宙服のヘルメットがこちらを向く。
暗いヘルメットの奥で目が合った気がした。
起きたら金髪少女にお姫様抱っこされているやつは最初になんて言葉を発するんやろ……。
「……む……おはよう……とはじめまして」
な…!
な…!
な……なにっ!?
か、かっっわい‼
声が、ごっつかわいい! 透き通るような澄んだ声! 女子やったんか!
まるで、どこかの国の森の日当たりのいい湖の近くを飛ぶ小さな妖精のような…何度でも聞きたくなる神聖で聞いたことのない透明な声や!
「じゃ……おやすみ……」
カクッ
「すぐまた寝るんかい!なんやこいつ」
また、すぅすぅと寝てしまったので床におろす。
変人やと思われるかもって心配する必要あらへんかったな。こいつが変人やもん。
…さて…これからどうすればいいんやろか。
「は!」
「わ!」
急に床におろした宇宙飛行士が飛び起きた。
「び、びびったー。なな、なんや、急に起きるやん」
「……危ないところだった。二度寝の悪魔は二度くる……からね。気を付けないと。あれ、君は…!まさか、その金色の髪!そうか、可愛い顔して……秘密結社ミステリーヒミッツか!」
そういって小さななにかを宇宙服のポケットから取り出してあたしにむける。
「いや、ちゃうよ。まぁ……その……可愛いのはほんまかもやけどぉ……」
えへへ…そんなこと言われると照れちゃうやん。
「そっか。ならよかった」
よくみたら取り出したの、くっつき虫やんけ。その……ミステリーなんたらとかやったら投げられてたんかな。
「ぼくは宇宙ゆき。よろしくね。君の名前は?」
「あたしは犬飼小天。こてんちゃんって呼んでな。うちゅうゆき……?って珍しいフルネームやな。そのまんまのかっこしとるし」
「ふむ……そうかもしれない。ん…?は!もしや、こてんちゃんってぼくの事さらおうとしてた?」
「いや、してへんけど……」
あ、お姫様抱っこしてたから、あたしがゆきちゃんをさらおうとしたと勘違いしたんやな。
「ハンモックから落ちたから助けたんよ」
「そうだったんだ……ごめん! とってもごめん! ありがとう! 痛いのいやだから助かった! お詫びになにか……」
ポケットから梨を取り出す。
「梨⁉ なんでポケットに入っとんねん!」
「あ……ごめんいらなかった?」
「いや…おいしそうやから欲しいけどな……」
「じゃあ、むくね」
「えっ? 今?」
そう言って包丁を宇宙服のポケットから取り出す。
「いや、危ないわ! なんで梨やら包丁やらが入っとんねん。ってかよくそこに入るな! 四次元ポケットか。しかも今、梨の季節じゃないよ」
宇宙ちゃんはすごい手さばきで梨の皮をむいてゆく。とても宇宙服を着ているとは思えない器用さだ。大きな皮手袋しとんのと変わらんのに……すごいな。
「ところで何しにここにきたの?」
「へ?あたしは転校生で……」
ん?まてよ、この子……クラスにいたってことはこの学校の生徒でこの西組なんやないか……?
そしたらまずいぞ。バリバリ関西弁で話しとるやんあたし!
関西弁を使ってるとこクラスメイトに見せたらあかんやないか!
宇宙ちゃん以外のクラスの子におしとやか文学少女でいても、宇宙ちゃんから変に思われて、それがクラス中に広まって、孤立! 学生生活終わる!
かといって、クラスのみんなに関西弁使ったとしても、怖がられ、孤立!
やばいやん……
いや、でも、んなわけないやろ。
そもそもおかしいわ。冷静になって考えてみれば、宇宙服着てるやつがいること自体おかしいやん。そんなやつ普通クラスにおらんもん。
これは流石に「東京やから」で済まされる問題ちゃうぞ。
でも一応……
「あの……宇宙さんはさ、このクラスの人なの?」
宇宙ちゃんは、なんでそんな質問するか分からないというふうに首をかしげて答えた。
「?……そうだよ」
……
まじか。こりゃまずいやん。
やまちゃん、まっつん、ひーちゃん……東京の人って「少し変わってる」やなかった。
「超変わってる」やったよ……。
いったいあたしのうきうき都会のオシャレ中学ライフはどうなるんやろ……
ショックを受けたあたしを不思議に感じながら梨を差し出してくる宇宙服を見つめながら、あたしは思った。
読んでくれてありがとうございます!クラスメイト全員出るまで多分終わりません。