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新天地にて

「もう行ってしまうのですか、もう少し休んでいてもいいんですよ」

 出発の直前に息を切らしながらフィーレが走ってきた。髪型も崩れている中、膝に手をついて息を整えつつ俺の返答を待っている。

「出発は早い方が良いんだ。だから、もう滞在はしない」

 俺は微笑を浮かべながら告げる。ずっとここでのんびり暮らしても幸せかもしれないが、それは役割を放棄することになる。つまり魔王の手によって始末される。もう足を止めるわけにはいかないのだ。これ以上ここに愛着を持つことはあってはならない。

「そ、それなら私もついていきます」

 フィーレの顔はゆがんでいて今にも涙が溢れてきそうだった。俺のことを僧侶とか善良な人間だと勘違いしているのかもしれない。ただの目的のために何でも利用する利己主義者なのに。

 答えは勿論Noだ。確かに純粋な人間の身柄がいると都市での身分詐称もスムーズにいくかもしれないが、それ以上にこの子を危険に晒すことになる。最悪逃避行なんかに巻き込むかもしれない。

「それは無理だ。だがフィーレが大人になって王国に向かうなら、きっと俺は有名人になっているから、その時に再会でもしよう。フィーレという女性が面会を求めていると分かったなら最優先で時間を空けよう」

 ありもしない夢物語を口から生み出していく。フィーレが成人なるのはだいたい七年後くらいだから、その頃俺が生きている保証はない。大罪人として死刑されているか、魔王軍の悪逆非道の元僧侶として名を馳せているかの二択だろう。

 フィーレはしぶしぶ飲み込んでくれた。きっと叶わない儚い夢だとしてもそれ以外を俺が認めないことを感じ取ったのだ。七年後にはこの約束を忘れて幸せになっていてもらいたい。


「ねぇねぇ、夜な夜な街に吸血鬼のコウモリが現れているらしいよね」

 ある街角で二人の女性が世間話をしていた。当の本人たちは都市伝説のようにフィクションとして認識している様子だった。商業都市アルベルトでは大きな港と水路のおかげで市場が盛んで、人が多いのが特徴である。

「怖いわねぇ、まぁ魔王も勇者さまたちが懲らしめてくれたんだから何とかなるわよ。そんなことより……」

 元勇者パーティーの魔法使いシャルロッテは商店街に化粧品の買い物の途中だった。現状勇者パーティーは解散して私は現役時代に儲けた大量の報奨金を湯水のごとく使用して心にぽっかりと空いた穴を埋める日々である。

 魔道具の整備も近頃はしていないし、鍛錬もしていない。だけど、もう一度人の役に立ってみたいとふと思った。それから、夜のパトロールが私の日課になった。

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