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負の魔力

「ねえってば早く起きて!」

 まだ日も昇っていない時間帯に俺はすごい剣幕で起こされた。眼をこすっていると意識が覚醒してきてようやく事態を認識し始める。まさかフィーレが、俺は不安を胸に抱えて走り出す。

「え~何慌てているの~」

 俺の目を覚ました声は今度は一転して今度は俺の感情を逆撫でしてくる。昨日俺が無理やり起こしたことへの意趣返しをたった今されていた。

「感謝しなさい、本当ならあなたにフィーレちゃんを起こさせてからネタバレするつもりだったんだから。でもそれじゃあフィーレちゃんが可哀そうじゃない」

 まず、俺のことを可哀そうだと思ってくれ。ただでさえ、自分勝手な魔王と堕天使に弄ばされているのだから少しくらい同情して欲しいものだ。とも思ったが、こいつに同情されるのも癪に障るので前言撤回だ。

「じゃあ、気は済んだか。俺はもう一度寝るから」

「ちょ~っと待った。本当にそれで良いの」

 欠伸交じりの俺の声にミカエラはすぐさまツッコミをしてきた。全く元気な奴だ。

「フィーレちゃんの朝ごはんくらい準備してあげなさいよ。本当に気の回らない人間ね」

 何故俺がお前なんかに説教を受けねばならぬのだ。ただ言っていること自体はまともなので反論が思い浮かばず、とりあえず俺達は周囲を散策することにした。


「それで、村の場所が分からないらしいんだがどうすればいいんだろうか」

 ふとミカエラにそんな質問を繰り出していた。いざ朝になったら出発とはいっても、目的地の位置が分からないならどうしようもない。

「そんなの薬草の多い場所を探すだけじゃない。薬草だって生息地はある程度限定的だし、魔王城付近のひどい土壌でも生えている場所なんて限られているから。そんなことも気づけないの」

 事あるごとに俺にちょっかいをかけてくる。堕天使となることで性格も幾ばくか捻くれてしまうらしい。気の毒な限りだ。

「なるほど、それでその薬草が生えていそうなめぼしいところは分かるか」

「まあ、薬草の放つ魔力を察知すればわかるけど」

 ミカエラは俺が煽りに全く反応しなかったのに動揺していた。

「そんなことより時間時間」

 ミカエラは慌てた様子で太陽を指さした。まずい、もう朝じゃないか。話に夢中で忘れていた。俺は全力疾走で、ミカエラはその様子を楽しげに眺めながらフィーレのもとへ向かった。

 謝罪をして事態は事なきを得た。ただし、フィーレのもとを離れるといった判断は今にして思うと軽率だったのかもしれない。先ほど採ってきた野草を朝食として俺たちは目的地に向かった。幸い現在地から村はさほど離れていなかったので、すんなりと到着することができた。

「本当にこの子を届けて頂きありがとうございます」

 昨晩、村民総出で捜索して見つからずに随分心配されていたらしく予想以上に感謝されて悪い気分じゃない。目の前のフィーレの母親とおぼしき人物はフィーレを強く抱きしめて、目には涙を浮かべている。

「それで魔王軍の残党というのはどこにいるのでしょうか」

 フィーレとの約束を守るためにそう申し上げると、その女性は申し訳なげに手を振って断りを入れる。俺が何度かお願いすることで遠慮気味ではあるが、事情を説明し始めた。

「近くに鉱山がありまして、そこの洞窟内にコウモリが大量発生していて度々人里におりてきては農作物を荒らすんです」

「でも、コウモリ程度であれば駆除することもたやすいと思うのですが……」

「いえ、そのコウモリが毒を持っているの厄介で」

 事の顛末はこうだ。もともとこの地には魔王軍の四天王の一角である吸血鬼が住み着いていたそうだ。勇者に追い詰められた吸血鬼は洞窟まで追い詰められた挙句、最後は自らをコウモリに分裂することで死亡を免れた。肉体の損傷が激しいため吸血鬼の姿に戻ることは不可能だが、今でも悪さを続けているらしい。しかも、そのコウモリの数は体感ここ数年で倍増しているとも言った。

「それでは、今から向かいますので」

「待て、お前から魔族の魔力が発せられておる。どうせ、正体は化け狐とかであろう。今ここでお前を野放しにする訳にはいかない」

 魔族退治に向かう俺の背後から年季の入っていながらも鋭い声が響いた。

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