野宿
「はい、これが食料だ」
俺はぶっきらぼうにフィーレに今日獲った焼いた猪肉の残りを投げた。さっきまでの自分の態度が気恥ずかしくなったからだ。
「それで村の位置はどこら辺か分かるのか」
沈黙の晩餐も味気ないと思って軽く話題を振ってみる。フィーレはいきなり話しかけられて目をまんまるにして分かりやすく驚いた。
「そ、その~全く分からなくなっちゃって」
俯きながら言うフィーレに俺は頭を抱えた。魔王城を脱出してきてから広い魔王領をやっとのことで抜け出したと思ったのにせっかくの手がかりが消失した。肩を落とさずにはいられない。
「まあ、明日二人で探すしかないか」
「えっ本当ですか、ありがとうございます。ええっと名前は」
フィーレは嬉しさ半分申し訳なさ半分の表情を浮かべていて、何だか健気で自然と頬がほころぶ。そうか名前をまだ決めていなかった。前世の名前を使おうにも違和感が生じるので、この体の主だった僧侶の名をもじってスペクルといった安直な名を告げた。
「スペクルさんは何でこんな辺境の地に来ていたのですか。身なりからして聖職者のようですけど」
勿論魔王城から出てきたなんて口が裂けても言えるわけない。しかも、今の俺は神に祈りを捧げる聖職者の正反対の背信者でもあって言い訳をするのに苦労する。
「ただの旅人だよ。もともと僧侶をやっていたけど世界の各地を自分の目で見たくなって旅に出たんだ。今じゃほとんど魔法は使えないけどね」
「なるほど、それでもここら近辺は魔族が出現しやすくて危険なので速く去った方が良いですよ」
嘘を悪びれもせずについている自分と違って会ったばかりの他人を思いやれるフィーレを見ていると良心が傷む。
しかし、それではおかしくないだろうか。何故危険な地にわざわざ薬草を摘みに出向くのだ。こんなの自ら命を投げ出す行為に他ならない。その旨をフィーレを訊いてみた。
フィーレは少し苦い顔をして、
「私達の村では魔王軍の残党が度々出現するため行商人も立ち入るのを嫌がるんですよ」
と言った。自分の置かれた環境への恨みと己の無力を悔いているようだった。
フィーレの村はもともと魔王領の一部だったが、勇者達の健闘もあって人間が奪い取ることができたらしい。しかし、人間と魔族の幾度も戦いが二つの種族の境界線を曖昧にした。互いに干渉しないでいる均衡が崩れていざこざが絶えなくなったそうだ。
「俺は少しなら魔法は使えるから微力ながら助けになれるかもしれない」
彼女の情にほだされて、俺はそんな適当なことを言ってしまった。これは明日ミカエラに恩に着せられるに違いないが、俺の土下座の一つくらい安いものだ。
「夜も更けたし、もう寝よう。一応火があるから安全だと思うが万が一の事があったら、俺はあっちらへんで寝ているから助けをよんでくれ」
成人男性が女の子と同じ場所で寝ることは問題だと思い、提案する。今の俺は基礎魔法を昼間に一度使っただけで魔力切れだ。
「んん~、もう何寝ていたんだけど」
なぜか寝ぐせをつけて不機嫌に悪態をつくミカエラに念のためにフィーレを囲むように魔法をかけてもらうように依頼した。天使の睡眠を妨げることは忍びないが、今はいち少女の命が優先だ。幸いミカエラは早く寝たいのかすんなりと願いを聞いてくれた。俺はそのことに安心して眠りにつく。
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