僧侶の回復魔法が使えない⁈
「それにしてもここから先何をしていけばいいんだ?」
俺は魔王城の外に広がる森を歩きながら疑問をこぼす。意気揚々と出発したものの全くのノープランでとりあえず今はここから一番近い人間の村に向かっている。
ぐぅ~、と俺のお腹が鳴った。そろそろ昼食をとりたいものだ。そう思った時、目の前をイノシシのような魔物が通りかかった。いっちょやってやりますか。
「炎魔法」
俺は呪文を唱えて、基礎魔法を使用する。食事中に軽く魔王から魔法の使い方含めたこの世界の常識を教わっていたかいがあった。魔王は怪訝な表情をしつつも丁寧に解説してくれて案外優しい奴なのかもしれない。しかし、見事なまでにイノシシに躱された。
「はぁ、やっぱりそう簡単にはいかないよな」
それから俺とイノシシの長期戦が始まった。イノシシが逃げて、そこを狙い魔法を放つ、そしてまたイノシシが逃げるということの繰り返しだ。
俺はその長期戦をなんとか制する。結局、疲れて俺の狙いがブレブレになった魔法が当たっただけなのだが……。
「う、うめ~。苦労して手に入れた飯は格別だ」
イノシシ肉は俺のヘボ魔法で丁度よく火が通っていた。なんて幸運何だろうか。
「イノシシの突進も多少はくらったから、回復魔法でも使うか。回復魔法」
そう唱えるが何も起こらない。
「おかしいな転生先の役職は僧侶だったはずなんだが……。回復魔法」
もう一度呪文を唱えてみるが結果は同じだった。
「いくらやっても変わらないよ」
後ろを振り返るがそこには誰もいない。幼い女の子のような高い声を発したのは一体何なんだ。
「はぁ~、君の頭上を見てみなよ」
そう言われて上を向くとそこには体長30㎝ほどの女の子が宙に浮かんでいた。背中にはとってつけたような純白の翼があって、白い服を着ている。可愛い顔をしていて庇護欲をくすぐられるような見た目だ。
「えっ、誰だ?」
しかし、現在の状況はイレギュラーであって頭がクラクラしてくる。空を飛ぶ幼女なんて見たことがない。
「私はミカエラ、種族は天使。そして、貴方は女神の信仰を捨てたからもう聖職魔法は使えないよ」
もともと僧侶っていうのは女神を信仰して聖職魔法を使えることができるらしい。女神の力は天使を通じて聖職者に伝えられて使用できる。しかし、この天使は魔王に精神操作魔法を受けている間に女神との繋がりがほどけてしまったそうだ。
「君は野良の天使、つまり堕天使みたいなもんか」
「まあそうかもしんないね」
ミカエラはあっさりとそう言ってのけた。
冗談じゃない、これじゃどうやって人間界を攻め落とせるんだっていうんだよ。よりにもよって何でこんなちんちくりんとなんか。
「言っとくけど聞こえているからね。誰がちんちくりんなんだい。はぁ~、元の僧侶フリード様はそんなこと言わなかったのになー」
堕天使ミカエラはこれ見よがしに頬を膨らませ拗ねるふりをする。心の中を読み取ることのできる力を持っているようだ。
「悪い悪い、もうそんなこと思わないから」
「そーだ、そーだ。だって、いっちょやってやりますか、とか息巻いていたもんねー」
「ちょっと待て、お前いつから俺についていた」
「そんなの最初からに決まってんじゃーん。勿論最初から君のイタイ発言なんて覚えているよ」
そうミカエラは小悪魔的に笑ってからってくる。堕天使恐るまじ……。
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