動く始める敵陣営
「入るぞ、良いか」
ドアが叩かれたので俺は、ああ、とかぼそい声で返事をした。間もなく声が聞こえたのかは分からないが、グラントが部屋に入ってきた。
「ちゃんと飯は食っているか、いい加減働いてみたらどうだ」
グラントは市場で買ってきた思われる食べ物を入れた袋をがさっと置いた。最近俺が話しているのはこいつくらいだった。
「生命維持活動には支障はない。あと金は一生分稼いだからもう働くつもりもパーティを復活つもりも毛頭ない」
ハハッとグラントは笑った。そして、台所に向かって袋に入っていた果物の皮をむき始めた。グラントは俺のことを傷つけないように適度にそっとしてくれる。
「グランドはそろそろ引退の歳だっていうのに、大活躍らしいな」
グラントの歳は今年で40を越した。本来なら前線から引いて後ろから指示する立場になるはずだ。
「知ってるのか、まだまだ若い奴らに負けねぇよ。勇者パーティの実力はそんなものじゃない」
俺に切った果物を差し出してきた。美味い。買いだめしたものを食べる生活のため新鮮な味がとてもいい。
「そこにある聖剣もう錆びてるじゃねぇか。武器屋に行って手入れしてやろうか」
もう俺が使う気がないのを分かって言っているなら意地悪だ。でも、いつかのその日を待っているぞ、というメッセージなのかもしれない。
「好きにやってくれ、換金してきてもいい」
俺も意地悪な返答をした。
「あ、そうそう今回ここに来たのは良いニュースと悪いニュースがあるからなんだ」
「良いニュース」
「おっけー、スペルクが生きていたらしい。シャルロッテからの目撃情報だ。商業都市アルベルトだ」
俺は思わずグラントの方を向いた。グラントはにっと笑う。
「それで悪いニュースはスペルクは魔王に洗脳しているらしい。魔王軍の新四天王の誕生だ」
グラントは俺にもしそんな嘘をついたらどうなるか分かっているはずだ。これが真実だとしたら、僧侶を助けなきゃ。俺のせいで操られているから、俺がやらないと。
「じゃあまたな、この聖剣は一週間後には戻ってくるはずだ。料金は払ってやる、感謝しろよ」
グラントは出ていった。今から治安維持活動に勤しむのだろう。俺は王国の一頭地のこの家から旅立つ準備を始めた。
まず、髭でも剃るか。礼儀正しい僧侶に今の恰好を見られたら笑われてしまう。




