悪魔
目の前に人影が現れた。俺のことを守るように両手を広げて魔法を受け止めている。長身で髪の長い女性は時々痛みに苦しむ声を上げつつも決して倒れなかった。
少しして、衝撃によって生じた煙が晴れていく。紫色の髪色に黒と赤に染まった瞳が印象的だった。彼女は柔らかく笑って俺を安心させようとして、魔法使いに向かいなおる。
「今のうちに逃げて」
ミカエラの声だった。姿や雰囲気は全く違っていたが、紛れもなくミカエラだ。シャルロッテは距離を保って、一方でミカエラは弾幕をかいくぐって致命傷を狙う。
「ねえ、あなたは誰なの」
「さあ、ただの堕天使よ」
目の前で繰り広げられている攻防は圧巻だが、やはりミカエラの分が悪い。あんな攻撃を五体満足でいられるわけがない。血を流して、動きが鈍くなりつつも表情には出していない。
一方で俺にできることは何がある。尻尾を巻いて逃げることしかできない自分が不甲斐ない。俺は残りの吸血コウモリに遠くまで運んでもらった。
「よお、アルベルトの侵攻は順調か」
その冷酷で恐怖心を駆り立てる声が脳に響いた。
「今、ミカエラには俺の力の一部を与えている。本来ならば俺自ら出向いて蹂躙してやりたいところなんだが生憎力が弱っている最中だから援護させてもらっている」
それでも十分心強い。あのままだったら二人とも犬死にしていたに違いない。
「しかし、どうして私に力を分けて頂かなかったのでしょうか」
「もちろんそれも可能だがお前の身体が持つ保証がない」
女神の力を普段から分けてもらっていたミカエラだからこそできる芸当というわけか。そこで俺は思い直す。俺にしかできないことをやってやる。
既に満身創痍であと一発でも攻撃をもらうと立ち上がることもできそうにない。絶体絶命の状況だがスぺクルが救われただけまだマシだろう。背中を見せた殺されるから逃げることも難しい。
私は思わず笑ってしまった。天使は主とテレパシーによって意思をリンクさせることができる。私が最初にあいつの考えをこっそり聞いていたきり使っていない魔法だ。常時発動タイプなだけあって燃費が悪くて肝心なときにしか使わない。
今からコウモリを送る、あとできるなら意識をリンクさせて今安全な俺がお前の動きをアドバイスさせてくれ
そう念じられた。笑うしかない。だって、二人の意識をリンクさせたところで、肝心の身体は一つだし欠陥だらけの作戦だ。だけど不思議とその作戦が魅力的に思えた。
私達は意識をリンクさせて意気投合した。はっきり言って二人の意見はまとまらないし滅茶苦茶になることもあるけど何だかんだ上手くいった。
そして何より楽しかった。
「これでとどめよ」
これまでよりも大きな魔法を構えられる。そろそろ引き際だろう。私達が纏っているコウモリが一斉に広がって相手の視界を塞ぐ。私は命からがら逃げてきた。




