魔王軍の僧侶⁉
目を覚ますと手には手錠がつけられている。鉄球のついた鎖のせいでまともに身動きすらとれず、また床も石でできて体のおり熱が奪われる。床に恐らく俺の吐物や血液がまき散っていて気持ち悪い。
俺には快適な家も飢えのない程度の食料も持っていたのになぜだ。ふと、走馬灯が頭をよぎる。そうか、俺は死んだのか。自分の命が消えゆく過程を思い出した。過労死だった。
そして、俺は再び死に瀕している。目を覚ましてから数日、俺は誰とも会えていない。勿論食事することすら叶わない。全く不運な人生だ、と諦めかけて他人事のように思う。
鉄格子の先の通路からの誰かの足音が聞こえた。この鉄格子の先には何があるのか考える。それだけが俺がここでできる唯一の行動だった。この廊下の先には俺と同じように手足の自由を奪われている人がいるかもしれない、はたまた楽園が広がっているのかもしれない、など様々な妄想をしたが思いで暇をしのいでいたが、今はここから出たいそれだけだった。
「誰かいませんか。助けてください」
俺は出せるだけの大声で助けを求めた。この足音の主が仮に殺人鬼でも、死神でもいい、藁にもすがる思いで声を張り上げた。
しかし、俺の目の前に現れたのは予想外の存在だった。見るからに高貴な素材の衣類で身を包み、冷徹な視線と大きな体が印象的だった。そいつの視線で背筋が凍りつくほどに恐怖心を駆り立てる雰囲気をまとっている。
「俺の下につき魔王軍に入れ。そして、世界の半分を征服しろ」
魔王は俺を見て少し驚いた後、そう命じた。結局、俺を牢屋から出したのは魔王だった。
「えっ、おかしいだろ。どうせならその世界の半分をくれよ」
と俺は不満を持つがもちろんそんなの口に出せない。一瞬で命が消し飛んでしまい、神様が再び授けて下さった人生が台無しだ。
魔王は一旦衰弱しきった俺を見かねて、俺に食料を与えた。まさに命の恩人だ、俺は一生この御方についていこうと誓った。
「あ、あの記憶が少々乱れていて、事のいきさつを教えていただけないでしょうか」
「まあ、無理もないな。まずお前自身の説明だがお前は、勇者パーティの僧侶だ。」
「えっ、ではなぜ魔王様の下に私はいるのでしょうか。」
俺は混乱のあまり魔王に聞き返す。事態を全く把握できない。
「勇者パーティが先日俺のもとへやってきて、戦いが起こった。俺が勇者にとどめをさそうとした瞬間、お前は身を挺して勇者を守った。お陰で勇者達には逃げられた。そして、久しぶりに根性のある奴だとその勇気を認めて、お前に拷問をして、精神操作魔法をかけ続けていつ心が折れるか試していたわけだ」
何しれっと拷問しているんだ、あの感動を返して欲しいものだ。こちとら目を覚ました瞬間、頭は痛いわ、爪はないわでもう一度死ぬかと思ったんだからな、と心の中でツッコミを入れる。
「でいつまでも心が折れることがなく、その遊びに飽きた俺はお前を放置していた。腐敗臭が漂ってくる頃にお前のことを思い出して、来てみたらまだ生きていたというわけだ。まったくお前一体どんな生命力してんだよ」
そりゃ魔王も死んだ僧侶に現代人が転生するとは思わないだろう。
「さぁ自分にもサッパリで……。そんなことよりも今私が反抗することは考えないんですか?」
勿論彼から放出される圧倒的な魔力を見れば反旗を翻そうとは思わないが。
「なんだそんなことか。まずお前には魔法の封印をしている。そして、拷問後最初にお前を見た時誇り高き僧侶の眼差しは何処へやら、死んだ魚の目をしていたからな」
魔王はそう言って豪快に笑う。だって転生後数日間飲まず食わずだったんだし、仕方ないじゃないかと俺は心の中で言い訳する。
「というわけでまずは人間界有数の商業都市アルベルトを征服してこい」
「分かりました。いち早く魔王様の信用を得れるよう全力を尽くして参ります」
そう言ってまだこの世界についてよく分からないが長い物には巻かれろで魔王城を後にする。魔王軍とは即時戦力をモットーにしているのかもしれない。
すると魔王が後ろから
「あっ、言い忘れていたが、もし逆らうような真似をしたら心臓が爆散する魔法をかけているからな」
と言ってきた。
まさか心を読まれたのか、と心臓をバクバクさせながら、その様子に気づかれないように俺は平静を装って歩く。
作品の感想を送っていただけるととても嬉しいです。作品のアドバイス(ここの描写が説明不足など)でもリクエスト(こんなキャラを登場させて欲しいやこんな能力持ちを登場させてなど)でも全然OKです。作者は無名なので意見に耳を傾けやすいのでドシドシ感想よろしくお願いします。読者の皆さんと一緒に良作を作っていきたいです!!