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僕を置いて行ってくれ  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)
僕を置いて行ってくれ
8/42

3.フランパート【3】

 大きく息を呑んでフランが目を覚ますと、彼が倒れていたのはエントランスだった。服が埃まみれだと見回しているとき、視界に青色のスカートが映り込む。ぼんやりとフランを見ていたのはツムギだった。

「ツムギ……助けてくれたのか?」

「……特別」

「……ありがとう」

 自分に何が起こったかはわからないが、どうやらツムギは敵ではないらしい。フランを助け、目を覚ますまで見ていてくれたようだ。

「……フラン……隠れるのヘタ……」

(……隠れられてすらいなかったが……)

 やはり隠れてやり過ごすのが正解だったらしい。とは言え、あの部屋に隠れられる場所はなかった。これからの調査は、隠れられる場所を見つけながら進めたほうがいいのかもしれない。



ツムギ

「ここまでのこと……覚えといてほしい?」



◆[覚えておいて]

◆[ヒントがほしい]

◆[ツムギのことを教えて]




◆[覚えておいて」

ツムギ

「ん……覚えとく。……忘れたらごめん」



◆[ヒントがほしい]

ツムギ

「…………」



◆[ツムギのことを教えて]


 ツムギは敵ではないようだが、味方かどうかもいまは判然としない。ツムギの情報をもう少し知りたいところだ。

「ツムギは、ずっとこの屋敷にいるの?」

「……そう」

「……ひとりで?」

「……そう」

 ツムギはぼんやりとした表情をしているが、受け答えはしっかりしている。自我が薄いというわけでもないようだ。

「この屋敷で暮らしていた人たちのことは知ってる?」

「……知ってる。太ったおじさんと……痩せた女の人と……女の子」

 パーシー家の人々だろうか、とフランは考える。しかし、パーシー氏の外見は知らない。家族構成としてはパーシー家と一致していると考えると、ツムギはパーシー家のことを知っているのかもしれない。

(……あれ? 僕……ツムギに名乗ったかな……)

 あまりに自然だったため見逃しそうになったが、ふとそのことが気に留まった。よくよく考えると名乗った覚えがなく、なぜツムギがフランの名前を知っているのだろうか。この屋敷に以前から存在していた怪異なら、その情報をどこかで仕入れるというのも可能なのだろうか。

「……フラン」

「ん?」

「……ついてく」

「……僕に?」

「……うん。フラン……死んじゃう」

 フランは思わず黙り込んだが、ツムギは相変わらずぼんやりしている。この屋敷のことを熟知していると考えると、何かしらの危険が潜んでいることも知っているのだろう。

(言葉尻は恐ろしいが、どうやら敵ではないようだし、この屋敷を熟知している味方は心強い)

 考え込むフランの服の袖を、きゅっとツムギがつまむ。

「……二階……行く」

「二階か……。確か、アレックスが調査したんだったかな……」

 ツムギが何を考えているかは判然としないが、フランが屋敷から出る手掛かりを掴むためには、屋敷を隅から隅まで調査するしかないだろう。ツムギが何か知っているなら、それに従うのが賢明だろう。



◇2階[ミスター・パーシーの寝室]



 荒れた室内には、アレックスが調査した痕跡があちらこちらに残っている。隅々まで捜索したようで、手掛かりとなるものはすでにアレックスのもとにあるだろう。それでも、アレックスの見落としを何か発見できるかもしれない。



【調査開始】



*ベッド*

 埃が積もっていて不潔だ。

 触りたくもない。



*電話*

フラン

「…………」



*本棚*

フラン

「実用的な本が多いな。……見てはいけない物を見てしまった」



*机の上*

 日記帳が置いてある。


フラン

「パーシーさんの日記かな。……机の上にこれ見よがしに置いてあるなんて」



***



フラン

「……泣き止まないリサに苦悩していたようだ。奥さんの死をきっかけに泣かなくなったということかな。……当時のこの屋敷がどうだったかはわからないが、リサも怪奇現象の影響を受けていたのだろうか……」



*チェスト*

フラン

「引き出しを開けた痕跡があるが……特に何もないな……」



 ひとつ息をついて、室内を見回す。情報となるものはすでにアレックスの目に入っているのだろう。特に手掛かりになると思われるものは発見できなかった。

「……これ以上は調べる必要はなさそうだ。奥さんの寝室も近くにあるはずだ」

 アレックスは短絡的な部分もあるが、調査についてはしっかりしている面もある。気になったものはすでに調べているはずだ。

 そう考えていると、ツムギがフランの視界に映り込んだ。

「どうかした?」

「フラン……目、悪い」

「え……?」

 ツムギの小さく温かい手が、フランの左手を引く。ツムギは、クローゼットの前で足を止めた。

「……ここ……隠れれる」

「……中が空だ。クローゼットの中身だけ持って行ったのか……。確かに、僕の体型だったら入れそうだ」

 クローゼットは大人が使用する物で、中にはハンガーすらかけられていないため、小柄なフランなら中に入って扉を閉めることができそうだ。他の部屋にもこうして隠れられる場所があるなら、それを確認しつつ調査を進めがほうがよさそうだ。



ツムギ

「ここまでのこと……覚えといてほしい?」



◆[覚えておいて]

◆[ヒントがほしい]




◆[覚えておいて]

ツムギ

「ん……覚えとく。……忘れるかも」



◆[ヒントがほしい]

ツムギ

「……お母さんの寝る部屋……」



 クローゼットのドアを閉じたフランは、ふと周囲を見回して首を傾げた。

(……ツムギがいない。まあ、怪異の一種だと考えれば、気まぐれなのは仕方ないか)

 怪異は、人間が思っているようには動いてくれない。姿を消したからと言って、わざわざ探し回る必要はないだろう。

「……お母さんの寝る部屋、と言っていたな。おそらく、パーシー夫人の寝室だな」

 そのとき、廊下からがたんと何かが倒れる音がした。

「デテイッテ……カエシテ……カエシテ……」

 悍ましい少女の声が聞こえる。こちらに近付いて来ているようだ。

(まずい……どこかに隠れなければ……!)

 先ほど、ツムギがクローゼットのことを教えてくれたのは、フランにとって僥倖と言える。音を立てないよう慎重にクローゼットの中に入ると、寝室のドアが開いた。それと同時に、赤ん坊の泣き声が辺りに響き渡る。泣き声はクローゼットのそばで立ち止まり、ひとしきり泣いたあと、ゆっくりと去って行った。

(……もう出てもよさそうだ)

 ドアの隙間から室内を確認して、大きな音を立てないよう注意しながらクローゼットを出る。少女の声も泣き声も、ここを離れて遠くへ行ったようだ。

「……赤ん坊の泣き声……。リサ、なんだろうか……」

 赤ん坊の泣き声は人間を不安な気持ちにさせる。怪奇現象ともなると特にだ。人間に対する害意があるかは判然としないが、見つからないに越したことはないだろう。

「……少し疲れたな……。外の空気を吸いたい」

 廊下の端に、バルコニーに出られる大窓があったはずだ。埃だらけの澱んだ空気は、疲労感がさらに増すような気がする。新鮮な空気を肺に取り込みたかった。

 屋敷を囲む森の向こうでは、すでに陽が傾きかけている。なんとか今日中に屋敷の呪縛から脱したかったが、この屋敷で明日の朝を待つことになるかもしれない。

「……どうにかして、アレックスと連絡が取れればいいんだが……」

 何年も人が暮らしていない屋敷の電話は、外界に繋がっているはずがない。他に連絡を取る手段はなく、せめてアレックスとナタリーが早めに戻って来るといいのだが。

 新鮮な空気を堪能したフランは、パーシー夫人の寝室に行くことにした。ここで呆けていても仕方がない。とにかく調査をしなければ、外に出るための手掛かりも見つからないだろう。



◇2階[パーシー夫人の寝室]



「……半信半疑だったが……本当に綺麗だな」

 パーシー夫人の寝室は、隅々まで掃除が行き届いているように清潔だった。ベッドもカーテンも綺麗な白色で、埃が積もっている箇所もない。空気も澄んでいるようだった。

「ここだけ掃除している、というより……ここだけ空間が違う、と言ったほうが合致するかもしれない」

 アレックスが調査した痕跡はほんの少しだけ残っているが、部屋が綺麗であるためあまり跡にならなかったようだ。どちらにせよ、いちから調査する必要がある。痕跡があろうがなかろうが、特に気にする必要はないだろう。



【調査開始】



*本棚*

フラン

「……女性の本棚をジロジロ見るのはやめておこう。廃屋と言えど失礼だ」



*ベッド*

 綺麗に整えられている。

 廃屋でなければ飛び込みたいほどだ。



*机の上*

 日記帳が置いてある。


フラン

「パーシーさんの日記によれば、奥さんはリサが泣き続けることに苦悩していたらしい。……確かに、赤ん坊が泣き続けていたら、不安になるかもしれない」



***



フラン

「……5月25日に亡くなったはずの夫人が、6月19日の日記を書いている……。……アレックス……パーシーさんから何か聞き出せただろうか」



*チェスト*

フラン

「引き出しを開けた痕跡があるが……特に何もないな……」



*壁*

フラン

「埋め込み式の金庫のようだが……アレックスが開けたようだ」



*カレンダー*

フラン

「やはり10年前の物だ。1月のままだな。……そんなに1月に未練があるのか……」



*電話*

フラン

「……電話は苦手だ」




 最後にもう一度、入り口から室内を見回す。どこもかしこも、不気味なほどに綺麗だ。ここにいると、この屋敷が廃屋であることを忘れてしまいそうだ。

「……リビングにベビーチェアがあったが……ベビーベッドがどこにもない。……いや、本館の一階はまだ調査していない。それに……アレックスから地下室の鍵を預かっている」

 屋敷は広く、ひとりで調査するには部屋数が多い。一階を調査しているあいだに日が暮れてしまうだろう。廃屋に電気が通っているはずはなく、夜の調査は懐中電灯が必須になる。怪奇現象の屋敷の夜を懐中電灯の灯りを頼りに調査をするのは、この上なく不気味なことだろう。

 ふと視線を感じて振り向くと、ツムギがぼんやりした顔でフランを見上げていた。

「ツムギ」

「……ここまでのこと……覚えといてほしい?」



◆[覚えておいて]

◆[ヒントがほしい]

◆[ツムギのことを教えて]




◆[覚えておいて]

ツムギ

「ん……覚えとく。……忘れるかも」



◆[ヒントがほしい]

ツムギ

「…………」




◆[ツムギのことを教えて]


フラン

「ツムギはいつからここにいるの?」


ツムギ

「……さあ」


フラン

「パーシーさん一家が来るより前からいたのかな」


ツムギ

「……よく覚えてない」


フラン

「誰かと会ったことはある?」



ツムギ

「……ドロシー」


フラン

「リサには?」


ツムギ

「……知らない」


フラン

「……?」


ツムギ

「……リサ……知らない」


フラン

(……リサを知らない……? パーシー夫人が気を病むほど泣き続けていたのに……?)



 ツムギは、これ以上のことを話すつもりがないようだった。話は終わり、と言うようにフランの左手を引く。ツムギが立ち止まったのは、電話の前だった。

「電話がどうかしたの?」

「……取って」

 ツムギが受話器を指差す。廃屋の電話が使えるとは思えないが、フランは受話器を取り耳に押し当てた。

「……繋がっている……?」

 電気の通っていないはずの廃屋の電話から、電子音が鳴っている。適当に「3」を押すと、プ、と機械的な音が聞こえた。

「……かけて」

「…………」






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