2.フランパート【2】
後ろ髪を引かれつつ背を向けたアレックスとナタリーを見送ると、案外に平気なものだ、とフランは考える。もっと不安や寂しさ、恐怖なんかの感情が湧いてくると思っていた。それが当然だろう、と。怪奇現象の館に取り残されるなど、非常事態にもほどがある。だというのに、不思議と平気だった。
「……さて。ふたりを待つあいだに、もう少し屋敷の中を調査してみようか」
我ながら前向きだと思う。わけのわからない怪奇現象の中に取り残されたというのに、さらなる調査に乗り出そうとするなど。
「……外に出た途端に、疲れがなくなったな。さっきまで体が重くてしょうがなかったんだが」
【疲労度】
調査を進めるあいだ、フランには「疲労度」が溜まっていきます。屋敷の外(アプローチ、バルコニー、中庭、裏庭)に出ることで疲労度をリセットすることができます。
サンルームでは回復できないので注意しましょう。
フランが倒れると、セーブ時に戻ってしまいます。小まめな回復とセーブを推奨します。
「……西館と2階も、調査してみようかな。先に西館を調べようか」
すでにアレックスとナタリーが調査を済ませてあるが、視点を変えると何か違う情報が出てくるかもしれない。調査は何度、行っても損はないだろう。
◇西館[リビング]
「……埃っぽいな。ナタリーがあちらこちらに触った跡がある。……まあ、事務所に戻ったら手を洗うだろう」
【調査開始】
*テーブル*
フラン
「……汚い」
*椅子*
フラン
「……木の椅子だ。座り心地は……悪そうだな。
……試すのはやめておこう」
*ベビーチェア*
赤ん坊を座らせる椅子だ。
*食器棚*
フラン
「……引き出しを開けた痕跡がある。ナタリーだな。
……何が入っていたのだろう」
*電話*
フラン
「…………」
*冷蔵庫*
フラン
「……冷蔵庫の中は、見ないほうがいいだろう。他人の家の冷蔵庫は……見ても碌なことがない」
*シンク*
水垢がこびりついている。
*カレンダー*
フラン
「この家のカレンダーは、すべて10年前のものなのかな。引っ越した当時のまま、ということか。
……2月から6月までのページがない。よほど1月に未練があったと見える」
*チェスト*
フラン
「引き出しを開けた痕跡があるが……特に何もないな……」
そのとき、がたんと何かがズレる音が聞こえた。特に驚きもせずに振り向くと、大事そうに本を抱えた少女がフランを眺めている。ぼんやりした目をしており、敵意のようなものは感じられない。
「……この屋敷に棲みつく怪異……だろうか……。襲って来る様子はないな……。近付いてみよう」
我ながら肝が据わっていると思う。あの少女が怪異だった場合、フランに何をして来るかわからない。それでも、フランは様子を窺いながら少女に歩み寄った。
「…………」
少女はぼんやりとフランを見上げ、口を開くことはない。
「…………」
最初の一言はなんだろう、と考えながらフランも何も言わずに少女を見つめる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……なんかしゃべってよ」
奇妙な空気の均衡を破ったのは少女だった。フランが口を開かないことに痺れを切らせたようだ。
「きみは?」
「……ツムギ。ここまでのこと……覚えといてほしい?」
【ツムギ】
ツムギはこれまでの記録をつけ、セーブをしてくれます。ただし気まぐれですので、同じ場所にいるとは限りません。
けれど、フランのことが気に入った様子ですね。
◆[覚えておいて]
◆[ヒントがほしい]
◆[ツムギのことを教えて]
◆[覚えておいて]
ツムギ
「ん……覚えとく。……忘れたらごめん」
◆[ヒントがほしい]
ツムギ
「……ベビーチェア」
◆[ツムギのことを教えて]
この屋敷の情報も必要だが、こうして怪異のほうから姿を現したとなれば、その怪異の正体を知ることも重要になるかもしれない。フランはそう考え、口を開いた。
「きみは……この屋敷の怪異、なのかな?」
「……さあ」
「…………」
「…………」
少女――ツムギは、その問いに答えるつもりはないようだった。ぼんやりとした瞳でフランを眺めたまま口を閉ざしている。
(どことなく東洋系の顔立ちだな……。この屋敷との関係がわからないことには、何も……)
だが、ツムギはフランにヒントを与えてくれた。そこを調べれば何かが出てくるかもしれない。
*ベビーチェア*
フラン
「……ん? 裏側に何か……」
【「黄色の鍵」を入手した】
フラン
「どうしてこんなところに……」
調査において鍵は重要な物になる。特にこの廃屋では、鍵をかけたまま出て行った可能性もある。この鍵が役に立つときがあるかもしれない。
「……ん? ツムギがいないな……。まあ、屋敷内にいればまた会えるかな……」
いつの間にか少女の姿がなくなっている。もうフランと話すことはなくなったようだ。何を考えているかはわからないが、敵意がない点は運が良かった。こんな呪われた屋敷で敵意のある怪異と出会ってしまった場合、もう二度とこの屋敷から出られなくなるかもしれない。そうなれば、アレックスとナタリーのもとには戻れなくなるだろう。それだけはなんとしても避けたい。
「もうひとつ奥の部屋を調べに行こう」
調査する場所はまだまだある。いちいち足を止めている暇はないだろう。
◇西館[子ども部屋]
廊下も室内も、やはり埃で汚れていた。カレンダーが当時のものなら、パーシー家は十年前までここで暮らしていたと見られる。埃はともかく、十年間で屋敷自体がこれほどまでに荒廃することがあるだろうか。そもそも古い木造建築だが、手入れが施されていないというだけで床が抜けそうなほど軋むことがあり得るのだろうか。木造建築で暮らしたことのないフランにはわからないことだった。
「……子ども部屋か。長女ドロシーの部屋……かな」
【調査開始】
*電話*
フラン
「…………」
*本棚*
フラン
「……女の子の本棚をジロジロ見るのはよくない」
*ベッド*
フラン
「……これは……なんの柄なんだろう……。まあ、ファンシーで少女向きだ」
*クマのぬいぐるみ*
「可愛いドロシーへ」と書かれている。
*机の上*
日記帳が置いてある。
フラン
「……女の子の日記を見るのは……。だが、他に情報を得られるものはない……」
+ + +
フラン
「……なるほど。アレックスは、次女のリサは1歳だと言っていたが、1歳はもう言葉が出てるんだったかな……。身近に子どもがいないからわからない。
……もしかしたら、リサの言葉はドロシーにしかわからなかった……なんてこともあったのかもしれない。子どもは不思議な生き物だからな……」
*クマのぬいぐるみ*
フラン
「……ドロシーの日記によると、彼はダニーと言うらしい。
…………。
ダニーがいま喋り出したら、怪異に遭うより怖い」
そのとき、がたん、と何かが崩れる音がした。誘われるままに振り向くと、髪の毛の長い少女がふらふらしている。そのぼさぼさの頭髪から覗く目は、それがこの世のものではないことを物語っていた。
(……なんだ、あれは……。幸い、こちらには気付いていないようだ。どこかに身を潜めて、やり過ごそう)
しかし、ここまで調査した限りでは、身を隠せるような場所はない。クローゼットには、置いて行かれた服がたくさん入っている。
(人が暮らしていた部屋だから当然だが、隠れられる場所がない……。参ったな)
そのとき、開いていたクローゼットの蝶番が、キィ、と甲高い音を立てた。少女の首が壊れたロボットのようにフランを振り向く。少女が水浸しの足で一歩を踏み出した瞬間、フランの意識は遠のいていた。