緋東結紀と異質のアリス①
アリスシンドロームと呼ばれる病が流行りだしたのはいつのことだったかは分からない。
ただ、今ではそれが当たり前に存在する事だけは確かだ。
アリスシンドローム、通称アリス。
簡単に言えば見たくない現実から逃げ出そうとした人間が自分だけの世界を作り殻の中に閉じこもる病だ。
殻の中に閉じこもった人間も病名と同様にアリスと呼ばれる。
そして、アリスの身体に触れれば触れた人間はそのアリス世界に引きずり込まれる。
そうなると自力での脱出は不可能となり、アリスに見つかれば排除される。
つまりは死あるのみだ。
アリス世界に存在ごと飲み込まれた一般人は、姿形も残さずにアリスの中で消化される。
他者を巻き込み、アリス自身は戻ってこないで永遠に自分だけの世界を守る行為を繰り返す。
そんな危険な特性を持つ病である。
特殊な病であるアリスシンドロームには、アリス専門の治療者がいる。
その名は不思議ふしぎの国くに。
アリスと言えば不思議の国だろうと単純な理由で付けられたその名の通り、それぞれがアリスを治療するための不思議な能力を持つ。
そんな不思議な能力を駆使してアリスを治療することを専門にしている機関がある。
それがアリス専門治療機関、通称アリスケース。
特に目立たず、変わったことも起こさない。
そんな日陰で暮らしていた緋東結紀は、ある日を境に突然能力に目覚めた。
それは、結紀の運命を大きく変えるものだった。
両親を早くに亡くした結紀は、遠くの学校に通っているため滅多に帰ってこなかった兄ーー結樹と二人暮しになった。
結樹はアリスケースで働く優秀な不思議の国で、結紀の両親も不思議の国の住人だ。
しかし、結紀は不思議の国の家系でありながらも、能力に目覚めることが無く十六年という月日を過ごしていた。
結樹と両親が不思議の国の住人であることを知ったのは、結紀がとある事件に巻き込まれてからだ。
それまで、結紀は何も知らされずに生きてきた。