読書
土曜日。
今日ユキとりりかはユキの家で集合して遊んでいた。
といっても何するでもなくお互いに先日買った百合漫画を読んでいるだけだ。
ユキは謎の怪物と戦う少女たちを描いたバトル系の百合漫画。
りりかはSM系の百合漫画を読んでいた。
「百合もの読んでると自分も百合したくならない」
「いやなんでよ」
「なるでしょ?」
「私は百合好きなだけのノーマルよ」
「本当に?」
りりかが唐突にユキの顎を右手の親指と人差し指で挟んで近寄る。
完全に顎クイの体勢だった。
綺麗系美人のりりかにこんな至近距離でこんな体勢で話されたらノンケだって百合に目覚めてしまうのは必然だ。
「本当よ」
ユキが答える。
だがその視線の先は若干逸れ、表情も微かに赤みがさしていた。
「ならなんで目線逸らしてるの?」
「そんな至近距離で近寄られたら異性だろうと同性だろうと焦るわよ」
「じゃあ、これはなに?」
そう言ってりりかが出して来たのはアイドル系の百合漫画の1シーンだった。この作品の主人公とメインヒロインは幼馴染で互いに凄い仲が良くて、距離も近い。なんなら頬にキスくらいは頻繁にしてる。
「現実と二次元を一緒にしないでよ。だいたい仮に百歩譲って私も百合したくなったとしてもそれはない」
そう言ってユキはりりかが読んでいたSM系の百合漫画を指さした。
「うーん、意外とわたしはユキはMだと思うんだけど」
「怒るよ」
ユキが冷たい笑みをりりかに向けて言う。
「あ、ごめん……」
そんなユキを見てりりかは慌てて謝った。
……
暫く二人は読書に戻った。
そして、再び口を開いたのはりりかだった。
「ユキは恋愛しようと思わないの?」
「だから言ったじゃない、しないって」
「いや同性とだけじゃなくて」
「ああ、そういうこと」
りりかの質問にユキは少し恥ずかしそうに納得した。
「あんまり興味はないかなあ」
「やっぱりガチ……」
「それは違う」
ユキは即答する。
「イドって知ってる?」
「井戸?」
「フロイトが提唱した人間の中にある無意識領域」
「私が無意識のうちに百合に目覚めてるって?」
ユキが顔を引きつらせながら言った。
「そんなことは一言も言ってないよ。でもそう思うってことは心当たりがあるじゃない? 恋愛しないの?って聞いて異性をはなから範疇に入れてないあたり」
「いや、それはさっきの話から連想したからというかなんというか……」
曖昧でなんだか容量を得ない感じでユキが話す。
「ユキ自信がそんなことないと思っていても、実際には既になっているかもしれないよ」
「うーむ」
「試しになんかしてみていい」
「ねえ、どう考えてもりりかの方がレズじゃない?」
「わたしは現実の女の子も大好きだし」
「しまった。レズを家に上げてしまった」
「大丈夫よ、ちゃんと段階は踏むから」
「そういう問題じゃないし、最終的にどこにいきつくのか知りたくもないよ」
「ツンデレ?」
「なんでそうなる。てか近いわよ!」
そう言っていつの間にか両肩を掴んで顔を近づけていたりりかをユキは押しやる。
その時のユキの顔は相変わらず赤みがさしていた。