七章 理想はセピアのように
続きになります。
不覚にも奇妙な協力関係が締結した昼下がりの物理準備室。
訳のわからない混沌がようやく落ち着いたと思いきやそれも束の間、今度は解決案の捻出に手を焼いていた。
「夢を見るように・・・つってもどうすりゃ良いんだ?夢を見ないってのは身体的に悪いようには思えないんだが・・・」
「私なりに一度調べたのですが、夢を見ないという状態は、どうやら自覚していないだけの可能性があるようです。大方の原因が疲労困憊によるもので、気絶に近いような睡眠をしているらしいですよ」
「俺は毎日気絶してるってか・・・でもここ最近ストレスなんてないしな。親父もある時から吹っ切れたのか知らんが、人が変わって自由主義になったし・・・・・・」
「確かに悪いことのようには思えませんね・・・何か日常に新しいストレスがあれば良いのでしょうか・・・?」
別にわざわざストレスを与えなくてもいいじゃないか・・・というか、それはそれで余計に夢見が悪くなるだけじゃないの。
もう段々と面倒になってきたな・・・睡眠事情が治らなかったところで俺の日常に何ら影響は無いし、そもそも対象の実物が手に取れない概念だからな・・・。
これ以上エネルギーを費やすの病み上がりの体に障る。
とは言え一度呑み込んだ以上は前に進む他にない。ぶっちゃけその夢とやらも気になるしな。
ここは一つ、仮説を立てて検証しておけば、結果がどうであれ時間が解決してくれるだろう。
「・・・ストレスじゃなく何か心を打たれるような事物があれば変わってくるかもな。自慢じゃないが、今のこの状態になってからというものの、これといった趣味や楽しみが一切無いんだ」
「ほう、それは大きな手掛かりかもしれません・・・では早速お聞きしますが、赤城君が興味関心のある分野はございますか?」
「・・・・・・・・・」
やっべ、なーんにも出て来ん・・・。
いやそもそも、そんな分野あったら一人でとっくに解決してるわ。
興味、関心か・・・・・・。
あぁ、一つだけあったかもしれない。
「おや、何か思い当たりましたか?」
「多分だけど、一つだけ・・・昔家族に連れられて行った絵画展、そこに展示されていた一つの絵に吸い込まれたかのように見入ったのを思い出した」
「絵画・・・詳細は?」
「名前は覚えていない、というか知らない、作者も。ただこう、絵のほとんどが空で、海辺・・・?みたいなところで、人影が一つだけ描写されていたのは覚えている」
願わくばその絵画をもう一度ご覧になりたい。名前を覚えていないのが本当に悔しい。
唯一覚えているのが、熱烈なインパクトと言うよりかは、低周波が静かに犇いて、周りの雑音をゆっくりと掻き消していくような感覚だった。
モダンな言い方をするならば、雑踏の中、適当な本を読んでいたら思いの外面白くて、で気づけば周囲の人間がいつの間にか消えていた感じ・・・。
あんましっくり来ねえな・・・。
ともかく言葉では形容できない魅力があったんだよ。
「その絵にどう魅入られたんですか?」
「ただただ非現実的なんだ。現実を眺めていた人格を乗っ取られたみたいに頭が空っぽになった」
「・・・ほう」
「一度でも良いから、ああいう世界に行ってみたいとは今でも思う。ただあれは色褪せていた気もしたから、実物はもう少し鮮やかな方が好ましいが・・・」
「それはそれは・・・・・・」
おっと、いかんいかん。当時の感覚で話していたらだいぶ本筋から脱線してしまった。
我に帰ってふと時計を見ると、昼休みが残り五分のところまで差し掛かっていた。
マジか、もうこんな時間かよ・・・。
因みに弁当は食べきっていない。親になんて言おうか・・・。
「・・・中途半端だけど、そろそろ教室戻るわ。昼休みが終わっちまう」
「赤城君、貴方が先ほど言っていたその幻想ですが・・・・・・」
「ああ、忘れてくれ。少し熱が入って脱線しちまった」
「いいえ、もしかしたら割とすぐ叶うかもしれません」
何だって・・・・・・?
「では私も教室へ急ぎますので、今回はこれで。放課後に再度そちらへ寄りますので、その際に連絡先を交換しましょう・・・ではまた」
そう言って榛名は準備室を後にした。
嵐のような衝撃だけを置き去りにして。
いやあ、今までどうして先の展開だけを練っていたのやら、自分がバカバカしくなるくらいには順調ですね。
あ、どうも水川です。
我ながら作品の具合が良すぎてモチベーションが止まることを知りません。
ついさっき先の展開がどうとか書きましたが、ぶっちゃけあの構想がなければここまでスムーズに書き上がっていなかったです。
失踪しなくて本当に良かった。
余談ですが、私実はX(旧Twitter)アカウントがあったんですよ、本作品の作者名義なんですが。
調べれば出てくると思うのですが、あれ実はパスワードが分からなくなって今現在もなお動かせないんですよね。
なのでこの作品の認知は本サイトをご覧になっている皆様のネットワークに委ねているわけです。なかなかハードですねぇ。
とは言っても、この作品は私自身がこの世で一番面白いと思う作品を世に残したいというエゴの投影ですので、認知よりも丁寧に進行していく事を念頭に置いております。
さて、今回も手短に挨拶を締めさせていただきます。
ではまた次回、お会いしましょう。