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記憶喪失

「ん……」

目が覚めると自分のベッドに寝ていた。

あら?私、学院に行っていなかった?どうして家に帰っているの?自分の状況が上手く呑み込めていない私の部屋の扉が開いた。


「エラ?」

入ってきたのは小さな甥っ子だった。

「ヴィート?おはよう?」

「エラ、おねぼうさんだよ。今はおやつの時間だもん」

「そうなの?私、いっぱい寝ちゃった?」

「うん。すごくいっぱい」

「そっかあ」

お兄様とお揃いの綺麗な黒髪の、ヴィートの頭を撫でているとまたもや扉が開く。


「エラ?」

「リーナ義姉様?」

今度は義理の姉のリーナ義姉様だった。ミルクティー色の柔らかい髪を揺らし、ブルーの目を大きく見開いている。

「……」

「義姉様?」


リーナ義姉様は、再び扉を開けて大きく息を吸い込んだかと思ったら思い切り叫んだ。

「皆ー、エラが、エラが目を覚ましましたわー」

「え?どうしたの、義姉様」

そう言い終わった途端、物凄いたくさんの足音がこの部屋めがけて襲来してきた。


「え?何?怖い」

ヴィートを抱きしめて怯えていると

「エラ!!」

そこにはお兄様を筆頭に、お父様、お母様、侍女から使用人から、ほとんどの家の者が大集結していた。


「エラ、良かったわ。目が覚めたのね」

お母様に抱きしめられる。銀の髪を綺麗に纏め、アクアマリンのような瞳が優しく私を見ている。

「お母さま、一体どうしたの?」

「覚えてないの?」

お母様が不思議そうな顔をする。


「何を覚えてないの?」

「……あなた、どうしてここで寝ていたか覚えてる?」

「風邪、かしら?」

「……覚えてないの?」

「だから何を?」


不毛になり出した母娘の会話に割って入ったのはお兄様だった。私より少しだけ薄い緑色の瞳は優しく、艶やかな黒髪をかき上げながら私に質問をする。

「エラ。君はケガをしてしまって気を失ったんだ。覚えているかい?」

「いいえ」

「じゃあ、起きる前の事では何を覚えている?」


「ええっと、お友達数人で食事をしたあと、学院の図書館で本を借りていたわ」

「そうか、学院での他の事は覚えているみたいだね。じゃあ、何とかっていう男爵令嬢の事は?」

何とかって、名前がわからない人の事を聞くってどうなの?とは思ったが

「男爵令嬢?誰の事?男爵令嬢のお友達はいなかったと思うけど」


お兄様がお父様を見る。黒髪で緑の瞳の二人は、髪の長さこそ違うがよく似ている。二人で並ぶとイケメン率が何倍にも跳ね上がるようだ。しばらく話をした二人。今度はお父様が私の傍に来た。そっと手を包んでくれる。


「エラ、気分はどうだ?」

「すこぶる元気よ。今なら裏の森まで一気に駆けていけそうだわ」

「そうか。それは良かった。ではもう少し質問してもいいかな?」

「ええ、どうぞ」


「そうだな。まずは第二王子のドナート殿下が先程も見舞いのカードを送って来たのだが、友達なのかな?」

「ええっと……そう、だったかしら?同じクラスにいたような……ああ、そうね。お友達よ。仲良くさせて頂いているわ」


「恋人ではなく?」

「恋人?だって私には……あれ?私には?ん……?」

「質問を変えるよ。第一王子であるフィリベルト王子の事は知っているかい?」

名前を聞いた瞬間に、何か胸の奥の辺りがチクリとした気がした。そんな自分の小さな変化に少しだけ戸惑う。


「何かしら?今、ちょっとだけ胸が痛くなったわ」

「……そうか」

「第一王子殿下の事は存じ上げないわ。学院にいらっしゃるのでしょうけれど、確かドナート殿下の2こ上でしょ。上の学年の方とはお会いする機会もないし」


「……そうか。わかったよ。さ、きっとお腹が空いたんじゃないかな。少し何か口にした方がいい。早く、元の元気な私の可愛い天使に戻れるようにね」

そう言って、私の額にキスをしてくれたお父様が、他の皆も連れて部屋を後にした。

最後まで残った侍女のジェシーが「今、スープをお持ちしますからね」そう優しく言って部屋を出た。


上半身だけ起き上がらせていた私は、再びベッドに横になる。

「ケガしてるわね」

頭に包帯が巻かれていることに、今更気付いた私は懸命に思い出そうとする。


「どうしてケガしたんだったっけ?転んで後ろにひっくり返ってしまったの?それとも高い所から落ちたとか?」

しばらく考えてみるけれど思い出せない。


「まさか、木登り?」

「いやいや、この歳でさすがに木には登らないわ」

独り言でノリ突っ込みをしてしまった。


「はあぁ」

考えてもわからない事に溜息が出る。

「ドナート殿下。それとフィリベルト殿下?」

またもや胸の奥がツキンと痛む。


「ドナート殿下」

少し間を開ける。痛みはやって来なかった。

「フィリベルト殿下……」

ツキンと小さな痛みが胸を襲う。

「どうしてかしら?」


どんなに考えても、私には答えがわからなかった。


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