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光の魔法を持つ少女

 私が王立魔法学院に入学した2カ月後に、一人の令嬢が遅れて入学して来た。パルミナ・サバニーニ男爵令嬢。なんでも光魔法を持っていることがわかったので、急遽、魔法学院への入学が認められたそうだ。魔力はそこまで多くはないらしいが、光魔法自体が非常に珍しく、ここ数十年表れる事がなかった魔法だった。


彼女が入学してまもなく、彼女の傍にフィルがいる光景を見かける事があった。二人きりではなく、彼のほかに二名ほど一緒にいた。いずれも伯爵以上の爵位の殿方だった。その姿は日を追うごとに数多く見られるようになり、周りが騒ぎ出すほどだった。


「ねえ、エレオノーラ。なんで兄上の事何も言わないの?完全に浮気だよ、あれは」

同じクラスになったドナートが、私の分まで怒っていた。

「ありがとう、私の為に怒ってくれて。でもね、私はフィルを信じているの。きっと何か事情があるのだと。例えば、光魔法を持っている彼女の護衛とか。そう考えるとそうかなって気がしない?」


「そんなの、現実から目を逸らしているだけだよ。エレオノーラ、ちゃんと現実を見てよ」

ドナートには、毎日のようにこうして心配してもらっていた。本当に心の優しい王子だった。


そんな話を聞いても、私はまだフィルを信じることが出来ていた。


 ところが別の問題が出てきてしまった。パルミナ・サバニーニ男爵令嬢の方だ。男爵令嬢とは名ばかりで、ほぼ平民と同じ暮らしをしていたという事で、彼女には令嬢としての常識やマナーが全くなかった。それに加え、フィルを含め高位の貴族令息が自分の周りでチヤホヤしてくれる事で、気が大きくなってしまったようで、傍若無人な振る舞いを繰り返すようになったらしいのだ。


それに対して一緒にいる殿方たちは、まだ貴族の世界に慣れていないのだから大目にみてやれという言葉だけで注意をすることもないそうだ。

「フィリベルト殿下は流石に注意するのでは?」

訴えてきた令嬢たちに質問する。


「全然です。フィリベルト王子殿下も、傍でニコニコしているだけなのです。ですから婚約者であるエレオノーラ様に相談に来たのです」

「そう……」

フィルであれば、そういう事はしっかり注意するなり、教えるなりすると思うのだが。


「それだけではありません!男爵令嬢が侍らせている殿方は、高位貴族であるのは勿論ですが婚約者がいらっしゃる方が多いのです。婚約者のご令嬢方は皆、自分の婚約者に注意するらしいのですが、どんなに注意しても彼女の傍を離れることはしたくないの一点張りだそうで、既に2組ほど婚約破棄に向けて話が進んでおります」


「そんな……」

そんなにもその男爵令嬢は素晴らしい方なのか。婚約者をないがしろにするほどに?


「フィリベルト王子殿下だって一緒です。優しく肩を抱いている姿を目にしました」

「え?」

予想外の事実にしばし頭が働かなかった。しかし、ドナートの怒りの言葉に我に返る。


「だから言ったじゃないか!兄上はあの男爵令嬢にうつつを抜かしているんだ。もう兄上はエレオノーラが好きな兄上じゃないんだよ!」

「ドナート殿下……」


私の中のフィルを信じていた心がざわっとした。信じているから信じたいに変わってしまった瞬間だった。


「わかりました。私の方でもその男爵令嬢及び、周辺を観察してみます。何かおかしなことがあれば注進するようにも致しますわ」

そう言って、彼女たちと別れる。


 週末。

フィリベルト王子とのいつものお茶会のために城へ上がる。

「エラ!会いたかったよ。学院では忙しくてなかなか会えないからね」

いつも通りのテンションで私との逢瀬を喜ぶフィル。私に対して後ろ暗い所があるとは感じられない態度だった。


「そうね」

それなのに、彼の顔を見ても上手く笑えない自分に気付いた。


「どうしたの?エラ。元気がないみたいだけれど、具合でも悪い?」

心配そうな顔で私を覗き込む。やはりその表情には少しも背徳感を持っているようには見えない。


「フィル、実はね。何人かのご令嬢方から相談を受けているの」

「へえ、どんな相談?」

「光魔法を持っている男爵令嬢と彼女と行動を共にする殿方たちの事よ」

「へえ……」

ほんの少しだけ表情が変わったのを私は見逃さなかった。


「皆様、随分と男爵令嬢の方にご執心なようで、婚約者の方がどんなに窘めても全く意に介さないどころか婚約破棄に向けてお話が進んでしまっている方もいるそうよ」

「それは大変だね」


「フィル、あなたも彼女の傍に常にいるわよね」

「光魔法の持ち主だから気を付けるようにと父上から言われているからね」

「ええ、そうね。私もそうだと思っていたわ」

フィルは明らかにほっとした顔をした。私の髪を梳きながら微笑む。


「あなたが彼女の肩を優しく抱いていたのを見かけたご令嬢が現れるまでは」

髪を梳いていた手が一瞬止まった。ああ、本当の事だったのね。心の奥に何かが刺さったような痛みを感じた。


「その令嬢が見間違えたんじゃない?」

「そんなはずはないわ。見たのは一人ではないもの。それに、自国の王子を見間違える貴族なんてそうそう居ないと思うけれど?」

フィルが明らかに動揺している姿を見て、私の何かがすうっと冷えた気がした。


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