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幼い恋心

 まるで悪戯を思いついたような、罪の意識などまるでないような笑顔のドナート。

「だけどさ、剣の腕も魔法の腕も凄い兄上を襲ったところで勝てるわけがない。それでね、エレオノーラを狙って矢を射る事にした。そうすれば兄上は、絶対に身を挺して守ると思ったからね。もう予想通りで笑っちゃったよ」


思い出したようにケタケタと笑い出す。


「なのに」

笑ったかと思ったら急に怖いくらいの真顔になった。


「どうして兄上は生きていたの?」


彼は壊れてしまっている。そう思った。思わずフィルの服をギュッと掴む。それに呼応するかのように、彼も腰を抱いていた力を強めた。


「私がフィルの傷を治したわ。階段でのあのケガの後、どういう訳か光の魔法が使えるようになったの。だからあなたの腕輪にも気付いたし、それがパルミナ様の腕輪と繋がっているのも視えた。彼女が光の魔法を持っていない事もね」


「そっか……なにもかも上手くいかなかったんだ」

がっかりしたような、それでいて少し悲し気な表情で呟いたドナート。


「ニケであるエレオノーラが欲しかっただけだったのにな」

「ドナート殿下……」

どう声を掛けたらいいのかわからなかった。


「ドナート。何故そんなにニケにこだわっていたんだ?」

フィルが問いかけた。


「何故って……恋していたんだ。あの絵本のニケに。だからエレオノーラを初めて見た時は運命だって思った。私の為にニケが人になって現れてくれたんだって……本当にそう思ったんだ」


力なく笑ったドナートは、お兄様に連れられて会場を後にした。大きな罪を犯してしまった彼は、審問会で正式な罰が決まるだろう。幼い頃から優しい弟のような存在だった彼が重い罰になるのは辛い。堪えていた涙が一筋だけ、堪えきれずに流れた。


「ねえ、私は許してもらえるのよね。私は魅了を使っただけだし」

へらへらとしながら重い空気を更に重くするような事を言うパルミナ嬢。魅了は禁術だという話を聞いていなかったのだろうか。


「ねえパルミナ嬢、君は魅了を使って一体何がしたかったの?どうもそこがわからないんだ。次々と高位の貴族令息ばかりを魅了で落として。君はどうしたかったの?」

フィルが心底不思議だという顔をする。確かに彼女は何をしたかったのだろう。


問われた彼女はなんの躊躇もなく答えた。

「私、一度でいいからハーレム作ってみたかったんだぁ」

「……ハーレム、かい?」

「そ、ハーレム」


彼女は嬉々として語り出した。

「だって、こんなに可愛い見た目なのに、生まれたのが貧乏男爵家だったせいで、全く婚約話も来ないのよ。街に出ても声を掛けてくるのは平民か商人ばっかりだし。不公平だと思わない?こんなに可愛いんだから、この可愛さに見合った贅沢な暮らしがしたいじゃない。


そんな事を思っていたらチャンスが巡ってきたわけ。でね、この学院を見た時に私、思い出したの。ここは小説の中の世界だって。私が主役で最終的に王子様とハッピーエンドになる物語だって。だったら王子様と結ばれるのは決まってるんだから、その前にハーレムを作って楽しもうって思ったの」


満面の笑みで語っているけれど、ここが小説の世界?それってどういう事?ここを舞台にした物語があるのだろうか?それを本物だと捉えているという事?


「この学院ならお金持ちの貴族が一杯いるし、本当に楽しかったわ。イケメンたちを侍らせて、私が願えば宝石でもドレスでもすぐに誰かがプレゼントしてくれるのよ。これこそ私が求めていた世界!


その中でもやっぱりフィリベルト様が一番カッコよくて。こんな素敵な人と結ばれるなんて最高って思ってたわ。婚約者のエレオノーラとの仲が、ちょっと本とは違っていたけどね」


私を呼び捨てにした事で周りがざわっとした。フィルの顔に青筋が立つのが見えた私は、そっと彼の腕に触れて落ち着かせる。まだ話は続くようなのでここで中断させるのは時期尚早だ。


「私は小説の通りの行動をしつつ、ハーレムを楽しんでいたわ。でもやっぱりエレオノーラが小説とは人物像が違うせいで、なかなか話が進まなくて。無理矢理階段から落ちようと思ったのに失敗するし。おかしかったのはフィリベルト様だったなんて。私を好きになってないなんて酷すぎない?私はこんなに好きなのに」


呆気に取られてしまった。あまりにも稚拙な自分本位な願望の為に、禁術を使うものなのだろうか?しかも小説の通りになるって頭がおかしいの?こんな人の為に、何人もの令嬢方が泣いて苦しんでいたなんて。こんな人の為に私はフィルを信じられず、挙句忘れてしまったの?馬鹿馬鹿しいにも程がある。


怒りが沸々と湧き上がってきた。こんなに怒るのは生まれて初めてかもしれない。魔力がぶわっと膨れ上がったのが自分でも分かった。


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