魔法学院の舞踏会
社交シーズンが始まる少し前。
魔法学院ではその年、デビュタントの男女を集めて模擬舞踏会をする。今年も例年通りに2年生の男女がドレスを着て会場となる王城に集まっていた。
婚約者がいる者は学年関係なく一緒に参加することが出来るのだが、今年はそれだけではなく、4学年全ての男女が集まっていた。
「ねえ、これってどういう事?」
私の隣でドナートが首を傾げている。
「さあ?もしかしたら王族のあなたがデビュタントでいるからじゃない?」
「ええ!?兄上の時にはそんな事なかったと思うけど」
そんな会話をしていると、学院長の挨拶が始まった。
「今年は特別に学院の生徒全てが参加する事になった。本物の舞踏会に引けを取らない規模の会を用意してくださった王家に感謝しよう」
すると、国王と王妃が会場に入って来た。その後ろからは宰相と騎士団長、魔術師団長のお父様にお兄様が次々と入ってくる。そして最後にフィリベルト殿下が入ってきた。
「フィリベルト様、ファーストダンスは私と踊る約束ですよ」
国王がまだ何も語り出していないと言うのに、大きな声でフィリベルト殿下に声を掛けたのはパルミナ・サバニーニ男爵令嬢だった。
国王と王妃は無表情。宰相と騎士団長は怪訝な顔をする。お父様とお兄様に至っては黒い笑みを浮かべている。声をかけられた本人はというと、パルミナ嬢に笑顔を向けた。
「ほおら。兄上はこんな公の場なのに、あの女にあんな笑顔向けちゃってるよ。エレオノーラももう分かっているんでしょ?あ、そもそももう忘れているからいいのか」
一人でニコニコしているドナートを無視して、壇上にいるフィリベルト殿下を見る。
私と目が合ったフィリベルト殿下は軽く頷くと席へ座った。
「今日はもうすぐデビュタントを迎える子供たちの為に、本格的な舞踏会を用意した。楽団も料理も全て、本物の舞踏会と同じようにしている。残念ながらアルコールは用意していないがな」
聞いていた上の学年の殿方が、明らかにがっかりした雰囲気を出した。
「はは、物足りない者たちもいるようだが、あくまでも2年生がメインの会である故許せ。そして今回だけ何故4学年全員を集めたのかも説明せねばなるまい。踊りたくてうずうずしている者たちも、すまないが今しばらく待ってもらいたい」
それだけ言って国王は席へと戻る。
次に前に出てきたのは宰相だった。
「舞踏会を始める前に、皆さんに話さなければならない事があります。大変悲しい事にこの1年余りに、例年にはない数の婚約不履行が起こってしまいました。それもほぼ全て女性側からの訴えによってです。
家同士で決めた話であればそれも致し方なしと納得しますが、本人同士が望んで婚約を結んだにも関わらず、泣く泣く解消するケースも多々あったようです。いや、そのケースの方が多かった。
あまりにも続く婚約不履行に私たちは疑問を持ちました。普段であれば、出された書類は不備がなければすぐにも受理するのですが、今回は預かりという形を取らせて頂いています。これはそれぞれの家の方には報告済みです。これからの話を聞いて、それでもと思う場合は受理させて頂きます」
会場が一気にざわついた。身に覚えのあるものは勿論、そうではない者たちも一体どういう事なのかと思っているからだろう。
「そもそもの発端は、ある属性を持った令嬢が現れた事です」
会場の視線が一斉に一人に集まった。だが、当の本人は話を理解していないようでキョトンとしている。
「光の魔法を持つ令嬢がいると報告を受けた際、私が直接鑑定させてもらった」
今度はお父様が話を引き継いだ。
「鑑定の水晶では明らかに光の魔法を示していた。だが圧倒的に魔力が足りない。文献では光の魔法を持つものは、多大なる魔力と共に表れるというのが常だ。これは我が魔術師団にある文献にしっかり残っている。
光の魔法とは傷や病を治療することに特化している。火や水などの魔法と違って、己の魔力を他者に流し続けて治療をする。少量の魔力で他者に魔力を流し続ける事は到底出来る事ではない」
会場がシンとした。
「では何故、水晶では光魔法を表しているのか。どうにもおかしいと私は自分でも鑑定してみた。すると光魔法を発しているのは彼女ではなかった」
今度は皆の顔が不思議そうな顔になった。パルミナ嬢が発してないなら一体誰が発しているというのか。
「彼女自身から発せられていたのは微量の水魔法だった。光魔法を発していたのは彼女の手首に着いている何かだった」
再び会場の視線が一斉に彼女の手首を見た。彼女は無意識に手首を片方の手で覆った。