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死なせない!

「え?」

矢の風圧で髪が一房舞った。一瞬、何が起こったのかわからなかった。


再び風を切る音。先程と同じ方角からだった。明らかに私に向かって飛んでくる。

「エラ!!」

微動だに出来ずに立ち尽くす私を覆うように、フィリベルト殿下に抱きしめられた。


ドシュッ

鈍い音がした。

「うっ」

フィリベルト殿下が苦しそうな声を吐いた。


「エラ、大丈、夫?」

苦し気に、でも心配そうな顔でそう聞くフィリベルト殿下。

「大丈夫。私はなんともないわ」


私の言葉を聞いたフィリベルト殿下は、良かったと声にならない声を囁くと、ずるずると崩れ落ちた。


「殿下!!」

慌てて支えようと彼の背中に腕を回すが、女性の力ではどうすることも出来ず、一緒に崩れ落ちてしまう。


背中に回した手には、ぬるりとした生温かいものが触れた。感じた事のない違和感に、自然と体が震えてしまう。恐る恐る手を見ると、真っ赤な液体が手のひら一杯に広がっていた。


「嘘、嘘よ。フィリベルト殿下。駄目、駄目。目を覚まして。嫌よ、ねえ。私を置いていかないで。嫌。フィリベルト殿下」

呼び掛けても反応がない。


「ねえ、フィリベルト殿下。起きてってば」

突然、頭が割れそうに痛くなる。今はそんな場合ではないのに痛みは引かない。引くどころか今まで感じた事のない程の激しい痛みに変わる。



◇◇◇◇◇◇

「エラ―――ッ!!」

誰かが悲痛な声で叫んでいる。この声を私は知っている。ふと横を見ると、小さな男の子が泣いていた。大丈夫だから泣かないで。泣いている男の子に向かって言うと、彼はニコリと微笑んだ。瞬間、少年だった彼は成年へと変化した……あぁ、そうよ……あなただったのよ。ごめんね、忘れてしまっていて。

◇◇◇◇◇◇



次の瞬間、割れんばかりの頭の痛みは引いて、身体に物凄い量の魔力が循環し始めた。


「大丈夫、私が助けてみせるわ。フィル」

私の腕の中で力なく倒れ込んでいる彼をギュッと抱きしめる。苦しそうに浅く息をするフィリベルト殿下。そのまま彼の中へと魔力を流していく。


どんどん彼へと流れていく魔力は少しずつ光を帯びて、やがて目が眩むほどの大きな輝きを放ち、そして霧散した。


「エ、ラ?」

私の膝で寝かせていると、しばらくしてフィルが目を覚ました。先程の光を見たからなのか、いつの間にか周りには多くはないが人が集まっていた。


「フィル、目が覚めた?気分はどう?」

「あれ?私は天国に来られたのかな」

「私を置いて逝ってしまうつもり?」

「置いてなんていかないよ。死ぬまで、出来るならその次の人生も共にありたいと思っているんだから」

「ふふ、随分と先の長い話ね」

とても死の手前まで行った人とは思えない呑気な発言に思わず笑ってしまった。


「あれ?矢で貫かれたはずだったよね」

立ち上がって、自分の背中を確認するフィリベルト殿下。

「治したわ」

「治した?誰が?」

「私が」

「どうやって?」

「魔法で」

「嘘」

「ふふ、本当よ」


全く理解できていないようなフィリベルト殿下。キョトンとした顔が可愛らしいと思ってしまったのは内緒だ。


「とりあえず屋敷に帰りましょう。詳しい話はそれからよ」

野次馬が集まったことで、先程の刺客たちはもう逃げたようだが、万が一という事があるのでいつまでもここにいるのはよくないだろう。


私たちは迎えに来ていた馬車で屋敷に戻った。


 屋敷に戻ると、お兄様が待ち構えていた。

「お帰りエラ。どこもケガはないか?それと、そこの金髪に何もされてないか?」

「ただいま、お兄様。私は大丈夫。フィルに命がけで助けてもらったもの」

「命がけ?」

「ええ、そうよ。身を挺して矢から守ってくれたの」


「……その割にピンピンしてるじゃないか」

「私が助けたもの」

「そうか……それにしてもフィリベルト殿下。ちゃんと訓練していましたか?矢如き躱せないとは」


「いやいや。普通は躱せないと思うが?」

「何を言っているんですか。索敵魔法を何のためにあんなに訓練させたと思っているんです?」

「うっ」

フィリベルト殿下が痛い所を突かれたのか呻いた。


このまま小言をエントランスで延々聞くことになるのかと思った矢先、執事が扉をすっと開けた。


「おまえたち、こんな所でどうした?」

「お父様。お帰りなさい」

「ああ、エラ。ただいま。ケガはしてないんだな」

「ええ、大丈夫。フィルに守ってもらったから」

「そうか。その殿下自身に何か不埒な事をされたとかは?」

何、この父子は。フィリベルト王子に対して辛辣過ぎじゃない?


「ふふふ。ねえ、いい加減に中へ入ったらいかがです?」

やっぱり延々に続くのかと思った時、奥からお義姉様とお母様がやって来た。

「本当に。私の天使をゆっくり座らせてあげて頂戴」

お母様がお父様へ近付いて優しく言った。


お父様はお母様の腰を抱いて微笑む。

「そうだな。話は中でゆっくりするとしようじゃないか」


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