知る
いつまで落ち続けるのだろうか。
僕はジェットコースターが嫌いだ。落ちる際に感じるあのフワッとした感覚がたまらなく嫌であるからだ。
ああいった類の乗り物が好きな人は理由の一つとしてあの感覚を挙げることが多いそうだ。僕はそれが嫌なのに。
それにしてもあまりに長い、長すぎる。
高架線から地表まで2〜3秒ぐらいではないか。体感では既に数十秒経っている。
意を決して目を開けてみるとそこは相変わらずの見慣れた電車の中だった。
しかし何かがおかしい。何がおかしいのかはすぐに分かった。
乗客の数が明らかに減っている。少し前まで満員であったのに。
それと窓の外に目を向けても映る景色は変わらない。
つまり地面の直前で停止しているのである。どのようにして止まったのかは分からないが止まっている。
乗客たちもそれに気づき始め、斜めに傾いている車内で動きにくいものの、どうにかして、外に出ようとしている。
自分も外に出ようと扉を開けようとするがなかなか開かない。普段仕事ばかりでろくに運動もしてない結果である。困ってしまった。近くに窓ガラスを割ることができそうな物などない。そもそも電車のガラスなど簡単に割ることなどできそうにない。
他の乗客も苦戦しているようだ。他の乗客が開けようとしている扉に向かおうとすると、こちらに2mは超えるであろう大柄の男が近づいてきて、目の前の扉に手をかけた。
「ふんっ」
大柄な男は作り出した扉の隙間に、指を入れこじ開けた。
「なんだ...これは...」
大柄な男が開いた扉の先には、さっきまで窓の向こうにあった景色とは全く異なり
暗闇が広がるだけであった。
僕らがさっきまで見ていた景色は単なる絵だったのである。
「何よこれ 真っ暗じゃないの」
他の乗客たちもそれに気づき始め、車内には驚きと悲鳴が広がる。
僕は暗闇に向かって足を踏み出そうとしたが足に触れる感覚が何もない。
「まだ外に出るのはやめておこう」
大柄な男はそういった。
そこで僕たちは簡単に自己紹介をした。
大柄な男の名前は松尾さとし、職業は自衛隊員で結婚していて子供もいるらしい休暇中に今回の出来事に巻き込まれたことがわかった。
「電波がつながらないようじゃ、助けも呼びようがない」
松尾は不満げな顔をして、携帯をポケットに戻そうとした瞬間、誤って手を滑らせ暗闇の底へ携帯を落としてしまった。
どうやら力には定評がありそうだが、不器用であるのは間違いなさそうだ。
「奥さんや子供との写真がたくさん入っているのだが...」
すると、次の瞬間 暗闇の中から光る手が現れた。
手は真っ先に携帯が落ちた方向へ向かった。光る手が戻ってくるとその手には
松尾の携帯があった。光る手が松尾に携帯を渡すと、
「ありがとう」と光る手に向かって礼をした。
光る手はグッドのサインを作り返事をしていた。
この物体とは会話ができるのだろうかと考えていると
唐突に 光の手は親指で「パチン」と音を鳴らした。
すると、みるみる全身が明らかになった。
現れた男は裸だが全身が光り輝いている。
男はこう言った
「あなたたちは代償です」