化け猫と信じない君【それでもうちの変態猫は妖術使いである】
妖術とは昔から人を惑わす術として様々な書物に残されている人の陣地を超えた神秘的な力の一つである。
この類の力は特定の人にしか感じたり見たりすることができない。
言えば、特別なものである。
リーラは右手を上に突き上げ少しだけ目をつむった。
すると彼女の周りに小さな玉のようなものが現れた。
「おお!なんだこれ!これが妖術か!」
俺はほんの少しだけ妖術を疑っていたが目の前の現象を見て信じることができた。
「なんじゃお前さん。見えておるのか?どうやらおまえさんには妖術に対する適正があるのかもしれないのう・・・・」
少しずつ小さな玉があげたリーラの手に集まった。
〔我が魔力・・・・いや我が妖気をもってかの妹の居場所を探し出し、わが身を彼女のもとへ案内せよ!〕
するとリーラ右手に小さな紫色のひとだまのようなものが出現した。
ゆらゆらと揺れ、時々パチッと音を立てながらその場に浮いている。
「では、案内頼むぞ。」
紫色のひとだまはその一言で勢いよく外に飛んで行った。
ひとだまを追うようにリーラは俺の手をつかみ、走りだした。
「いくぞ。しずき殿!」
リーラは勢いよく三階から飛び降りた。
そして俺も三階から垂直に落ちた。
「お、おい!馬鹿野郎!」
リーラはもう一度自分の身に小さな玉の妖気をまとい宙に浮いた。
そして空中で俺の手を取り、俺は宙ぶらりんになった。
「少し荒い運転になるが吐いたりするでないぞ。」
そして俺もこの大雨の夜の闇に浮いた。
リーラがこちらを見て微笑している。
「さて・・・・妹を探しに行くとするかのう」
そして俺たちは空高く上昇しひとだまの飛ぶ方向へ飛行を始めた・・・・・・
俺は飛行中ふと疑問に思った。
「なんで俺も・・・空、飛べてんだ?」
「それはだな、お前さんは童の身の回りについているこの小さな玉、妖気見えてるじゃろ?」
「ああ、見えてるぞ」
「適正がない人には見えもしないし、感じ取ることもできない。しかもこのように浮くことは普通より高い適正がないとできないんじゃよ」
「じゃあ、俺は妖術の適正が高いってことか・・・・?」
「まぁ、そういうことになるのう・・・」
俺には自分にこのような第六感の才能があるとは思っていなかった。
リーラはなんの合図もなしに静止した。
「あれを見てみろ、しずき殿・・・・・」
俺はリーラが指さす方向を凝視したが雨のせいでよく見えなかった。
たぶんあの方向に玲がいるのだろう。
するとリーラは急降下し始めた。
「なあ、リーラ」
「なんじゃ、落下しているときはあまり話かけないでくれないか。手元がくるって二人とも肉片になるぞ。」
「俺は妹にどんなことを言って、どんな風に弁解したらいいと思う」
俺はリーラの注意を無視して話しかけた。
そんな俺の申し訳なさそうな顔をみたリーラはため息をついた。
「おまえさんが思っていることを妹、玲に話せばきっとわかってくれると思うぞ。それに童は別におまえさんらの関係を深くは知らん。だから今の童にできる事はこんな誰にでも言うことしかことしか言えんのでじゃよ。」
そして俺たちは体についていた術も着陸時に消えた。
雨は止み、あたりには夏の虫たちの声や蛙の声が響いている。
周りを見渡すと木々が生い茂っている。
どうやらここはどこかの森林らしい。
「リーラ、玲はどこにいる?・・・・・・・あれっ・・リーラ?どこにいる?おい!」
「ここじゃよ・・・」
声のする方向を見るとリーラはぐったりとし、木の幹にもたれかかっていた。
「久しぶりに妖術を使ったからもう体がピクリとも動かせん。玲はこの先にいると思うぞ。後は自分の力でどうにかするんじゃな。」
俺は地面がぬかるんだ獣道を歩き、森の深くに歩いて行った。
幸い、今日は満月であり雨が止んだ後、雨雲はどこかに行ってしまったので道中迷うことはなかった。
そして急に木々がない開けた場所に出た。
そこは円のように背の低い草が生え茂った場所でどこか神秘的に感じる・・・・・そんな風景だった。
(すごい場所だな。玲がこんな場所を知っているなんてあいつ一体何者なんだよ・・・)
俺は中心に生えている一本の木に近づいた。
「やっぱり、兄さんは来たんだね」
木の影から玲が姿を現した。
「どうやってここをつきとめたの?」
「それは・・・・・・・・今は・・・・・言えない・・・・・」
俺は玲を目の前にして何を言ったらいいのかわからなくなった。
そして頭が真っ白になった。
「兄さんは・・・・なんであんなことをしたの?」
「あれは・・・・不可抗力だ。・・・・本心じゃない」
(あれはリーラを止めようとしただけで本当に本心で襲おうとしたわけではない。これは事実だ。
でもこの気持ちを伝えたらいいんだ・・・・たぶん今の玲に何を言っても無駄だろう・・・・・)
こういう時、俺はいつも自分の無能さを鮮烈に感じる。
俺がモタモタしているうちに木々から誰が来た。
「なんじゃ・・・・しずき殿・・・まだ終わっておらんのか」
「おまえ、動けないんじゃなかったのか?」
「わずかに残った妖気で作った妖術で遠くから監視していたんじゃ・・・」
そしてリーラは玲の方へまっすぐ歩いて行った。
リーラの眼光に少しだけ怒りがあった。
俺は止めようとしたがほんの少しだけ遅かった。
リーラの妖気を使い切った張り手がぺちっと音を立て、玲の頬に炸裂した。
「玲・・・・いや、小娘よ。なぜおまえは急に飛び出したりしたんじゃ。お前さんの兄は本当に童を襲っていると思ったのか?本当にそんな軽く、いい加減な男だと思っていたのか?」
「そういう・・ことじゃない。兄さんは・・・ロリコンの変態で・・・・だってどう見たって襲っているようにしか見えない!!」
玲はそう大声で言い放った。
「玲。俺が言うことが信じれないならそれでもいい、俺の事を嫌いになったならそれでもいい。、俺の事を兄として見てくれならそれでもいいんだ・・・・・・・・・」
すると玲が口を開いた・・・・・
「そういうことじゃ・・・・・ない・・・」