化け猫と信じない君【それでもうちの妹はせっかちである】
俺はこの少女をどうしたらよいのか心底悩んでいた。
(この家に住まわせてくれ!)と言われてもそう現実は甘くない。
いろいろとこの家に住まわすのはまずいからである。
「まぁ、ちょっと待て落ち着いて話そうか・・・・。まず、お前の事をなんと呼べばいいんだ?」
「普通に呼び捨てで構わん」
「じゃあ、聞くがリーラ。お前をこの家に住まわせて得るこっちののメリットはなんだ?」
リーラはすぐに答えた。
「癒し」
「は?」
俺はリーラが言っていることが理解できなかった。
「いやいや、メリットが癒しって・・・・・・・それは答えになんねぇだろ?」
するとリーラはまるでわかりきったかのように
「童がいるだけで癒しになるじゃろ?」
「いやいや、なんでそうなる?お前がこの家に住んでも俺に対してはなんの癒しにもならねぇよ!」
「なる!絶対になる!」
「癒しはメリットにならない却下!」
リーラは黙り込んだ。
「わ、わらわには妖術が使えるぞ?」
「別に日常生活に妖術は必要ない。」
「じゃあ、料理!猫の世界では結構な腕前じゃぞ。童の料理一度食べてみたいと思わんか?」
俺は何も言わず冷蔵庫の中にたまたま玲が作りおきしていた、得意料理の肉じゃがを出した。
リーラは素手でよく味のしみたジャガイモを口に入れておいしそうに頬張った。
「分かったかリーラ。この料理を食べてまだ料理が得意といえるか?」
(そう玲の作った料理は毎日台所に立つ俺の料理よりおいしさの桁が違う。これを食べればきっと料理が得意とは言わないだろう)
そう思いながらリーラの方に再び視線を向けると肉じゃがを頬張ったままなぜか泣いていた。
「は?おいおいどうしたんだよ。そんなにおいしかったのか。まぁこれでお前のメリットは消えたな。わかったならさっさと」
「童は絶対に嫌じゃ。こんなものを食べてもうこの家から離れたくなくなった」
「なにいってるんだ、意味わかんないことで駄々こねんな。どうせ自分が料理で勝てないからそんなこと言ってるんだろ」
「おまえさんはこれを食べて何も感じてこなかったのか?・・・・・・・・これには」
そうリーラが言いかけた時、玄関の扉が開いた。
「もう、すごい雨!マジで最悪。これだから夕立のある夏は嫌いなんだよ」
なんといつもより二時間も早く玲が部活動を終えて帰ってきたのである。
(まずい!!まだ帰ってこないと思ってのんびりしすぎた。)
「んーーー?誰か来たのか?」
俺は慌ててリーラの口を手でふさいだがほんのわずかだけ遅かった。
「兄さん、誰か来てるの?」
「だ、誰も来てないぞ」
俺は必至でごまかした。
「あっそう。聞き間違えかな?さっきなんか女の子の声がしたんだけど・・・・・・・・まぁ、兄さんには彼女なんていうリア充要素はないもんね!」
「ああ!そうだよ。お、俺に彼女なんているわけないじゃないか」
「そうだよね!私、先にお風呂に入るからね」
「分かった」
(よし!このままうまく玲に見つからずにやりすごそう・・・)
そう思って安心したのかすこし力を緩めてしまった。
その瞬間、リーラは俺の手を振り払い大声で
「苦しいでないか!!息ができずに死ぬところだったぞ!」
(ばっかやろう!!!!!!!)
「やっぱり兄さん誰かリビングにいるよね?」
そういうと足音がこっちに向かって進んできた。
(やばい!やばい!これはやばい、こんなの見られたら・・・)
そしてリビングのドアが開いた。
この光景を何も知らない第三者がみるとどう見えるのだろうか。
男子高校生と小学生並みの少女、二人の行動はたぶんこう見えるだろう。
男子高校生は少女の口を手で封じて黙らせようとしている。
少女の方はそれを身をよじらせ嫌がっている。
なにより二人の体勢だ。
もめ合っている際に少女が床に横になり、それに覆いかぶさるように男子高校生が立っている。
どうみても襲われている現場である。
「あ、あ、あ・・・・・」
俺は玲と完全に目があってしまった。
「玲!聞いてくれ!違うんだこれには訳があってだな・・・・」
俺が弁解を求めて一歩地下ずくと玲は後ずさりした。
そして俺をさげずむかのような目線で
「こないで・・・・・こないで変態!このロリコン!なに?高校生になって彼女ができないからって年下の女の子を襲うとしていたの?まじであり得ない!・・・・・・・・・・最低・・」
そう言い放つと玲は家を飛び出して行ってしまった。
俺にはため息しかつくことができなかった。
「ああ、お前さんも災難じゃの」
リーラはまるで他人事のように言っていた。
俺はこの時(俺の人生はここで終わった・・・・。これから妹からは変態兄貴として見られるのか)と思い、絶望していた。
「なに言ってるんだ。お前が来なければ俺は玲の中でいい兄さんだったのに、お前のせいで変態ロリコン認定されたんだぞ。どうしてくれるんだよ!!」
「まぁ騒ぐでない。心配するのは自分の身より妹の方を心配した方がいいんじゃないのか?」
俺はこのときリーラがなにを言っているのかわからないかった。
リーラは窓の方を指さした。
この時、はじめてリーラが言っていることに気が付いた。
外は夜のように暗く、夕立というより台風に近い威力の雨が容赦なく地面に打ち付けていたのだ。
(この大雨の中あいつ出ていったのか?何考えているんだ・・・・・)
俺は外に玲を探しに玄関のドアを開けようとしたが鍵もかかっていないはずなのに開かなかった。
「どうなってるんだよこれ!なんで・・・・・どうして開かないんだ!」
するとリビングからリーラがゆっくりと歩いてきた。
「お前さん、何をしておるんじゃ?」
「見てわかねぇのかよ。今から玲を探しに行くんだよ!」
俺は必至で考えながらどうにかしてこのドアをこじ開けてやろうと考えていた。
そうやってやけになっている俺に
「探す当てはあるのか?」
俺はリーラのその一言で我に返った。
「どうせ探す当てもないのにこの雨の中出ていこうとしたのじゃろ?無謀じゃ。そのうち待っていれば妹は帰ってくる。」
「だめなんだよ、それじゃあ・・・・・」
俺はそう自然に声が口から漏れた。
「はぁ、もういい。童が行く。」
リーラはあきれたように前に出た。
「おまえだって、探す当てはないだろ?」
「ふっふっふ、実は童には探すあてがあるんじゃ・・・・・」
俺はリーラの方を振り向いた。
「本当か?」
「初めに言ったはずじゃ。そっちに対するメリットの中に含まれていたはずじゃが?たしか・・・(日常生活には必要ない)と言われてすぐにお前さんの選択肢から消し飛んだけどのう・・・・」
俺はこの時自分がこれから俺の人生に大きく重なるものの存在を消していたのだ。
「リーラ・・・・・それってまさか・・・・」
「そう・・・・妖術じゃ」