入学試験〜2〜
アルトとルーナリアは森の中を進んでいた。
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「ねぇ、アルト君ってどこに住んでいたの」
「ここから3日4日くらいかかる山奥に住んでた」
「一人で?」
「いや。師匠と二人でだ」
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「ねぇ、アルト君って何歳?」
「15歳くらいだと思う。僕は師匠に拾われた子だから正確な年は分からないんだ」
「そうなんだ。……よし!私が15歳だから。アルト君も15歳ってことにしよう」
「フッ、なんだそれ」
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「ねぇ、アルト君って好きな子とかいるの?」
「いないよ。それどころか師匠と二人で修行ばかり毎日だったから、同年代の人どころか、師匠以外の人とほとんど話したことないよ。たまに近くの村で食べものをもらいに行く時ぐらいしか話さなかった」
「それじゃ、私がその師匠の次に君と話したことがあるんじゃない」
「確かに……。そうなる……な」
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ルーナリアはアルトに様々な質問をしてきた。師匠以外の人と話をしてこなかったアルトは、その会話に新鮮さと面倒臭さを感じていた。そして、自分の話を真摯に聞いてくれるルーナリアに少しずつ好感も持ち始めていた。
試験開始からすでに1時間半ほど経過しており、二人は試験の終盤に差し掛かっていた。
アルトは急に足を止め、ルーナリアに静止の合図を送る。姿は見えないが、アルトは人間の魔力を3つ感じとっていた。
一人だったら何とでもなるが今は同行者がいる。アルトはルーナリアにどう対応するかを尋ねた。
「待ち伏せされてる。数は3人。どうするルーナリア?」
「3人ね。二人でやっつけちゃおうか。私が一人。アルト君が二人を相手しよう」
「なぜ僕が二人?」
「だって、アルト君なら余裕でしょ?」
「まったく……。分かったよ。やるよ」
何故か分からないがルーナリアはアルトに妙な信頼を寄せていた。そんなルーナリアにアルトは断れず首肯してしまった。
ルーナリアは木の根の上に立ち、姿を見せない3人に堂々と言った。
「そこに隠れている3人出てきなさい。不意打ちなんて卑怯な事はせず、正々堂々戦いなさい」
「へぇー。バレてたか。中々やるな」
木の影から3人の男が出てくる。暗い笑みを浮かべたリーダー格の少年が前に出て話しかける。
「しかし、卑怯とは言ってくれるな。お前たちが痛みも感じないよう気絶させようと思ったいただけなんだがな。」
そう言う顔からは悪意が滲み出ている。アルトは少年の言葉がすぐに嘘だと分かった。
「今からでも遅くない。痛い目に会いたくなかったらここで棄権してもらえないか」
「無理ね」「無理だ」
二人は即答した。
「それは残念だ。ならば、実力行使させていただく」
リーダー格の少年はそう言うと、左手を前に突き出し、手の平をアルトに向ける。その手に魔力を込めた。
「風弾」
そう唱えると、少年の手に集まった魔力が風の弾丸を構成し、アルトに射出された。まともに当たればただではすまない。だが、アルトは避けずに、その風弾に迎え撃った。
「なっ!」
少年たちは驚愕した。アルトは迫りくる風の弾丸を手刀で切り裂いたのだ。アルトは、間髪入れずに呆けている少年たちとの距離を詰め、そのままリーダー格の少年に掌打を繰り出す。
「魔操術 破掌」
パァンという激しい破裂音ともに、リーダー格の少年は吹き飛ばされた。
次に流れるように目の前の出来事に混乱しているもう一人の少年に素早く手刀をいれ、気絶させた。
「意外にあっけなかったね」
後ろを振り向くとルーナリアが最後の少年を気絶させていた。
「しかし、アルト君凄いね。やっぱり私の見立ては間違ってなかったよ」
「いや、彼らがただ戦い慣れてなかっただけだよ」
「それでも凄いよ、手刀で魔法を切る人なんて初めてみた」
アルトは少し照れながら、顔を横に振った。
「僕なんて全然。今の魔法だって師匠なら小指でなんとかしてたよ」
「え、アルト君の師匠って何者?」
ルーナリアが少し引きつった顔で言う。
「化物みたいな人。今まで師匠のおかげで何度死にそうな目にあったか」
脳内に師匠クロエのこれまで無茶苦茶な修行の数々が頭をよぎり、アルトは顔をしかめた。
「なるほど、でも、その化物みたいな師匠のおかげで今のアルト君があるんだね」
「そう……だな。なんだかんだでとても感謝してるよ。師匠には」
アルトは今までの師匠との日々を振り返る。
今まで師匠の元から逃げ出そうと思ったのは一度や二度でない。何度もあった。
だけど、育ててくれたこと。生き方を教えてくれたこと。そしてなにより、死ぬはずだった自分を救ってくれた恩。
それらの師匠に対する感謝が逃げ出したいという誘惑よりも何倍も大きかった。
アルトは現実に意識を戻す。感傷に浸ってる場合ではない。アルトは試験に意識を集中させる。
「さっさとこの一次試験クリアしようか」
「そうだね。頑張ろうか」
二人は一次試験突破に向けて、森をかけた。
―10分後―
二人が走る先に光が立ち込めていた。
「アルト!」
「あぁ!森の終わりだ」
二人は壱の森を抜け、外に出た。だが森の先は開けていて、学院どころか建物もなかった。
ルーナリアが少し焦りながら言う。
「もしかして、道間違えちゃった?」
「いや、道は間違えてないと思う。それにこの感じは……。」
アルトはこの先の空間を違和感を感じていた。それがなんなんか考えいると、目の前の空間が揺らぎ、一人の男性が出てきた。
「一次試験突破おめでとうございます。つきましては学院に案内しますので私についてきてください」
急に現れた男はそう言うと、説明も何もなく前を歩き初めた。二人は驚き、顔を見合わた。少し不安だったがその男についていった。
二人が男の後ろを歩いていると、いつまにかあたりに霧が立ち込めていた。
「さっきまで霧なんてでてなかったのに。」
「ご安心ください。これは学院を外敵の侵入から守るための結界のようなものです。もうそろそろつきますよ」
男がそう言うと、急に霧が消え去り、光が差した。眩しさにアルトは目を瞑った。
「ようこそ、オルシウス魔導学院へ。」
光に慣れてきた目を開け、前を見る。そこには馬鹿でかい大きさ、高さの建物が立っていた。
「ここがオルシウス魔導学院……。学校っていうより城なんだけど」
絶句しているアルトの横で、ルーナリアが言った。
ルーナリアの感想はかなり的を射ていた。オルシウス魔導学院は数百年前にこの地を統治していた王が住んでいた城を改築したものだった。
学院は湖(?)を隔てた先に建っており。橋を渡って行かなければならなかった。
「それではお二方、橋を渡った先にある学院玄関前までお歩きください。そこに次の説明役がいますので」
男はそう言うと、来た道を戻っていった。
二人は男に言われた通りに橋を進んでいった。どうやら学院は湖に囲まれており、その湖の中にもいくつか塔のような建物が建っており、それは全て中央の学院(城)と連絡橋で繋がっていた。
「凄い……。凄いよ、ルーナリア!」
学院を見てから絶句しぱっなしだったアルトが目を輝かせてルーナリアに言った。それは今まで気を張っていたアルトが初めて見せた年相応の感情だった。
ルーナリアは目を輝かせるアルトに微笑んだ。アルトは急に恥ずかしくなったのか、顔を赤くし目を背けてしまった。
橋を渡り終えると、見上げるほど大きな扉があった。その扉の前に先に到達したと思われる受験生が数人いた。
「ルーナリア・ドルミニアゴ様、アルト・ホーキンス様でよろしいでしょうか」
二人が佇んでいると、メイド服を着た女性が話しかけてきた。二人は女性の問いに頷き肯定した。
「まずは一次試験突破おめでとうございます。私は二次試験まで受験生の皆様の身の周り世話をさせていただくメイドのアリアナと申します。よろしくお願いします」
アリアナはスカートの裾を持ち上げ、二人にお辞儀した。
「二次試験は明日行われますので、お二人には仮の宿舎でお休みいただきます。宿舎までご案内致しますので、私について来てください」
そう言うとアリアナは学院の方へ向かい歩き始めた。アリアナは学院の大扉からではなく外壁にある小さな扉から中に入っていった。その先には薄暗い廊下が広がっていた。
アルトは無言で進むアリアナに問いかけた。
「僕たちより先に何人の受験生が一次試験を突破したんですか」
アルトはスタートは遅れたもの、かなりの速さで壱の森を踏破したと思っていた。だから自分達が何番目の到達者が気になっていた。
アルトの問いにアリアナは親切に答えた。
「あなた方は5番目。6番目の到達者です。踏破時間は2時間5分です。これは過去の平均踏破時間から見てもかなり早い方です。ちなみに今回の最速は1時間50分。歴代最速の方は1時間で踏破しました。」
(1時間か。早いな。僕が万全だったとしても、間に合うかな)
アルトは試験会場に着いたときからかなり体力を消耗していた。急な修行命令のせいで師匠と住んでいた家から一次試験会場まで走って来たからである。だがもし、体力が万全でも1時間で踏破できるかと言われる疑いとこるだった。
そんな事を考えていると、ルーナリアがアリアナに別の質問をした。
「明日の二次試験はどういった内容ですか」
アリアナは歩きながら答える。
「二次試験は一次試験を突破した受験生同士での一対一での模擬戦です。例年通りですと1次試験の突破者は70人から80人ほどなので40試合ほど行われますでしょう。」
「その試合での勝者が学院に入学できるということですか」
「いいえ、そういうわけではありません。勝ち負けはあまり関係なく、試合の最中の行動によって、教員が最終適正を判断します。ですが今まで勝者が不合格になるということはなかったので、勝った方がいいのも事実です」
「なるほど。ありがとうございます」
そう言うと、ルーナリアは少し考え込む表情になった。
それから少し歩くと、アリアナは一つの扉の前で止まった。
「ここがお二人のお部屋となります。こちら鍵をお持ちください」
「えっ、二人部屋なんですか?」
「はい、到達順に二人づつお部屋に案内させていただいております。もし不都合がおありでしたら、別々のお部屋に替えさせていただきますが」
「全然大丈夫です。むしろ願ったり叶ったりです」
戸惑うアルトをよそに、ルーナリアが食い気味に言って、鍵を受け取った。
「それでは明日の朝にお迎えにあがりますので、それまでお休みください」
そう言って、アリアナは去っていった。
「ではでは、アルト君!部屋に入って私たちの仲を更に深めていこうじゃないか!」
そんな事を言う妙にテンションの高いルーナリアが未だ納得のいってないアルトを部屋に引きずりこんでいった。