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入学試験〜1〜

「ハァハァ、間に合った。」


 オルシウス魔導学院の入学試験会場の入口で一人の少年が息を切らし立っていた。

 目立たない黒髪に、目立つ橙色の瞳を持つ小柄な少年だった。走ってここまで来たのだろう。汗をポタポタと地面に落としながら試験会場を見回していた。


「ハァハァ、受付は?」


 辺りを見渡し試験の受付場所を見つけた少年は、息を整え向かった。

 試験会場は意外にも学院内ではなく、学院を囲う広大な森、その森の手前の広場で行われていた。


「すいません、入学試験を受けたいんですが」


 少年は受験の申請を行なうため、受付にいた女性に話しかけた。少年は普通に話しかけたのだか、何故か受付の女性は少年を見る少し驚いて、固まってしまった。


「あのー」


「あっ、すいませんっ、えーと、受験の申請ですね。推薦状などお持ちですか?」


「いえ持ってないです。」


「では、こちらの申請書に記入お願いします。」


 申請書には、自分の名前や、住んでる地域などの一般的なことを書く欄しか無かった。少年は記入を終えると、紙を女性に渡した。


「ありがとうございます。お名前はアルト・ホーキンス様ですね。それでは、こちらのカードをお持ちください。このカードで受験生の識別を行うので無くさようにお願いします。もうそろそろ一次試験の説明が始まりますので会場内でお待ち下さい。」


 アルトと呼ばれて少年は受付の女性に小さく会釈しカードを受け取った。


 アルトは試験の説明を待つ間、他にどんな受験生がいるのか見ていた。

 真っ赤な大剣を背負う女。がちがちに鎧を着込んでいるもの。槍を片手にイライラしながら待っている男。本をじっと読んでいる小柄な女の子。

 様々な受験生がいる中で、アルトの目を一際引く少女がいた。

 少女は輝くような金色の髪、深い蒼の瞳、女性にしては高い身長にさらりと伸びた手足。服装は男性のものだが、丸みを帯びた体つきが彼女が女性である事を訴えていた。まさに男装の麗人という表現がぴったりの少女だった。

 気になって少女を見ていたからだろう。少女の蒼い瞳と目が合った。数秒間、アルトと少女の目線が交錯する。何故か二人とも目線を外さない。結局、その少女の側いた従者と思しき人に連れられるまで、互いに見つめ合っていた。


(綺麗な人だった。だけど……、最後、愉悦(わら)った?)


 少女は確かに、アルトに対し笑みを浮かべた。だけど、その笑みは優しさからの微笑みではない。彼女の内から込み上げてきたものが思わず出てしまったかのような笑みだった。まるで面白いものを見つけたかのような。


 アルトが先程の少女の笑みについて考えていると、試験会場の中心で集合の合図がかかった。


「受験生の皆様。一次試験の説明を始めます。会場中心にお集まりください。」


 アルトは考えるのをやめ、会場の中央へ向かった。

 試験会場の中心には、300人以上の受験生が集まっていた。合格者の規定人数は決まってないが毎年50人から80人ほどが合格する。つまり今ここにいる半分は不合格になる。アルトは疲れた体に活を入れ、気を引き締めなおした。そうしていると試験会場に一人の妙齢の女性が登壇した。


「私は一次試験の試験監督のフィルナと申します。このオルシウス魔導学院の副学院長を務めているものです。以後お見知りおきを。それではまず、一次試験について説明させたいただきます。一次試験は私たちの後ろ、あなたたちの前に見える森、通称"壱の森"の踏破し、その先にある学院に到達することです。森の中には私たち教師陣が設置した罠や野生の獣がうろついています。それら乗り越えて学院まで到達したものを第一次試験の合格者とします。」


(なるほど、学院への登校が一次試験か。この試験を考えた人はユーモアにあふれているな…)


「皆様に先程渡したカードより位置情報を確認できるため、この森以外のルートを通り学院に入ろうとすると不合格になります。また、カードの破壊行為や、試験官が試験の継続が不可能と判断した場合も不合格となります。学院まではここから一直線ですが、迷うものが出るため、森の中にはいくつか道標を設置しています。試験時間は4時間とします。何か質問がある人はいますか。」


 一人の女の子が尋ねる。 


「森の中に界獣はでますか?」


「この森には界獣はいません。もし突如出現したとしても、一級討士レベルの実力を持つ試験官がこの森には複数人います。その者が対処することになっていますので安心してください。他に質問のある人は。」


 沈黙が流れる。質問者は他にいないようだ。


「他にはいないようですね。それでは試験を開始します。始め!!」


 試験監督な声が響き渡る。一斉に受験生が森の中に入っていった。


 受験生が我先にに森の中に入ろうとする中、アルトは入ろうとはしなかった。


(森の中の罠がどんなものかは分からない。でも一度切りのものなら先に入った受験生が発動させた後入った方が安全なはず)


 アルトはそう考えると体力を回復させるため、人の少なくなった広場で休息をとることにした。


 試験が始まって20分後にはアルトは森の中に入っていた。


(深い森だ。だけど、修行で入った森に比べれば全然だな)


 アルトは森の中を颯爽と駆けていく。修行の一環で森の中で1ヶ月ほど過ごした事があったが、その森に比べれば、この森は歩きやすかった。


 森を進んでいると、所々に焦げている地面や不自然に切り落とされた枝など、恐らく発動した罠の痕跡が残っていた。アルトの読みは当たってたようだ。だが倒れている受験生は見当たらない。この罠を乗り切ったようだ。

 アルトは他の受験生に対する意識を変える。


(気を付けるべきは、罠や獣よりも他の受験生か)


 そう思い、一直線では無く、他の受験生に当たらないように少し迂回しながら前に進むことにした。





(ん、この感じ、罠か)


 迂回を始めて少したったとき、アルトは目の前に微かな魔力の淀みを感じ、足を止めた。 


「避けることもできるけど、どんなものか気になるな」


 アルトは好奇心に負け、わざと罠にかかることにした。

 罠がある領域に入った瞬間淀んでいた魔力が弾けた。瞬時に風の刃が構成され、アルトのいる方向に発射される。襲いくる風刃に対し、アルトは左手を突き出した。

 パァンと破裂音と共に左手に衝突した風刃は消えてなくなった。アルトは何事もなかったかのように、魔法が当たったはずの左手を眺め、考える。


(魔力を感知して発動するタイプの魔法、威力はそこまでないな。あくまで足止めのためか)


 確かに今の魔法は受験生を殺してしまわないように調整された魔法である。しかし手傷を負わせるほどの威力はあった。少なくとも一般受験生の手の平を裂けさせるぐらいには。だが、アルトは無傷だった。

 罠魔法がどんなものか確認したアルトは満足し、森を進むのを再開した。


 森の中に入って30分ほどがたった。アルトは道標を発見し、行き先を確認していた。そして、アルトが周囲を見渡した。


(やっぱり誰かついてきてる。どうしよう)


 アルトは森に入ってから常に後ろから誰かに見られてる気がしていた。道標を見る振りをして周囲を魔力索敵して、少し離れた位置で人間一人分の魔力を発見していた。


(何もして来ないみたいだけど、どうしよう。後ろをつけてこられるのは気持ちがいいものじゃないしな。しょうがない)


 アルトは立ち上がり、準備運動をする。そして追跡者がいる方向を向くと全速力で駆けた。 


「きゃっ」


 急に自分のいる方向に走って来たアルトに追跡者は驚き声を上げてしまう。追跡者は逃げようとして足を引くが、滑って尻餅をついてしまった。

 その間にアルトは追跡者の前に立っていた。


「えっ…」


「アハハ、見つかっちゃた」


 意外な追跡者に思わず声が出る。アルトは追跡者に見覚えがあった。追跡者はさっきの試験会場で目を奪った男装の少女だった。

 アルトは困惑しながらも、警戒しつつ尋ねる。


「何で僕を尾行していた。妨害が目的か?」


 少女は自力で立ち上がり、服に汚れを払い質問に応える。


「まさか、そんなことしないよ。ただ、気になってね」 


「気になった?」


「そう、君、会場で私と目があったよね。そのときに君のことが無性に気になってね」


 思わぬ理由にアルトは動揺し、素がでる。


「それだけで、僕についてきたの?」


「そうだよ。私に気になったことがあったら、いても立ってもいらない性分でね」


 少女はそう言って微笑んだ。

 尚もアルトは警戒を続けるが、目の前の少女が嘘を言っているようにも、自分を害そうとしている風にも見えない。

 信じるべきか悩んでいるアルトに対し、少女は突拍子もない提案をしてきた。


「そうだ!この第一次試験の残り、私と行かない?」


「えっ」


「君についていったら何か面白いことが起こりそうな気がするんだ。それに君とはこれから先も関わっていくことになりそうだから」


 アルトは少女の急な提案に悩んだ。


(この人とは今あったばかりだ。何を考えてるかわからない。でも敵意はないみたいだし、信じていいような気もする。それに……)


アルトは悩んだ末に、少女の提案を受けた。


「分かった。一緒に行こう。」


アルトがそう言うと、少女は無邪気に喜んだ。


「やった!ありがとう!そうだ名前を言ってなかったね。私の名前はルーナリア。君の名前は?」


「僕はアルトだ」


「アルト君だね、一時だけどよろしくね」


 そういってルーナリアは手を差し出す。


「あぁ。よろしく」


 そう言って、二人は握手を交わた。

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