“駅”まで来た少女
ボクは県内の大学に通う大学生で独り暮らしをしている。ボクは住んでいるアパートの近くのA駅内のコンビニで夜アルバイトをしている。この駅は夜の11:30に終電が終わるのでボクがバイトしている時間帯はあまり人は来ない。故に店を閉める0:00まで一人で店番することが多かった。
一人になるまでに一時間ほど他のバイトの人と時間が重なる時間がある。今日はバイトの先輩のKと一緒になった。ボクはこのKに少し苦手意識を持っていた。噂で聞いただけだが“女”遊びがひどいというか異常らしい。その噂に関してはそこまで気にしていないのだが、人をからかったり嫌がることをするのが好きなようでボクも何度か被害を受けている。だからあまりこの人には自分の弱みを見せたくなかったのだけど…
「へぇ?お前怖い話が嫌いなの?」
話の流れでついつい自分の苦手なものを教えてしまった。するとK先輩は物凄く嫌な笑顔で少し何かを考えた後こんな話をしてきた。
「お前知ってる?この駅さ、出るんだよ」
「出る?…何がですか?」
「幽霊に決まってんだろが、終電が終わった後の夜の0:00以降に四番ホームを見ると女の子の幽霊が立っていて下を向いてぶつぶつ何か呟いてるらしいぞ。そして、その霊を見た奴はそのホームで死ぬらしい」
何てことないよく聞く内容の怖い話。しかもボクはこのバイトをすでに三か月やっているがそんなもの見たことがない…と冷静に心の中で考えたのだが、話として聞いてしまうと怖くなってしまい結局K先輩の思惑通り先輩が帰るまで顔を青くして小刻みに震える羽目になった。そんなボクを笑いながら先輩は帰っていった。
バイトが終わり店を閉めたボクは駅員室に向かう。この駅は終電が終わり0:00までには駅を閉めてしまう。なのでボクは店の鍵を駅員室に返しに行き駅員用の出口から出ていくことになっている。
さてこの駅はホームが四番ホームまであって二、三番ホームは駅の真ん中にある。コンビニはそのホームの階段を上がった場所にあり、そこから左右に渡り廊下がのびていて一番と四番ホームに続いている。駅員室にはどちらからでも行けるが、ボクはいつもの習慣で四番ホームに続く通路を歩いていた。時刻は夜の0:30.途中でふと先輩の話が頭をよぎり渡り廊下の窓から四番ホームを見た。結果的にそこには何もいなかった。
「なんだ、やっぱりボクをからかうための嘘か…」
騙された怒りより嘘だった安堵の方が大きかったあたり思っている以上に気にしていたらしい。そんな自分を「情けないな…」と笑いながら視線を前方に戻した瞬間、ボクは凍りついたようにその場から動けなくなった。
50メートルほど先、渡り廊下のつきあたりに一人の少女が立っていた。見た感じ小学校高学年くらいだろうか?長くてボサボサの黒髪が顔を隠している。その黒い髪と対照的に肌は生気を感じないくらい白く細い、着ているワンピースも真っ白で胸元の赤いリボンが不気味な存在感を醸し出していた。よく見るとスカートの先がボロボロになっていて、裸足の足は土で汚れていた。
一目見て「ヤバい!」と感じたボクは動かない足を必死に動かし反対側の通路から逃げようと振り返った目の前にその少女が立っていた。
「!!?」
またしても動けなくなり震えながら目の前の少女を見る。少女は俯き顔をあげることもなく何やらぶつぶつと呟いている。恐怖に震えながらもその声が途切れ途切れに聞こえてきた。
「あい…がした……でも……じゃない」
ここでボクの記憶は途切れた。
「おい!おい、大丈夫か!?」
この声でボクは目を覚ました。目の前には見覚えのある駅員さんの顔があった。ボクがいつまでたっても鍵を返しに来ないので心配になって見に来たらボクが倒れていたらしい。ボクは少し混乱しながらさっき見たことを駅員さんに話してみたが、ボク以上にこの駅の夜を知っている駅員さんは「そんなもの見たことない、そもそもこの駅が完成してまだ五年くらいしか経っておらず、人身事故も一度も起こっていない」ということらしかった。その話を聞いて改めてK先輩の話は嘘なんだと思った。
…じゃああの少女はいったい…
ボクは怖い話に対しては自覚しているくらい過敏だ。恐らくK先輩の話が想像以上にポクの中で強く印象に残っていたため見えないはずのものが見えてしまったのだろう。実際今までも今回と似たことはあったような気がする とにかくその日はそう自分に言い聞かせ帰路についた。
三日後K先輩と入る時間が重なった時、あの夜の話をすると案の定K先輩は大爆笑だった。
「わはははははは!!マジかお前!?あんな作り話にビビって幻覚見て気絶まで…ぶふぅ!は、腹いてぇ…!!」
わかってはいたがここまで笑われるとさすがにムカッとくる。なんの牽制にもならないだろうがあの日見た(と思う)少女の霊の特徴を事細かに説明した。するとK先輩の顔が強ばったように見えた。そして「嘘をつくな!」「ビビリのお前が作り出した妄想だろうが!!」などと語気を強めて罵ってきたので「なんで騙されて怖い思いをしたボクがこんなに言われなきゃいけないんだ!?」と頭にきたのでK先輩と言い合いになりあまりにも引かないボクに先輩は「じゃあ今夜確かめてみようじゃねぇか!」と提案してきたのでボクは了承した。
先に仕事が終わった先輩は適当に時間を潰しボクの終わる時間に店の前で合流した。店を閉め時刻はあの日と同じ0:30。二人で四番ホームに続く渡り廊下を歩いていた。この頃には冷静になったいたボクは少し後悔していた。幽霊を見たあの日以降三日間は幽霊を見ていないからだ。そんな気持ちを抱えながらふと前を見たボクは廊下のつきあたりに人影を見た気がして「あっ!」と声をあげた。隣の先輩はその声にビクッと驚きながらもボクが見ている方向をじっと見つめ、やがて笑いだした。
「ぎゃはははははは!!お前、もしかしてこれの事を言っていたのか?」
渡り廊下のつきあたりの壁には一枚のポスターが貼ってあった。そこには女性が白い服を着てニッコリ笑っていた。確かにボクが見た少女の幽霊の外見と酷似していた。よく見ると所々違うが、あの時恐怖に支配されていたボクなら見間違えたかもしれない。
「くっくくく…悪かったよ、そんなに怖かったんだな」
完全にボクの話は恐怖によるただの妄想だと決めつけ(ボクもそう思ったけど)お腹を抱えて笑うK先輩。また悔しさが少し沸いてきたけど正直ホッとしていた。そこにいても仕方ないので帰ろうと思った時、夏なのに肌寒さを感じるくらい周りの温度が下がった。
「見つけた」
同時に後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。反射的に振り返りそうになった時、先に先輩が絶叫した。ボクよりも早く後ろを振り返ったようだ。ボクは先輩に気をとられ後ろは見なかった。
「こ、こっちに来るんじゃねぇ!!」
半狂乱になったK先輩は四番ホームに降りていってしまった。ボクがその場に固まっているとK先輩の叫び声を聞きつけた駅員さんがライトを片手に駆けつけてきてくれた。
「どうした!何があったんだ!?」
ボクは少女の幽霊の事は伏せて今までの事を話した。その間に四番ホームからK先輩の叫び声が聞こえてきた。
「とりあえず、あいつを止めるぞ!」
駅員さんと二人で四番ホームに降りようとした時、ボクの耳元で声がした。
「連れてきてくれてありがとう」
「え…?」
咄嗟に振り返ったがそこには誰もいなかった。その代わりにボクの目にはあり得ないものがうつっていた。
「え?なんで…」
慌てて視線を四番ホームに戻すとK先輩が突き飛ばされたようにホームに飛び込んでいた。その瞬間ー
キキィィィー!!…ドグシャ!
四番ホームに入ってきた電車の凄まじいブレーキ音と何かが当たりつぶれる音が耳に飛び込んできた。ボクはその場にへたりこんでしまった。夜の駅構内が騒がしくなり始めホームに駅員や警察が集まってくるのをボクはただ見つめていた。
後日、K先輩の死亡を改めて聞かされたボクは先輩が死んだあの日、何故終電時間を過ぎていたのに電車がホームに入ってきたのかを知った。あの日、A駅から県をまたいで六つほど離れた駅の線路の下から少女の白骨死体が見つかり電車が遅れていたそうだ。その白骨死体の少女はその県で七年前に行方不明になっていた少女らしかった。そしてその少女の生前の写真が記載されていてそれを見たボクは鳥肌がたった。それはあの日に見た少女と全く同じ服装だった。
「やっぱりあれは幽霊だったのか、でもなんでこんなに離れた駅に出てきたんだろう?」
その疑問は事件からさらに日が経った後に知ることになった。
警察が白骨死体の少女を調べている時にある男性が警察に出頭してきたらしい、その男性というのがなんとK先輩の昔の友人だった。その男性によって明かされた真実はとてもおぞましいものだった。
当時K先輩は高校生でその県に住んでいたらしくその頃から悪い評判が多かったらしい。特に年下の少女に対する異常な興味を見せていたらしく友人の間でも距離をおかれたいたそうだ。
そんなK先輩はある日ついに行動を起こしてしまう。帰る途中だった当時小学生の少女を誘拐し山の中で乱暴した。そしてその時にその少女を殺してしまった。焦ったK先輩は仲間の一人、今回出頭してきた男性を呼び出し線路に埋めるのを手伝わされた。K先輩に脅され今日まで喋ることができなかったらしい。その後先輩は逃げるように引っ越し今日に至ったわけだ。
その話を知った時ボクは強い嫌悪と恐怖を感じた。あの少女は殺された後もK先輩を探し続け、ボクが先輩にあの作り話を聞いた日にこの駅にたどり着き、ボクを通して先輩を見つけた。そしてあの日、偶然自分の死体を見つけられ電車が遅れた日にK先輩を四番ホームに突き落とした…そして、K先輩が作った話の通りになった。
本当に偶然だったのか?K先輩が作った話が彼女を引き寄せたのか?彼女の強い恨みの念が全てを引き寄せたのか?…答えは出なかった。
あの後ボクはあのコンビニをすぐに辞めた。怖かったのもあったが何よりも忘れたかった。でも、今でもボクはあの時のある光景を忘れることができなかった。
あの日、K先輩がホームに落ちてバラバラになった瞬間、それをすぐそばであの少女の幽霊は見ていた。その時その少女が浮かべた恨みや喜び、色んな想いが混ざったあの笑顔…その笑顔が今でも頭に焼き付いてはなれない。
初めて創作ホラーを書きました。少しでも怖いと思ってくださったら嬉しいです。