表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/27

05 同行する神官



「どのようなご用件でしょうか?」


 ジャファードは仰々しく部屋にやってきて、大神官は後は若い者でよろしくとばかりいなくなってしまった。ミリアもそれに同行して退室してしまい、二人きりになる。

 江衣子えいこにとってはそれがありがたかったが、彼はまた作り笑いを浮かべていて、溜息をつきたくなった。


(物凄い話辛い。なんでこんなに他人行儀なのかな。昨日まで……買い物に行くまであんなに普通に話していたのに)


 江衣子は、短髪で眼鏡をかけたジャファードの姿を思い浮かべて溜息をついてしまう。


「御用がなければこれで」


 黙ったままの彼女に彼はそう言うので、江衣子は慌てて引き止めた。


「あの!か、ジャファード。大神官から西の神殿に行くように言われたの。そこで経典をもらうんだって。それをこの神殿に持ち帰って暗記しなければならないらしいの。知ってた?」

「ええ」


(知っていたんだ。神殿にいれば安全とかなんとか言っていたくせに。嘘つき)


「ご安心ください。一行には騎士団もつき、我々神官もお供します」

「我々って、あなたも行くの?」


 江衣子がそう聞くと、ジャファードは黙ってしまう。


(行かないのね。なんて、なんて、無責任なの!人を連れてきておきながら)


「私から大神官にお願いするからジャファードも付いてきて」

「な、どうして!」

「私だけ危ない目に合わせる気なの?あなたが連れてきたんでしょ?」

「危ない目って。騎士団もいるのでそんな目には」

「だったら、あなたもついてきてもいいでしょ?危なくないんだから」


 江衣子がそうまくしたてるとジャファードは少しむくれたように黙り、それがなんだか昨日までのかなめを思い出させて、ほっとしてしまう。


(そう。夫婦関係は彼の希望通り解消したけど、責任はとってもらわないと。この世界に連れてきた)


「だったら決まりね」


 嬉しそうに江衣子が宣言すると、ジャファードは負けたとばかり肩を落とす。

 そうして、彼は聖女一行の神官の一人として旅に同行することになってしまった。



「ジャファード!」


 愕然としながら江衣子の部屋を出るとすぐにチェスターに呼び止められた。


「俺のことアピールしてくれた?」


(そんなことすっかり忘れていた)


 ジャファードが正直に忘れたと答えると、チェスターは少し機嫌を損ねたように口を曲げた。


「わざとだろう?そういえば、聖女様の後押しがあれば、出世の道が開けるかもしれないもんな。迎えに行った時点でそれは予測済だったけど」

「そんなことはありません」

「またまた~。ジャファードは飄々としているようで、出世欲が強いことは知っているんだからな。俺、大神官になりたいから。お前には負けない。西の神殿への旅にはお前も同行するんだろう?名簿には入ってなかったけど、聖女様に呼ばれていたみたいだから、きっと同行するんだろうな。それって指名か。ああ、一歩で遅れた!」


 チェスターはジャファードに口を挟む隙も与えず、一人でしゃべって頭を抱えている。

 

「くそ。俺は必ず聖女様を振りむかせてやるからな」


 そして何やら彼の闘争本能に火が付いたようで、捨て台詞を言うと彼はいなくなってしまった。


「……チェスター様はいったい何を勘違いしているんだ?まあ、ああいう人が傍にいたほうが気が休まりそうだけど」

 

 ジャファードは極力江衣子を避けようと思っていた。困ることになれば助けるつもりだが、積極的に関わるつもりはなかった。

 今彼女は新しい人生を歩んでいる。邪魔はしないほうがいいと考えていたからだ。

 なのでチェスターが江衣子に近づこうが関係ないと思っていた。旅にも同行する予定はなかった。

 しかし聖女の指名であれば同行せずにはおられない。



「無事に終わればいいんだけどな」


 旅がなにか波乱万丈になる気がして、ジャファードは大きく息を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ