21 ジャファード動く
ジャファードに理解してもらい安堵していたが、それと悟られるのは不味いので、江衣子は暗い表情のまま聖女の部屋に戻り、湯あみ、夕食を終わらせる。昨日と異なり食欲はあったが、ここで食べてしまうと何かがあったと悟られてしまう。
なので空腹を我慢して凌いだ。
早めに休むといってベッドに入り、彼女は侍女が出ていくのを待つ。
ジャファードの「夜に来る」という言葉を信じて、ベッドの中で眠気と戦った。けれども昨夜寝ていないため、彼女は完敗。
眠りに落ちたところで、起される。
目を開いたらそこにいたのはジャファードで、悲鳴を上げそうになったので、彼に口を押えられた。
「ごめん」
「こっちこそ、遅くなったな」
お互いにそう言い合い、苦笑する。
聞き耳をたてられているかもしれないので、かなり近づいて言葉を交わす。ベッドの上ということもあり、江衣子的にはかなり照れているのだが、ジャファードは平気そうであった。
(なんか、自分だけが好きみたいだ。っていうか、自分だけかもしれないなあ)
そんなことを思い凹みかけるが、江衣子は気を取り直した。
(今はミリアのこと。馬鹿なことは考えない!)
「江衣子。ミリアが誘拐されていて、彼女を餌に取引を持ち掛けられている。この理解であっているか?」
「うん。取引というより、脅しだけどね」
「そうだな。その内容はどんなものなんだ?」
「新王に現国王の弟ウォーレンを即位させるという神託があったと嘘をつくこと」
「新王……、ウォーレン……。そういうことか」
「え?どういうこと?」
「西の神殿長をけしかけたのはこのウォーレンだ。まあ、なんで神託する聖女を殺そうとするかはわからないが。とりあえず西の神殿長とウォーレンは繋がっているだろう」
「ミリアは、このウォーレンのところにいるの?」
「どうかな?違うところに監禁していると思うぞ」
「違うところか……。その場所がわかれば何かできるかもしれないのに……」
江衣子のつぶやきにジャファードが何かを思いついたように目を開く。
「チェスターに相談してみる。奴なら何かわかるかもしれない」
「チェスターに?」
「うん。今は実家に戻っているけど、ここから遠くないようだから、行ってくる」
「今から?」
「うん。早い方がいいだろう」
「ありがとう」
ジャファードの体のことも心配であったが、捕まったミリアのことはもっと心配だった。
「明日は休もうかな。そうすれば、ジャファードも休めるでしょ」
「そうだな。そうしてくれると助かる。チャスターに相談したら不審がられないようにすぐには戻ってくるつもりだけど……。とりあえず江衣子はもう休め。昨日寝てないんだろう?」
「あ、うん」
「じゃ、おやすみ」
頭を撫でられ、驚いているとジャファードは窓に近づくとひょいっと外に出た。
声を出しそうになったが必死に押さえて、窓に近づく。
彼は窓の外の小さな出っ張りの上に乗っていた。どうやらこれを伝ってこの部屋に入り込んだらしい。
窓から見下げる彼女に気が付いたジャファードは手を振る。
(危ない!)
それがとても危なっかしくて、江衣子は彼が無事に別の棟の部屋に入り込むまで眺めていた。
*
チェスターの実家アレナス家は王都にあり、大神殿から馬で10分ほどだ。徒歩では1時間程度で、ジャファードは屋敷についた。
(……馬鹿か。俺は。貴族の家にアポなしでこの時間に訪問して入れてもらえるわけがない)
浮かれていたのか、どうなのか、ジャファードは自らの行動に頭を抱えたくなった。
けれどもやはり神はいるらしい。
屋敷の周りをウロウロしていると、突然腕を掴まれた。抵抗しようともがいているとそれがチェスターであることに気が付いた。
「不審者確保~」
チェスターはにやにや笑いながらそう言って、抜け穴から屋敷に彼を案内した。
「とりあえず大きな声は出すなよ。後はお茶は出せない」
「わかっているよ」
お互いに小声で言い合ってから、まずはジャファードが要件を話す。
「知っ!」
聞き終わった後「知ってる」と答えられ、驚いて大きな声を出しそうになった彼の口をチェスターが押さえる。
「だから小声。頼むな。この件はうちの兄貴も一枚かんでいるようなんだ」
また声を出しそうになり、チェスターは心配らしくずっと口を押えたままだ。
「俺もミリアが心配なんだ。だから居場所を突き止めたら助けに行こうと思っている」
「俺も付いていく」
「聖女様はどうするんだ?」
「神託をさせる目的がある今、危険はない。だからこうして訪ねて来れてる」
そう答えるとチェスターが目を丸くした後にやっと笑った。
「俺を頼ってくるとは。友達って認めてくれたんだな。友よ。しかも変な丁寧語もやめてるし。最高だぜ」
そんな風に喜ばれてジャファードは少しだけ複雑な気持ちになるが、素で話すと決めたので、そのまま続ける。
「どうやって居場所を突き止めるつもりだ?」
「兄貴はすでに行き先を掴んでる。俺に言わないだけだ。だから、兄貴の部屋に忍び込むつもりだ」
どや顔で答えられ彼は返答に困るしかない。
だが、その方法が一番早い気がして頷いた。
「俺も手伝うよ」




