13 神の声
「何をおっしゃっているのでしょうか?」
二人の神官に問い詰められ、レニーは少し怯えた様子だった。
「もう一回聞きます。最後に聖女様を見たのは西の神殿長の部屋に入るところで、あなたは出てきたのを見ていませんよね?」
ジャファードはレニーの前で腕を組み、冷ややかにそう尋ねる。
「いいえ。聖女様とミリアは神殿長の部屋から出ていらして、どこかに行きました」
彼女は顔色を変えながらも必死に答えた。
彼の隣のチェスターは、口元だけに笑みを浮かべながらさらに質問する。
「どこかって、おかしくないか?なんで君はついていかなかったんだ?」
「それは……、私があまり聖女様と親しくなかったので」
それに対して、レニーは俯き加減で細々と言葉を紡ぐ。
「筋が通ると言えば、通ります」
ジャファードが腕を組むのをやめ、彼女に目線を合わせるように腰を落とす。それでレニーは少し勘違いして安堵の息を吐いたが、次の言葉で激しく抗議した。
「レニー。けれどもあなたしか、二人が出てくるところを見てはいません。私としてはあなたが嘘をついていると思うのですが」
「そんなことはありません!」
彼女の怒気に小さく口笛を吹いて、今度はチェスターがレニーに向き直る。
「君の態度、ちょっとおかしい気がするんだ。聖女様に対してこう敬意が見えないような」
そう言いかけた時、一つの声が割り込んできた。
「おやおや。どうしたのですか?」
それは西の神殿長で、彼女は助かったとばかり神殿長の傍へ駆け寄る。
「侍女一人に神官二人で何を尋ねていらっしゃるのですか?質問があれば、私にどうぞ。レニー。さあ、仕事にもどりなさい」
神殿長が彼女の肩に優しく触れ、レニーはその場を逃げるように去る。そしてジャファードとチェスターに笑みを向けた。
「さあ、お話を伺いましょう」
*
(どこに連れて行くのかしら。殺す目的とはわかるけど)
麻のずた袋に江衣子とミリアは口に布で縛れた上、入られていた。肩に背負われ、頭を下にされているため眩暈がする上、歩く度に振動が伝わってくる。
馬車の中より気持ち悪くて、江衣子は吐きそうな気持を抱えながら、何かできることはないかと考えていた。
(みんな私たちが浚われたことに気が付いてないの?聖女、聖女って言っていたんじゃないの!)
西の神殿長と向き合っていたときは冷静であったが、今は死の恐怖に囚われ、江衣子は泣き言を叫びたくなっていた。
(要の馬鹿!連れてきたなら責任取りなさいよ。聖女の仕事をちゃんとするから。お願い助けて!もう悩ませることなんてしないから!)
この世界に来て、彼女はジャファードに突っかかることばかりしていたことを悔やみ始めていた。
確かに元夫であるが、彼はその前にこの世界の住人で神官であった。記憶がないから聖女である江衣子と結婚してしまったが、それは彼自身の求めるところじゃなかったはずだ。
(ここが、神よ。助けてっていう場面よね。西の神殿長は祈っていたけど、結局、娘さんは死んでしまった。私も、結局そうなるのかしら。何のためこの世界に来たのかわからないまま……)
元々無神論者なので、神に対して絶望する言葉などは出てこない。
けれども不公平だとののしりたい気持ちはあった。
―――時がくればわかるわ。
ふいにそんな声が聞こえ、麻袋の中なのに、彼女は声の主を探した。
―――あなたは助かる。してもらわないといけないことがあるから。
袋の中は江衣子だけ。ミリアは別の袋に入れられ別の人が担いでいるはずだった。
(誰?)
―――私は所謂神という存在。万能ではないけど、この世界を作ったもの。安心しなさい。あなたは助かるわ。
そう言い終わると声は聞こえなくなってしまった。
(な、なんだったの?神?神の声?神様は女の人だったのか。随分なんか普通っぽかったけど)
けれども、江衣子の気持ちはおかげで落ち着いた。
(神が助かるって言っているんだから、助かるはず)
そんな楽観的なことを思いながら、彼女は麻袋の中でじっと耐えることにした。吐き気が酷く吐きそうになりながらも頑張って耐え続けた。
*
「あなた方は私を疑っているわけですね。どうぞお調べください」
神殿長は二人を部屋に招きいれた。それから部屋をくまなく調べるように言われ、二人は顔を見合わせたが気になっているので、調べさせてもらうことにした。
「神殿長とは、大神官様の次の位なのはわかっていますか?それを疑うということは、あなた方、神官の職を失う覚悟はできますよね?」
ジャファードは壁を調べ、チェスターは床を調べている。二人は神殿長の言葉に答えることなく、作業を続けていた。
答えない彼らに神殿長は次のことを尋ねる。
「神官の職よりも、聖女の身柄が大切なのですか?」
「当たり前です。神官というもの、神から遣わされた聖女をその命より大切にするのが普通です。位や職業はその際失ってもいい。私はそう思いますが、あなたは違うのですか?」
これに最初に反応したのはジャファードで、神殿長を凝視し、その真意を確かめようとしていた。
チェスターも立ち上がり、二人の会話に耳を傾ける。
「私は……そうですね。聖女が本当に神の使いであれば、そうでしょう。けれども、彼女は本当に神の使いでしょうか?」
「本当です。私が異世界から連れてきましたから」
「それだけで?彼女は普通の女性に過ぎない。経典を暗唱するなど誰にもできることです。そのようなまやかし続けるのはおかしいとは思いませんか?」
「まかやかし?おかしなことを言うのはあなたじゃないか!神殿長という立場にいながら、聖女の存在価値を疑うなんて!」
「確かにあなたの通り、私はおかしいかもしれませんね。だから、こういうことができるのですよ」
神殿長は勝ち誇った顔をしていた。けれども、ジャファードは彼が不審な動きをすることに気が付いていて、彼が本棚の本を動かく前に体当たりをする。
「離しなさい!離せ!」
ジャファードに手を押さえつけられ動けない彼は、精一杯の抵抗を見せる。しかし、チャスターが彼の足を踏んで、完全に動きを封じた。
「このレバーを押せば、どこかに繋がっているんだな。が、今押すとろくなことがなさそうな気がする。とりあえず、聖女様の居場所を吐いてもらおうか?」
神殿長は黙秘を通して、ジャファードが膝を使って彼の胸を蹴る。
「おい、おい!君らしくもない」
「時間がなさそうな気がします。いやな予感がする」
「確かに。そうかもしれないな。じゃあ、これを使ってみるか?」
チェスターは神官服に隠し持っていた小剣をジャファードに差しだした。
「……お借りします。代わりに手を押さえてもらっても?」




