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10 聖女襲撃

 翌朝朝食を取ると、一行は出発した。

 昨日は何度も話しかけてきたチェスターの姿が見えず、江衣子は少しばかり不思議に思っていた。 ミリアはちょっとがっかりしていたようで、彼女のためにも江衣子は少しばかりチェスターが現れるのを心待ちした。


 本日1つ目の村で笑顔を振りまき、再び森に入ったところで異変が起きた。

 馬の嘶きと共に急に馬車が止まり、中にいた江衣子、ミリア、レニーが倒れこむ。


「聖女エイコー様。申し訳ありません」


 先に立ち上がったのはミリアで、江衣子は大丈夫と答えながら座りなおす。

 喧騒が聞こえ、彼女は窓の外を見た。


 外は混乱していた。

 騎士同士が戦ったり、騎士が神官を襲ったり、その逆があったり、彼女はその場にへたり込んでしまった。


(どういう事?同志打ち?なんで?)


「どうしたのですか?」


 ミリアが彼女の傍につき、レニーが窓の外を見る。


「恐ろしいことが起きてるわ。どうなるの!」


 両手で顔を覆いパニックを起こし始めたのはレニーだった。


「大丈夫。中でじっとしていたほうがいいから」


 騎士や神官で、仲間割れをしているように見えたが、この馬車を守ろうとしている動きもあり、下手に動くのは危険だと江衣子は思ったのだ。


(動いたところで足手まといにしかならない)


「聖女様!」


 扉が開かれ、副団長が姿を見せた。


「逃げます。付いてきてください!」


 彼の指示で、江衣子たちは馬車を降りる。

 生き残っている騎士、神官は彼女たちを守るように囲んでいた。

 馬車の周りには血の匂いが立ちこもり、動かなくなった騎士、切りつけられ目を閉じることなく絶命した神官たちの死体が打ち捨てられていた。

 足がすくみ動けなくなった江衣子を、副団長が叱咤する。


「犠牲を無駄にするつもりですか!走って!」


 今朝までは想像もしていなかった凄惨な場面、状況に頭をついていっていない。けれども彼女は必死に足を動かした。



「遅かったか……」


 チェスターのつぶやきを背中で聞きながら、ジャファードは馬車へ駆け込んだ。もぬけの殻、荒らされた形跡のない車内から、馬車に乗っていた人物は自らの意志で馬車を降りたと想像できた。


(……どこに)


「裏切り者がかなりいたみたいだな」

 

 チェスターは死体の様子からそう判断して、険しい顔をする。


「生き残っているのは15から20くらいか。どれくらい味方なのかわからないけど」


 彼は淡々と分析しており、ジャファードはそれで冷静さを取り戻していく。


 昨晩彼たちは追いつめられ、死んだと見せかけるために川へ飛び込んだ。それから必死に川から這い上がって、聖女の一行に加わろうとして探していた。


「江衣子、様はまだ生きています。足跡からすると森のほうへ逃げたようです」


 ジャファードの言葉に、チェスターは少し目を細めた。




 馬で捜索する敵から、江衣子たちは徒歩で逃げていた。

 騎士8名、神官2名、そして彼女と侍女2名。

 生き残った者たちはそれだけだった。


かなめは死んでしまったの?)


 江衣子はそればかりを考えていた。今は逃げることだけを考えなければならないのに。


(国を救うなんて。そんなことより、来なければよかった。あの時必死にかなめを説得すれば……)

 そんな後悔が襲うが今更である。


 蹄の音が近づいてくる。

 それは軽いもので、副団長が皆に黙るように合図をして、茂みに隠れる。

 彼と別の騎士が蹄の正体をうかがっている。


「聖女様!」

江衣子えいこ様!」


 聞こえてくる二つの声。

 鮮明に呼ばれる名前。その声。

 江衣子は堪らずその名を呼んだ。


かなめ!」


 副団長が体を起こし、他の騎士も同様に立ち上がる。


 蹄の音が大きくなり、二つの影が現れた。

 一人はチェスター、もう一人はジャファードだった。


かなめの馬鹿!!」


 誰も止めなかった。

 江衣子は駆け出し、ジャファードも馬から降りる。

 そうして森の中、公衆の面前で、元妻の聖女と元夫の神官は再会を喜び、抱きしめ合った。



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