君のことだよ
目を覚ます。前々からこの日だけは早起きをすると決めていた。
身支度を整える。
加奈が原稿を消してしまった日から加奈の家に行く事は無くなった。
、もちろんうるさいモーニングコールも来ない。
でも俺は信じていた。
加奈の事を。
迎えた八月三十一日。
電車を乗り継ぎ最寄りの駅に着くとそこから走る。
別に急いでもなにも変わらないのだが急がないと気が済まない。
俺は呼ばれてもないのに加奈の家の前にいた。
しかし中には入ろうとはしない。
ずっと待っている。
周りから見たら相当な不審者だなと思いながら外で待つ。
人の家に入らずにそこでただ突っ立っているだけだから。
しばらくするとスマホに着信が入った。
時刻はぴったり八時。
俺その相手を確認しない、しなくてもわかるから。
一気に加奈の家の敷地に入りドアを叩く。
「は? はーい」
加奈の声が響く。
「って! あんた、早っ! え? もしかして」
加奈がドアを開けると驚きの声を漏らす。
俺と俺の後ろの景色を見比べている。
「ああ、待ってたぜ!」
俺のがずっと考えていたこのセリフは…………。
まさかの飛び蹴りにかき消される。
「はぁ! って、な、なんでだよ!」
衝撃を受け体がクラクラしたもののギリギリで持ちこたえる。
俺が加奈の顔を見ると、
「っさい! この変態! ストーカー! 変態! 横行結腸食われろ!」
真っ赤にして怒っていた。
どうやら完全に元気になっているみたいだった。
俺の心配が的中しなくてよかったそう心から思いながら話を続ける。
「そ、そこまで言うなよ! この前は」
こいつは果たしてこの前の件を憶えているのか?
問いただそうとすると答えはすぐに帰ってきた。
「あ、あの時の事は、そ、その、か、感謝してるわ。で、でもそれはそれ、これはこれ」
ふふんと胸をそらし自慢げに加奈は言う。
こいつ、ちっとも可愛くねぇ。
こいつが泣きじゃくる写真撮っときゃよかった。
そして今見せてやりたいよ!
これじゃあ俺がただのバカみたいじゃないか。
怒りを感じながら家の中に入る。
その感覚さえも懐かしく感じてしまう。
会ってなかったのはほんの一週間だったのに、だ。
「まあでも、あんたがキモいのが変わってなくてよかったわ」
「何言ってんの?」
そんな軽口(軽口なのか?)を叩きながら加奈の部屋に入る。
ベッドの上にはノートパソコンが開いてあった。
「まあ、言わなくても分かるでしょ?」
加奈がそう言う。
「あたり前だろ」
「そっかよかった」
加奈は本当に安心しているような顔つきになりながらノートパソコンを俺の方に向けて差し出してくる。
恐らくさっき完成したばっかの原稿だろう。
加奈の目元にはクマが出来ていたら事を思い出す。
あいつは全力を尽くしたんだな。
俺は無言で引き寄せて、読み始めた。
その内容は面白かった。
というか消える前よりも面白かった気がする。
むちゃくちゃ面白かった。
でも何よりも気になったのが…。
「なあ加奈、これって」
主人公がヒロインに告白するシーンの言葉が[そこっ触らないでよっ!]の言葉と完全にではないものの一致していた。
「ふふっ! は、初めて出来たふ、ファンの事はさ。や、やっぱり裏切れないじゃん!」
と可愛らしい笑みを見せる。
本当にラノベが好きなんだなこいつ。
こいつも素直になったなと思ったがすぐさま、
「まあファンとしては大事だけど最初があんたって言うのはちょっとね」
と付け足した。
やっぱり可愛くないがここを含めて加奈なのでグッと抑える。
「で、どうだった? 正直に言って」
何度も聞いたこのセリフを聞く。
一緒色々な事が脳裏に浮かぶが俺は全てをかき消して今を見る。
返す言葉は決まっていた。
「超面白かったよ」
これは昔言おうと思って加奈に止められたセリフだった。
「当たり前でしょ、自信作なんだから!」
そう言いながら加奈はページを移す。
そこには応募用紙があった。
本編以外は全て記入済みだった。
「じゃあ、早速応募するね」
そう言いながら加奈は小説原稿を入れる場所に[君と一緒だからっ!]を入れる。
マウスを動かす加奈の手が震えている。
「ふー、あとは応募するだけだね」
一連の動作を終え加奈が一息つく。
加奈が一気に肩が軽くなったように言った。
「そうだな」
俺が相槌を打つと加奈がにっこりと笑う。
「悠哉、あんたがエンターキー押して」
屈託のない笑顔でそう告げた。
俺は突然の提案と笑顔、両方に戸惑う。
「このラノベはあんたがいなかったら書けなかった、だから、ね!」
そう言われちゃ断る理由は無いな。
俺は加奈からマウスを受け取る。
「ありがとよ」
そう言いながらキーを押そうとするが、
「だぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱりダメッ!」
まあそう言うのは分かってたが、同時に蹴りが来たのは予想外だった。
「ってーなお前! なにすんだ!」
こいつ、蹴りはないだろ!
「いや、なんかその、わかんないなぁ」
加奈は本当に分からなそうに言う。
「はあ、お前が応募すればいいんじゃないか?」
どうせこうなると思ってたよ。
ため息混じりに言うと、
「いや、それはなんか、悠哉にもやってもらわないと」
はあ、本当こいつはめんどくさい性格してるよな。
俺は加奈の手をマウスの上に乗せる。
「え? でも悠哉は?」
俺は加奈の上に手を乗せる。
「これで出来るな」
我ながらカッコよ! と思ったのもつかの間、
「キモっ! なにすんの? 変態! 空腸圧迫して潰れろ!」
加奈から罵声が飛んでくるが、物理攻撃は飛んで来なかった。
「えーと、加奈?」
俺が聞くと加奈はバツが悪そうに答える。
「ま、まあ、と、友達なんだしこんくらいなら良いわよ、ただ、終わったら殴るから」
「ありがとよ」
俺は加奈の指を使ってマウスをクリックした。
画面には応募完了の文字が出る。
「お、終わったー」
加奈が後ろに倒れる。
「ああ、終わったな」
俺はこいつの部屋を見渡す。
思えば最初はそわそわしてたっけ? それが今はこんなに居心地良くなったんだな。
そんな感覚に浸りながらノートパソコンを眺める。
こいつと過ごした日々が俺の脳裏をよぎる。
走馬灯ってやつか? おかしいよなこいつとはここにくればいつでも会えるのにな。
どうしようもなく切ない気持ちになる。
「じゃあ、お昼食べる?」
「ああ、頂いてくよ」
加奈の微妙な料理も懐かしく丁度食べたくなっていたところだ。
こいつの料理にも色々な思い出があるよ。
俺はこいつとの料理一つ一つを思い出し懐かしく思い出す。
「あ! あとその前にこれを………」
加奈が無造作に俺に近づく。
え? まさか、お礼のキスとかされちゃうのか?
ってまあそんなことは無いよなどうせしょうもないことだよ。
こいつと結構一緒に居たんだ、急にキスとかありえないよな。
俺は無造作に近ずく加奈を見つめる。
その目は俺には少し笑っているように感じた。そして俺は、
ぶっ飛ばされた。
ものすごい勢いで放たれた足技は俺をぶっ飛ばした。
壁にぶつかり断末魔を放つ。
「はい、これあんたがあたしの手を触った料金」
そう言って加奈は下に降りて行った。
………………………………………………。
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
絶対おかしいだろ! あの流れだぞ!
俺の思考はラブコメだとキス直前の主人公だったよな!
現実は本当に上手くいかないもんだな!
加奈の流石に高すぎる料金を払った所を抑えながら考える。
大声で叫びたかっがかなりダサいのでグッと堪え下に降りて行った。




