衝撃的(物理)な出会い
とりあえずここまでで、
「よっ! 悠哉、お前全校集会寝た?」
悠哉の後ろの席で中学の頃も同じクラスだった西川翔太が話しかける。
「お前なぁ、そんな大声で寝た? って聞くバカはお前くらいだよ」
「ちなみに俺は寝た」
「————聞いてねえよ!」
ゴールデンウィークが開けた俺の日常はそれまでとほとんど変わらなかった。
流行りの漫画を読んだり音楽を聞く、髪を染めたいと言う願望もある。
でも染める勇気がない。
まあそんな感じで普通の至って平均的な生活をしてるのが、俺北村悠哉だった。
「にしても可愛いよなぁ、速水に櫻井に夢咲は、同じクラスで良かったよな!」
俺のクラスにはヤンキーっぽい人などがいなくて安心安全平和な日常が送れると思ったわけだが、周りはそうはならなかった。
俺のクラスはアタリのクラスだった。
この学年でずば抜けて可愛いとされている三人が俺と同じクラスだったのだ。
平凡な日常を望む俺にとっては迷惑な話………とはならなかった。
なぜなら、速水さんは俺の一方的な片思いの相手だからだ。
「あの三人みんな可愛いくて三人共仲良いんだよな、そこらのアイドルとかじゃ比べ物にならねえよ」
こいつの言い分は大ごとに聞こえるが、正直俺もそう思う。
俺は速水さんを思い出す。
彼女は俺の好きなタイプを具現化させた様な人だった。
皆に優しく笑った顔はまるで天使、黒髪はあどけない清純さを感じさせる。
皆がやりたがらない係を率先してやるその姿はとても知的に見える。
身長はギリギリ百七十センチほど。
背の高さも彼女が美人だと言う事を表している。
「なーに呆けてんだよ?」
「へ? 別になにも!」
やべ、声が上ずった。
俺がこんなこと考えてるのバレたら絶対茶化されるな。
「はぁ、お前はどうせ速水さんを見てたんだろ?」
「は? 見てねえし!」
「嘘つけ、お前速水さん大好きですオーラ全開だぞ」
「え? まじ? そんなに?!」
俺は体を確認する。
「というか、学年でお前が速水さんのこと好きって知らない人が少ないくらいかな」
「そこまでかよ! なんでだよ?!」
もしそれで速水さんにバレたらおれの淡い恋が!
「だってお前授業中いっつももチラチラ見てるしさ」
言い忘れてたが速水さんには一目惚れだ。
「しかもお前最初の係決めの時速水さんが文化祭係になった途端に手挙げてさ」
「それは……やり過ぎた」
文化祭係は二人の係だ、ちなみに皆やりたがらなかったわけだがその理由は……なぜならめんどくさそうだから。
文化祭準備日も収集される上、当日においてはせっかくの文化祭の時間を取られると係決めの時に先生が言っていた。
正直俺もやりたくない。
だか、速水さんがいるならそれは別だ。
「しかも速水さんに話しかけるだけで自慢してくるし、お前キモいぞ」
「ええ?! まじか!」
なかなかに痛烈な一撃が決まり膝を落としかける。
「でもお前本当に一途だよな、おれは夢咲かな?」
「はあ? 夢咲はないだろ」
俺は夢咲を見る。
身長は速水さんと真逆で小さめの百五十センチ。
茶髪のロングヘアーだ。
外見は確かに可愛いのだが…………。
「お前は速水さん以外ないからだろ?」
翔太がニマニマしながら言う。
「いや、そうじゃなくてさ。あのきつい目つきとか、周りを見下してる様な感じで……」
他人に対する態度は全体的に上からで冷たい。
内面は正直有り得ない。
「はあ? お前そこが良いんだよ」
なんでわからないかなぁという顔をされる。
「は? お前なにを————」
俺はここまで言ってから思い出した。
親友の趣味がなんたるかを。
とりあえず一人でクラスに急いで戻った。
「お前! 待てって、お前も似た様なもんだからな!」
適当だか知らんが放ったセリフに、
「んなっ!」
俺の心臓は撃ち抜かれた。
クラスに戻るとほとんどの人が帰っきていた。
やなこと聞いたよ、俺のライフはもうゼロだよ!
いやな事はもう忘れてやる。
俺は机に突っ伏した。
「おい! 北村! もうそろそろ起きても良いんじゃないか?」
意識の外側で話しかけられたことにきずく。
顔を上げると同時にクラスメイトが笑う、その瞬間自分の過ちに気付く。
どうやら俺は机の上に突っ伏していたらそのまま寝ていたようだ。
や、やらかした、まだ仲良くなってない人とかいるのに!
というかこのクラス速水さんもいるのに!
俺の平凡な日常が終わらない事を祈りながら「すみません」と謝った。
「お前本当にバカだよな」
「るっせー、お前にゃ関係ねーよ!」
「じゃあ行ってこいよー」
今日はゴールデンウィーク明けの一日目、つまり宿題があるということ。
俺は今職員室へ向かっている。
担任の栗原先生に起こされたわけだが、それは国語の宿題を集めた後だった。
先生によると罰として自分で国語の宿題を持って私の席に置いてこいとの事だった。
しかし高校生にもなって、作文ね。
俺は手元の作文をみる。
タイトルは[税金ってなんなのかぁ?]。
我ながら相当寒い気がするがまあそんな気持ちは書いてるうちに無くなった。
「作文か、めんどくさかったな」
俺の[税金ってなんなのかなぁ?]は四百字原稿なんと五枚も使っている!
合計で千七百文字!
我ながらよくここまで書いたもんだよ、俺偉いなぁなんて事を考えてた。
だからかは分からないが、壁の向こう側から走ってくる人影に気付けなかった。
「え?」「っ!」
壁を曲がった途端為す術なくぶつかった。
その途端、俺の[税金ってなんなのかなぁ?]がひらりと飛び落ちた。
相手も手提げ鞄から色々と落としたみたいだ。
様々な落下音が聞こえる。
「いってー……」
こんなラブコメお約束の展開なんて、相手は一体だれ………。
まさか、速水さん?
俺がぶつかった相手を見ると………。
「っ!」
夢咲が俺の事を睨みつけていた。
別にぶつかったくらいで睨むなよ。
俺だってお前に興味があってぶつかったわけじゃない。
俺は速水さんしか見てないからな!
一応渋々、渋々謝る。
「ごめんよ」
「チッ!」
はぁ?
せっかく謝ってやったのにこいつ舌打ちとか、
こんな奴が速水さんと仲良いなんて………ちょっと考えられない、
というかこんな奴と一緒にいるとか速水さん優しすぎるよ!
流石にこいつの態度冷たいにも程があるよな。
俺が裏向きになった[税金ってなんなのかなぁ?]を取ってその場から立ち去ろうとしたその時。
「………んな……」
ん?
「なんか言ったか?」
「さわんなって言ってんのよ!」
その瞬間俺は目を疑う光景を見た。
夢咲の拳が俺の腹に直撃したのだった。
「ごはっ! 痛えよ! お前、なにすんだ!」
俺は当然の怒りをぶつける。
「それはこっちのセリフ! スケベ この痴漢が! どうせ私がくるまで待ってたんでしょ! 変態! エロ! 小腸ぶちまけろ!」
夢咲は有り得ない怒りを俺にぶつけた途端我に帰る。
「あんた、北村?」
夢咲が口を開ける。
俺の事を認識しないで殴ったのかよ!
と言いたかったがなんか更に殴られそうなのでやめる。
「そうだけど……」
「なんだ、変な言いがかりごめん、痛かった?」
へ? なんでこいつ俺ってわかった途端に優しくなって…。
これラブコメだったら俺の事好きって言う展開だよね!
まさかこいつ俺の事を?
性格は問題ありありだが、外見は良いからな付き合ってやっても、
「あんた由花以外の女に興味ないもんね」
由花というのは速水さんの下の名前だ。
というか、速水さんの親友が俺が速水さんの事好きって知っているという事実はヤバくないか?
俺がこの意見を口にしようとするが夢咲はもう俺への興味が失せたのか黙々と落ちた物を拾っている。
まあ俺の事好きなわけないわな、さっきまで考えてたことを全て忘れようとする。
その時、夢咲が俺の裏になった[税金ってなんなのかなぁ]をそのまま拾い上げた。
「おい夢咲、それは…」
話しかけようとした途端にまた俺の目の前に信じられない光景が入る。
本日二度目の腹パンだ。
「ったぁ! がはっ、な……」
これはバトルものじゃないぞ!
という言葉が出かけるが、俺は攻撃をしてないので飲み込む。
夢咲が俺の[税金ってなんなのかなぁ?]をバックに入れようとするが一瞬訝しげに見つめて表紙を見ようとする。
その時夢咲が不思議な反応をする。
一度しか言わないからよく聞け。
見る前に耳まで真っ赤にして下を俯き俺の前から走り去った。
つまり照れたのだ。
不覚にも俺は可愛いと思ってしまったのだ。
そのせいで反応が一瞬遅れた。
「夢咲! それ俺の[税金ってなんなのかなぁ?]」
そこにはもう夢咲の姿は無かった。
あいつ、なんなんだ?
俺もその場から立ち去ろうとした時、落ちてるはずのないものが落ちていた。
俺の[税金ってなんなのかなぁ?]だった。
正確にはそれと同じ原稿用紙が落ちていた。
おれの[税金ってなんなのかなぁ?]よりも少し厚みがある。
一時の気の迷いって奴かは分からない、でも俺はそれを拾い上げてしまった。
タイトルは[そこっ触らないでよっ!]。
俺は吹き出したね。
まず冷静になろう、こんな所に原稿用紙が落ちていて気付かないわけがない。
でも俺は気付かなかった。
では途中で出て来たと考えるのが筋だ。
じゃあ何かこの廊下で起きたことはあるか、一つだけある。
夢咲とぶつかった事だ。
その時に夢咲が俺の[税金ってなんなのかなぁ?]と[そこっ触らないでよっ!]を取り違えたと考えるのが常だ。
そう考えると納得がいく、あいつが慌てて俺のを取って行ったことや、執拗に触るなと言っていたことに。
だがまだ疑問が残る、これをなんで夢咲が持っていたかだ。
夢咲がこの原稿用紙に小説を書いたのが一番簡潔だがなかなか信じられない。
何しろタイトルがタイトルだ。
もしかしたら俺と同じで拾ったのかも知れない。
これを夢咲のものと決めつけるにはまだ早いよな。
そう考え直し原稿用紙をもう一度見直す。
————これ、夢咲のやつだ。
その原稿用紙にはペンネームが書いてある、 そこには、ドリーム咲と書いてある。
俺は動揺したね。
色々棚上げして言うけどさ、まずそのペンネームはないだろ!
俺は[そこっ触らないでよっ!]を持ったまま硬直していた。
「それでねー」「ふふっ面白いね」
廊下から声がする、片方は何度聞いても天使な声、そう速水さんだ!
俺はどう挨拶をしようか迷ったが手に持っているブツを見て確信した。
これ、バレたら俺の恋が終わる。
壁の向こう側数メートルには俺の想い人がいる。
その時とった行動は正気の沙汰じゃ無かった。
「それでってえ? 何してるの?」「え? 北村、君?」
聞いて驚け、
[そこっ触らないでよっ!]を守る為、俺は下に敷きその上に狸寝入りをしたのだ!
聞いてくれ! 俺は好きな人の前で地べたに寝てるんだよ!
もっと上手いやり方は絶対あったが、その時のおれは例のブツのインパクトに思考を完全にやられていた。
「えっと、行こっか」「う、うん、そうしよう」
あ、俺の恋終わったな。
そう感じた。
ふう、まあ頑張りますわ