楽しいラノベ!
八月五日
けたたましい着信音とともに目を覚ます。
そーいえば一昨日加奈にスマホを貸した時に着信音をいじられたなと思い出す。
時刻は朝八時。
頼んでもない二日おきのモーニングコールの時間が一時間ずつ短くなっていく。
例えようもない恐怖とともに目を覚まし、加奈の家へと向かう。
このままだと夜中にモーニングコールがなることになる。
そんな心配をしながら歩く。
まあ結果を言うと今後は八時で安定するわけだが。
「やっと来た!」
加奈が珍しく玄関で待っていた。
そして本日初の衝撃を食らう。
「お、おま、お前、な、なんでだよ、ったいなぁ、この野郎」
せっかく最近攻撃が収まってたと思ってたのになぁ。
こいつはすぐ暴力だ。
「緊急っつったでしょ! あと殴りたかったから」
待て待て待て、二つ目の理由おかしくないか?
「とにかく早く上がって」
俺は加奈に言われたとおり家に上がる。
「これなんだけど」
加奈が出してきたのは原稿が入っているノートパソコンだった。
「読んでくんない?」
俺は言われたとおりに読む。
「ふぅ面白かったけど、これのどこが緊急なんだ?」
内容は主人公とメインヒロインの初デートの途中で止まっていた。
「うーん、その………」
加奈は言いづらそうに口を開く。
「続きが思い浮かばないのよね」
俺はラノベを読んだ事はあるが書いた事は無い。
だけどまあ俗に言うスランプってやつなのだろうと理解する。
「悠哉、こっからどうしよっかな?」
加奈は泣きそうな目で相談してくる。
こいつ、泣き落としに頼りやがって! と一瞬だけ怒りが湧く。
まあなんにせよこいつのラノベの完成を心待ちにしているのは事実、俺には手伝わないという選択肢は最初から無い。
「うーんどーすっかねぇ」
とまあ意気込んでも冒頭で言ったように俺はラノベを書いたことがない。
「あんたさっき、任せろとか言ってなかった?」
つまりあまり力にはなれないわけだ。
「うーん、こことか変えたら?」
俺は途中のシーンを指差す。
「え? どこどこ?」
加奈がノートパソコンに顔を近づける。
「あーここね、以外とありかな? でもここ変えると後が詰まっちゃうのよね~」
「そっかぁ」
こいつが真面目にラノベを書いていることが充分に分かっているから自然と俺も真面目に考えてしまう。
「じゃあこことかどうだ?」
俺は別のシーンを指差す。
「えーと、どこかな?」
加奈がノートパソコンにもう一度顔を近づける。
その時、加奈と俺の顔が触れ合う。
「あ、ごめん」
俺が謝るのと同時に後ろに引く。
と、同時に俺の顔に衝撃が走る。
まあ当然の流れだな、とか思いながら顔面に食らう。
「っ~! この変態! キモいんだよ! 変態! 回腸串刺しになれ!」
変態二回言ったな。
「でも、まあ、あんたの言ってる事は意外と的を射ているかもね」
加奈は早速ノートパソコンに向かい書き直す。
こいつ切り替え早いよな、なんて思いながら加奈の手を見つめる。
部屋にはカタカタとキーボードを打つ音だけが響く。
「よしっ! 出来た!」
内容を見ると主人公達のデートは終わっていた。
ものの数分で一気に書ききってしまったようだ。
「お前、調子出ると速いよな」
俺が心からの尊敬を込めるが、
「褒めても料理しか出ないわよ!」
そう言って加奈は自慢げに言う。
どうやら冗談にしか聞こえなかったらしい。
というかそれはまずい!
「えーとラノベは良いのか?」
正直この前の腹を壊した時のの二の舞にはなりたくない俺が聞く。
「うん一旦休憩」
そう言いながら手をだらんとする。
その仕草は子供のように無邪気だった。
「料理修行中なんだよね、あんたがちゃんと食べてくれると作るのも楽しみだなぁ」
なんてことを言われたら否定したくてもできない。
俺はこいつの料理をちゃんと食べることにした。
加奈を待つ間書き終わったシーンを読んでいた。
合計で四分の一ほど書き終わっていた。




