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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

なんやかんやあって愛して止まない漫画の最終回に転生しました。

作者: 七転び
掲載日:2019/10/01

この作品はフィクションです。作中に出てくる『シュバルツ戦記』は架空の漫画であり、同タイトルがございましても本作とは関係ありません(もしあったらどんな内容か気になるところ……)。









最期の咆哮は、呪咀とも、憤激とも、慟哭とも、聞こえた。

頭目を失ってなお、妖魔の群れは攻撃の手を緩めない。

襲いかかる妖魔を彼らは倒していく。術を操る者は魔術で、剣を極めた者は剣戟で。

人の形の妖魔が、獣の形の妖魔が、異形の妖魔が、血を撒き散らしながら息絶える。

妖魔たちが守るのは王。

かつて人の世を闇に染め、勇者に倒された筈の妖魔の王……人はそれを魔王と呼んだ。

伝説でしかなかった魔王を、再び人の世に顕現し、世を闇に染めようとする魔王を滅する為に彼らは戦った。

しかし、血溜まりの中に立ち、返り血を浴び、聖剣から滴り落ちた血も人と変わらぬ色をしていた。

そう、人に仇なす妖魔の血も赤い。

彼らは魔王討伐の途次で、かなり早い段階で疑問を抱いた。

何故、妖魔が人と同じ色の血を流すのか……と。

己の正義の揺らぎ。無辜の民の願い。流れる人と妖魔の血。赤く赤く赤く、赤く染まる世界。

『討伐』か『殺戮』か。

彼らは考える事をやめた。

足元には妖魔の屍。目の前には魔王城の最後の扉。

この先は魔王が座す『玉座の間』のみ。

荘厳な彫刻が施された門扉は何人(なんぴと)も拒むよう固く閉ざされている。


審判の鐘が鳴る。


そして全ての『答え』を持つ魔王の元へ――――――――――











水晶玉から観音開きの扉へ目線を移すと、今、正に扉が開き現れた彼ら。逆光の為、その表情は窺えない。

それは本屋のレジ前に平積みになっていた雑誌の表紙絵とまったく同じだった。


あぁ…最終回だ。やっとやっと………やっと『シュバルツ戦記』の最終回が見れるんだ(・・・・・)






「あっぷぅぅうううううう!(ばんざーーーーーーいぃ!)」


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」






ん? なんか止まってる? どういう展開?











**********************











『シュバルツ戦記』は俺が愛して止まない漫画だ。


やたら外伝(スピンオフ)が多い漫画で、ファンの間では本編を『正史』と呼び、度々「正史休載してまで外伝(これ)いる?」と賛否が分かれていた(正史に思わせぶりな描写が多かったのも一因だった)。だが最終章に入り、全ての外伝(スピンオフ)が正史に繋がった時、ファンのどよめきは凄かった。俺も鳥肌がたった。多少の後付けもあったかもしれないが、逆にどこが後付けなのか知りたくて、公式ガイドブックやネットの考察ファンサイトの隅々まで読み漁った。それぐらい夢中だった。

小学3年生の時に始まった漫画が、中学生の頃に残酷な描写がPTAで問題になった漫画が、高校3年生の受験シーズン直中の時に公開されたPG12指定実写映画が大コケした漫画が、大学入学の為上京して念願のコミケに参加して薄い本を買った漫画が、社会人になっても掲載雑誌を買い続けた漫画が、単行本は初版と重版を必ず買う漫画(読む用、保存用、布教用、万が一用の4冊は義務だと思ってる)が、ついに最終回を迎える!

最終回は全200頁。異例の別冊扱い。読み続けた達成感といくばくかの寂しさを抱いて、わざわざ発売日前日と当日と翌日に有給とって、前々日の夜から正史と外伝を読み返し、忘れていた初期の脇役の名前も脳みそに叩き込み、髪の毛1本に至るまで『シュバルツ戦記』を染み込ませ、開店時間とともに本屋の扉を潜った。


さて、賢明な紳士淑女の諸君らは俺が如何に『シュバルツ戦記』を愛し、『シュバルツ戦記』を生き甲斐とし、『シュバルツ戦記』の最終回を楽しみにしていたかをご理解いただけたと思う。




“あぁ、理解した。理解はしたがな……読んでないとか何それ? あり得ないしっ”

“ここまで気を持たせておいてそりゃないぜ大将……”

“マヂない……信じらんない……”


「うっせっ!! 俺だって最終回読んでから死にたかったわっっっっっ!!」




そしてその最終回を読めず他界した俺の無念も。




















気付いたら白い空間にいた。


全てがぼやけていて、身体の輪郭すら曖昧で、暖かな陽だまり中で微睡むような心地よさに身を委ねれば、溶けてなくなっていたかもしれない。

ぼんやりとだったが自分の死を理解した。そして受け入れた。不思議と穏やかだった。

何故死んだとか何時死んだとか、家族や友達、仕事の引き継ぎ云々が脳裏を掠めたが「平等に与えられる慈悲」だと思えば諦められた。嗚呼本当にその通りだ。死は安寧。報われぬ者への救済。平等に与えられる慈悲………あれ? 次なんだっけ?


この死者を弔う台詞メチャクチャ格好良かったんだよ。そらで言えてたのに……って、台詞? 誰の? あ、盗賊のリーダーだ。外伝否定派だったファンが一気に手の平返した……俺もだけど。ん? 外伝? 何の? あ、そだそだ。『シュバルツ戦記』だ。王家だけに伝わる餞の言葉で……


「あ、思い出した『死は安寧。報われぬ者への救済。平等に与えられる慈悲。囚人(とらわれびと)よ、魂の鎖はその未練、我が名において断ち切ろう』だ。そうだったそうだった、なんで忘れてたんだろ? 昨夜(ゆうべ)最終回に備えて読み返して……あれ? 最終回って……待って……ちょっと待って。俺読んでないっ? 最終回読んでないっ!? 嘘だろっ!? 買ったよね? 俺最終回本買ったよね!? 買ったのになんで読んでないの!? 待って! マジで待ってっ! 何死んでんのっ俺!? いやぁぁぁあああああああ!!」


徐々にクリアになる意識に比例するように、あるのかないのか解らなかった身体が、『俺』が、急速に象られる。更にふよふよと宙を漂いながらも上昇していた感覚が消え、逆に落下し始めた。

まるで鉛の鎖が重しとなった囚人(とらわれびと)のよう。

これが未練……魂の鎖。体感感無量です……って、ダメだろ。いやダメじゃない。それはそれでいいんだ。いいんだけれども最終回。絶対買ってた。本屋のレジ前に平積みになっている最終回本は表紙絵が美麗だったのを覚えている。余計な煽り文句がなかったのは良かった。店員さんの手書きPOPが「ファンだな」と思えるのがまた良かった。「最終回本を買えないファンを出してはいけない」とSNSでもファン同士の注意喚起があったので、4冊欲しい気持ちをぐっと堪えて1冊だけ手に取った。「売れ残りを出して作者()に恥かかすな」とも言われているので、1週間後まだ残っていたら買おうとも思ってた。


全部全部覚えている。


なのになんで読んでないの? 買ったのに読んでないとか……バカなの? 死ぬの? いや死んでんだけど……よし。どうすれば最終回を読めるか考えよう。現世に戻る……どうやって? 御供えとかされればいけるか? 誰かの夢枕に立って……どっちにしろ現世に戻らねーと話になんねぇか。念じて出てこねぇかなぁ……なんかこう具現化的な能力に目覚めたとかで……って出た! 俺すげぇ……って、中身白地じゃ意味ねぇーよっ!! 読んでないからか? 読んでないから白地なのか!? 使えねーなっ俺!


どうしたら最終回が読めるかあれやこれや考えていたら、いつの間にか落下が止み、黒い靄の中にいた。


“……呪ッテ……ヤ……ル……”

“恨……ンデ……ヤル……”

“辛……イィィィィィィイイイイ”

“苦シイ……ナンデ……ワタシダケ……”

“ドウシテドウシテドウシテ……ドオシテェエエ……”

“イタイイタイイタイイタイイタイ……イタイノォオオオオ”


怨嗟の声が聞こえたから悪霊の類いなのだろう。俺に纏わり付き耳元で恨み辛み妬み嫉み等々……反応したらヤバいヤツだと思い無視していたら、ヒステリックに叫ばれた。構ってチャンかよ、うぜぇ。

最終回を読める手立てがどうやっても思いつかない上、ネチネチネチネチと絡まれたもんだからそれ(・・)に言い返す事にした。即ち、八つ当たりだ。


“悔シイデアロウ?”

「うるせぇ最終回読ませろ」

“……………恨メシイデアロウ?”

「うるせぇ最終回読ませろ」

“……………何故己バカリコンナ目ニ合ッテイルノカト思ウデアロウ……思ッテルヨネ?”

「うるせぇ最終回読ませろ」

“…………理不尽ニ「うるせぇ最終回読ませろ」セメテ最後マデ言ワセテ!”

「……………」

“……………”

「……………」

“……………”

「……言えよ」

“……………エット……理不尽ニ散ッタソノ命ソノ魂、我ト同化シ其方ノ無念ヲ晴ラソウゾ”

「よし乗った! お前の言う通りに同化しよう。いますぐ『シュバルツ戦記』の最終回読ませろ。えっ? できない? 無念晴らしてくれんだろ? はっ? できねぇならできねぇって言えよ。面倒くせぇこと言ってんじゃねぇよ。俺はただ最終回読ませろって言ってるだけだろ。あっ? んな事どうでもいいだよ。事故だったのか事件だったのかなんてどうでもいい。有給3日週末と併せて5日休むから差し当たり仕事の引き継ぎはしてたし、流石に父ちゃん母ちゃんごめんとは思うけど、死ぬ運命だったんなら受け入れる……け、ど、なっっ!! せめて最終回読んでからでもいいじゃんっ!! 一度は手にしたんだぞっ! それを読めなかった無念が手前ェにわかるかっ!? はあああぁぁあああ!? たかが漫画とはどういう了見だらぁあああああああっっっ!!!」


“ヒィィイイイイイイイイッ!!”


逃げ出そうとする黒い靄に中学のレスリングの授業で習ったローリングの形で巻き付き、俺がどれだけ『シュバルツ戦記』を愛しているかを、俺がどれだけ最終回を楽しみにしていたかを、「熱量怖ぇえよ」と友達にどん引きされたテンションで、ネタバレなんか気にせず延々と滔々と語る。

たかが漫画、されど漫画。


「おらっ! 構ってチャン構ってやるよぉぉぉおおおお!!!」

“キシャァァアアアアアアアァァ……!!”


時にはネットで読んだ考察を交え、途中、思念でヴィジュアルを出せる事に気付いてフルカラーの扉絵やキャラ絵、調子に乗ってお気に入りのファンアートや二次創作なんかを次々見せた。

するとぶるぶると震えていた黒い靄から“思い出したっ! その漫画読んでたっ!!”と、ひょっこり何かが飛び出した。


“マンガ……?”

“……ナニソレ?”

“……クルシ……タスケ……テ…? アれ? 苦シク…ないっ!?”

“アァァァアアアアあアあぁぁああ……読んでたわそれ。実写クソだったよな~”


どうやら黒い靄は魂の集合体だったらしく、1つの魂がひょっこり飛び出したのを切っ掛けに、あれよあれよと魂達が飛び出した。


“漫画とは何じゃ? 御伽草子かえ?”

“まったく日本人はクレイジーな民族だぜ。MANGAでオレの嫁を何人創造すれば気が済むんだ……で、オレの嫁はどうなった?”

“……どうなの?金狼様は生きてるんでしょうね?”

“金狼なんかより幼馴染みの子はどうしたんだよ。それ話せよ”

“なんかとは何よ!ってか金狼様よ!様つけなさいよ”

“生きてるだけいいじゃん……騎士イケメン過ぎてツライ”

“終わるとかマヂムリ……祭壇作るしかない”

“ぷっ………はーっあ~苦しかった…ごめんそれ読んだ事ないんだ。教えてくれる?”






黒い靄は霧散。構ってチャンな悪霊だった魂達は『シュバルツ戦記』ご新規さんとして生まれ変わった。

そして最終回を読んでいない俺は魂達に責められた。そして慰められた。






“誰でもいいからちょっと黄泉返りしてこい”

“落ち着け。黄泉返りより口寄せが確実だ”

“お前も落ち着け。まず『ゆた』か『いたこ』にコネクトだ”


新規ファン獲得は純粋に嬉しい。死後の世界であってもだ。しかし悪霊をただの魂戻すとは……対話って大事。そして友達にうざがられた俺の熱量、いい仕事した。いやここは流石『シュバルツ戦記』といったところだな。


“ってかさ……あそこの展開、王城焼け落ちるトコの。どうしても納得できない”

“おまおれ。騎士だろ? あの騎士のことだろぉおおおお”

“やめてそれトラウマ回。私の将軍の闇堕ちががががが”

“ちょっと腐った騎士×将軍の脳内補完の話する?”

“何それ詳しく”

“黙れ腐女子”

“忠誠を穢すな”

“うるさいキモオタ……ところで精霊女王×末姫を思いついたんだが?”

“うむ。実に興味深い。続けろください”

“いやいや、まずは正史だろ。公式あってこその二次!”

“それな”

“あ’あ’~どうにか最終回読めねぇのかよ……”


忌憚なく語り合えるファンが身近にいる事がとんでもなく貴重なのは現世で身に染みている。批判酷評悪口だって言えるのは偏に愛があるからこそ。だからこそ、自分を責める。なんで最終回読んでないんだよ……そして推し百合CP精霊女王×末姫を是非聞かせてもらいたい。


“ちょっ……どうしたの? お腹痛い?”

「グスッ……痛くない……ごめんなぁ~俺最終回読まずに死んで……」

“それは仕方ないじゃん。むしろありがとうだよ。こんな素敵な作品知らなかったし”

“やだやだ……泣かないでよ~こっちも泣けてくる~”

“考えたら俺たちより悲惨だよな……一度は最終回本手にしてんだから”

“だな。最終回読まず死ぬとか……残酷過ぎ”

「優しいっ皆優し過ぎてツライ……」

“其方のせいじゃぞ。最終回を読みたい読みたい言い過ぎじゃ”

“俺!? 悪いっ責めてる訳じゃ……”

「わ’がっでる’~不甲斐な’い’自分が情げな’い’だげ~~俺だっで読み’だい’~」

“あ~……”

“凹む……”

“泣きたい……”

“許す。泣け”

“ヘイガイズ、泣く前にオレの話を聞け”

“いや泣かせろよ。これだからヤンキーは……”

“『あきめたらそこで試合終了ですよ…?』”

「!!!?」

“お……おま…それっ!”

MANGA(バイブル)が教えてくれたのさ……そして『俺たちの戦いはこれからだっ』とも!!”

「!!!!」

“……まさかヤンキーからその台詞を言われるとはな”

“私たち、いつの間にか諦める癖がついていたのね……思い出させてくれてありがとう!”

“おっと礼はまだ早いぜベイビー。それにオレは知りたいのさ、オレの嫁が幸せになっているかどうかを……なっ!”

“知りたい!”

“読みたい!”

“可能性が1%あるならそれにかける!”

「うぉぉおおおお! やるぜっ俺はっ!」

“滾るっ”

“……して如何せむ?”

“え?”

“え?”

“ホワット?”

“…………”

“…………”

「まぁ……な……」

“それは……うん……追々?”

“と、兎に角私たちの心は一つよ!”

“そ、そうだ一つだ!”


“「『シュバルツ戦記』の最終回をっ!!」”




――――――――――よし。いってこい。




“「え?誰?」”





















ドンッ!!





















「~~~~~~~~~っ!!(いってぇぇええええええ!!)」




殴られたというより叩き付けられたといった方がしっくりくる衝撃と激痛が背中に走った。


痛い。ナニコレめっちゃ痛い。背中どころじゃない。なんでこんな痛いの? 死ぬの? いやだから俺死んでんだけど……ア”〜イ”デェ……死んでも痛覚ってあるのかよ。痛いってより熱い? でも痛い……イ”デデデデデ……


何がなんだか分からなかった。分からないけど踞って目を固く瞑り、背中を中心にじくじくと身体中に広まった痛みと熱にただただ耐えていた……と、フワリと体が浮いた。背中がムズムズとしたかと思ったら痛みと熱がスーッと嘘みたいに消えた。そのまま何か……手だ。誰かの手が優しく優しく、まるで子どもをあやすよう背中をさすってくれている。

詰めてた息を吐き出すと、頭上で同じように息を吐き出す声が聞こえた。その時、体が浮いたのではなく、誰かに抱き上げられていることに気付く。大人を軽々抱き上げるとは……おいおいどんなマッチョだよ、と見上げて俺はポッカーンと口を開けたまま硬直した。




『シュバルツ戦記』読者人気投票不動の1位、魔王!!




……に、激似の超絶美形。


ビビった……マジ似てるんですけど。血が通ってないと言われても思わず納得してしまう程蒼白い相貌とか、ギリシャだかどっかの彫刻作品の黄金比のような完璧なバランスの目鼻立ちとか、指通りがよさそうなサラサラツヤツヤな黒髪とか、憂いの眼差しの黒曜石のような瞳とか……に映るくるくるおめめ、ふくふくほっぺ?

「ん?(ん?)」

もっとよく見ようと目の前に垂れた髪(やっぱりサラサラツヤツヤだった!)を掴んだ手はちっちゃい紅葉。ぐーぱーしてもちっちゃい紅葉。あら可愛い。

「あぅあ~……ん?(ナニコレ……ん?)」

鈴を転がすような声。



……うむ。まず現状確認だ。


まずちっちゃい紅葉は俺の手だ。俺の意思のままに動くんだから俺の手に間違いない。その(紅葉)で自分の頬を触る。うん。ふくふくほっぺも俺の頬だ。そのまま目線を下げるとぽっこりおなか。ぺたぺたと体を触ればどこももちもちと柔らかい。このころころボディは俺の体だ。少し大きめの服もちゃんと着ていた。もこもこのアニマルカバーオール。

……オッケー、俺は赤ちゃん(・・・・)になっている。


……うむ。次に状況確認だ。


くるりと周囲を見渡すと、あの白い空間ではなく、元悪霊の魂たちもいない。なんとなく見覚えのある室内だった。やたら天井の高い外国の聖堂というか神殿というか、魔王城の玉座の間の参考にしたと噂されている首都圏外郭放水路が一番近いかも(実写の時もそこがロケ地だった)。そういや巡礼に行ったな。実写化前だったから高1の夏休み。当日たまたまキャンセルが相次ぎ、俺を含め5人くらいしかいなかった。あれは良かった。ほんと良かった。ひんやりとした空気、曇天で日の光も射さずぼんやりとした光源が厳かというか怪しげというか……柱の影から妖魔たちが出てきてもおかしくない雰囲気だった……そう、今、目の前にいる両手をわちわちとしている人の形の妖魔、ウロウロと落ち着きなく歩き回る獣の形の妖魔、柱の影に隠れハラハラと見守っている異形の妖魔たちのように。

……オッケーオッケー、妖魔な、妖魔がいるな。


……うむ。では結論だ。


俺だって『シュバルツ戦記』だけを読んでいた訳じゃない。アニメ漫画ゲームラノベと一通り嗜んでいる。世間一般的に『オタク』と呼ばれている部類だ。赤ちゃん、妖魔、魔王に激似の美形、己の現状と状況、それらを鑑みて、行き着いた結論を甘受するのも吝かではない……いや、はっきり言おう。歓喜に震えてる。変な声出さないようにするのが精一杯だ。


「んっぱ!(ってか、あれっ!)」


赤ちゃんの可愛さを最大限発揮できると噂のアニマルカバーオールを着ていることにより「なんだただの天使か」レベルに可愛いくなった俺を抱っこし、ゆらゆらと揺らしてあやしてくれている魔王(仮)に、正しい玉座はこれだという玉座の傍に浮かんでいる水晶玉を指差し、それを見せろと伝える。もし、それが俺の知る水晶玉ならば、おそらく決定打(・・・)が映っている筈だ。正史や外伝でも常に映ってた。その度にSNSで『#安定のストーカーwww』とハッシュタグにも草が生えてた。逡巡する気配を見せた魔王(仮)の腕をはしはし叩くと、諦めたように水晶玉の傍……つまり玉座に腰掛けた。


果たして水晶玉には『彼ら(・・)』が映っていた。映像()から察するに最終回の直前回、サブタイトル『魔王城Ⅳ』。

……えっ待って、この展開からするともうすぐじゃん? 死んで読めなかった最終回じゃんかっ!!






天の配剤か運命の悪戯か、はたまた天使の取り分、悪魔の証明……は何か違う気もするが、何でもいい。俺は転生した。それともトリップか? 1回死んだから転生で合ってる筈?

まぁどっちでもいいか。

俺は今、愛して止まない『シュバルツ戦記』に、『シュバルツ戦記』の世界線にいるっ……!(ただし赤ちゃん)











**********************











水晶玉から観音開きの扉へ目線を移すと、今、正に扉が開き現れた彼ら。逆光の為、その表情は窺えない。

それは本屋のレジ前に平積みになっていた雑誌の表紙絵とまったく同じだった。


あぁ…最終回だ。やっとやっと………やっと『シュバルツ戦記』の最終回が見れるんだ(・・・・・)




「あっぷぅぅうううううう!(ばんざーーーーーーいぃ!)」




いきなり奇声を発した赤ちゃん()にスト……ゲフンゲフン、魔王も妖魔たちも扉から現れた彼らもギョッとした顔をした。心の声が聞こえる「なんだコイツ」ですね。わかります。だがそんなことはどうでもいい。

大事なのは『シュバルツ戦記』の最終回。あれほど熱望した最終回。一度は諦めた最終回。諦めきれなかった最終回。大事なので何度でも言おう!


最終回最終回最終回最終回最終回最終回最終回……最・終・回!!


全200頁の正史のクライマックスを俺は魔王の膝の上(特等席)で見届けるっ!!











…………筈なんだが、何故か彼らは動かない。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」


ん? なんか止まってる? どういう展開?


「おぷ?(なんで?)」

きゅっと、お腹に回されていた手に力が籠る。見上げれば、困ったように眦を下げた魔王と目が合う。

キョロキョロと見渡させば、フリーズした彼らは勿論、妖魔たち、玉座の間にいる全員の注視を浴びていた。

そりゃ赤ちゃんがいきなり魔王城(しかも今は魔王の膝の上)に現れたら困惑するよな。しかもこれから戦いますって時に。赤ちゃんに殺し合いなんて見せたくないよな、基本妖魔って子ども大好きだもんな……子どもの妖魔が人間に殺されたのがこの長い戦いの発端だもんな……そっかそっか……って、




お・れ・かっ!!




ストーリーを邪魔した存在。居てはいけない異分子……即ち俺だ。

そうと分かれば行動するのみ。特等席は惜しいが最終回が見れないなんて考えられない。

「ぷぅ!(そこの君!)」

柱の影に隠れている異形の妖魔に向かって手を伸ばす。いきなりの事で驚いたのか、慌てて柱の影に身を隠す。それでも俺が「だぁだぁ」と呼び続けると異形の妖魔は恐る恐る顔を出し、触手で俺と己を交互に指し示す。うんうんと頷くと何故か魔王も頷いていた。そろりそろりと近付いて来た異形の妖魔。俺を怖がらせないよう隠れていたのになんか悪いな。駄菓子菓子! 君の隠れていた柱の影は特等席の次にベスポジなのだよっ! 両手を広げて抱っこをせがむと、魔王を気にしつつも俺に求められるままおっかなびっくり小さな身体を抱き上げる。俺を傷つけないよう触手の体毛を毛羽立てるとか……紳士。素敵。抱いて。あ、抱っこされてるや。


「だぁふぁっ!(さぁ続けてファイッ!)」


ベスポジに移動した俺は続きを促す。ワクワクとくるくるおめめをキラキラさせているだろう俺と、困惑顔で目配せしあう妖魔と動かないままの彼ら。


…………何故に?


ハッ!? まさか俺の記憶にないからか? 具現化した最終回本が白紙だったように、俺の記憶にないものは具現化されない……? おふぅ、なんてこったい……やっぱり転生しても見れないのか? 嘘だろっ!? なんて肩すかしっ!!

愕然とした俺と慣れない手付き(触手付き?)で背中ポンポンしてくれる異形の妖魔。ヤバい惚れる。抱きついちゃえ。

そんな微笑ましい(?)触れ合いがよかったのか、俺の嘆きが天に届いたのか、止まっていた時が動き出す。




憂いの眼差しの魔王が深い深い溜め息を吐いた。




「……愚かな人の子等よ。朕から一時休戦を申し出たいのだが…」

「「「「「異議無し」」」」」




「おっぷぅぅうううううう!(待って!! 最終回プリーーーーーーズッ!)」









お読みいただきありがとうございます!


作中に出てくる『首都圏外郭放水路』は埼玉県に実在する施設で、様々な映像作品のロケ地にもなっているキングオブ聖地。巡礼に行きたい……

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