三璃紗の地に降り立つ英雄!
何処かにあると言われている伝説の地ーー三璃紗。
かつては平和だったこの地は、董卓の手によって荒れ腫れていた。
董卓は皇帝であった霊帝を暗殺し、皇帝の証である玉璽を手に入れた。
玉璽には『神の力』が宿っているという伝説があり、董卓は『神の力』によって鉄を操る力を手に入れた。
その後董卓はロボット兵を作り、董卓軍を結成させ、暴虐の限りを尽くし、董卓に逆らう者は女、子供問わず処刑された。
そこで悲劇が起きたーーーー。
董卓兵に斬られると鉄を含む器具や血液に鉄感染が起き、感染したものは全て董卓兵の様に機械化する現象が起きたのだ。
人々は地上を捨て、地下にシェルターを作り、鉄の無い生活をしながら、ただ怯えて祈ることしかできなかった。
地上に降り立つ英雄が現れるのを‼︎
高層ビルや建築物が密集している街ーー幽州。
董卓軍の襲来により建物は廃墟と化し、どの道も看板や建築物の破片が散らばって荒れ果て、董卓兵が地上をうろつき廻っていた。
その様をビルの4階の窓から見つめる男がいた。
「・・・・・・ったく。
何処に行っても董卓兵ばっかじゃねーか。
これじゃあ、迂闊に道も歩けやしねえ」
眉間に皺を寄せ腕組みをして、人差し指で腕を叩きながら苛立っている赤毛の男性ーー彼の名は張飛。
「そろそろ食料も尽きてきたし。
このまま、ずっとここに居るわけにいかないよ。
ねえ、どうする? 劉備?」
天井から崩れ落ちたコンクリートの破片の上に座っている長い黒髪の女性ーー彼女の名は関羽。
マントを羽織り胡座をかいて作を考えている黒髪の男性ーー彼の名は劉備。
「確か・・・・・・この辺りにシェルターの入り口があったはずだ。
そこで食料を分けて貰えるといいんだが・・・・・・」
その言葉に関羽は目の色を輝かせて劉備を見つめる。
「近くにシェルターがあるの⁉︎
じゃあ、久しぶりにお風呂に入れるんだ。
やったー」
「お風呂って・・・・・・。
昨日水浴びしたばっかだろ?」
「水浴びとお風呂は別なの!
ったく・・・・・・、張飛は女心を知らないんだから。
レディとして身だしなみは大切なんだから。
張飛もお風呂に入ったほうがいいよ。
ちょっと臭うし・・・・・・」
「なっ!
いまは風呂とか呑気なこと言ってる状況じゃねーだろ!
下には董卓兵がうじゃうじゃ居るってのに!」
「2人とも。アレを見てくれ」
劉備は窓の下を見るように2人に促す。
「きゃあーーっ!」
劉備たちの居るビルの方へ向かって女性と子供が走って来るのが見えた。
董卓兵に襲われているらしく、女性は懐から拳銃を取り出して董卓兵に向かって発砲していた。
「おいおい、なんでこんな所にまだ人が居るんだよ⁉︎
幽州の連中は皆シェルターに避難したんじゃなかったのか?」
「ヤバイよアレ。
こっち側は行き止まりじゃん」
関羽の言った通り、女性と子供が逃げ込んだ先はビルに囲まれた狭い通路になっており、周囲には人が出入りできる入り口が無かった。
董卓兵にじりじりと追い込まれ、女性と子供は互いに身体を寄せ合いながら、劉備たちの居るビルの方へ後退る。
その様を見て助けに行きたいと思うのだが、劉備達が居るのはビルの4階で、窓から飛び降りて助けに行くことなど出来るはずがない。
だが劉備は窓を開けて、窓枠に足を掛けた。
「俺が助けに行く」
「え⁉︎ ちょっ、劉備ここ4階だよ」
関羽が言い終わる前に、劉備は窓から飛び降り、左手を伸ばし指先でビルの壁を削りながら落ちて行った。
「アニキ、無茶し過ぎだぜ・・・・・・」
「あたしたちは階段から行くよ」
関羽と張飛は階段から劉備の元へ向かう。
女性と子供を追い詰めた董卓兵は目から赤いレーザーを出して2人の分析を始める。
「・・・・・・鉄反応・・・・・・10%・・・・・・。
・・・・・・判定結果。鉄分量ガ低イ為、董卓兵デハ無イト判断。
董卓兵デ無イモノハ董卓様ノ敵ト見ナシ、排除スル」
董卓兵は剣の形をした腕で2人に斬りかかると、2人の前に硬いものが上から落ちて来た。
カキィーン‼︎
金属と金属が打つかる音が鳴り響き、董卓兵の振るった刃はその物体を斬ることができなかった。
「何故、斬レナイ?」
上から落ちて来た物体は左腕で剣を受け止めていた。
「残念だったな。
俺の身体は83%がサイボーグだ。
そんな鈍な剣じゃ、傷一つ付かないぜ」
それは劉備だった。
劉備は背負っていた剣を右手で抜き、剣を振りかざす。
「青龍波斬!」
劉備は剣で董卓兵の胴体を両断する。
董卓兵が動きを止めたことを確認した劉備は、ため息を吐き、後ろに居る2人の方へ視線を向ける。
女性は震えた手で拳銃を劉備に向けていた。
「と、董卓兵。こっちに来るな!」
「いや、俺は董卓兵じゃないって」
「嘘つけ。
そんな機械の身体。董卓兵以外に居るもんか」
劉備は自分の身体を見ると、衣服から出ている機械の手足が見えていることに気づいた。
「あ・・・・・・いや、これは・・・・・・」
その時、後ろから声が聞こえた。
「劉備!」
「アニキ無事ですか?」
関羽と張飛が駆けつけて来た。
「関羽、張飛」
関羽は劉備と女性達の状況を把握し、劉備と女性の間に入る。
「落ち着いて下さい。
私たちは董卓兵とは無関係です。
その証拠に、私サイボーグじゃないでしょ?」
女性は関羽の身体を確認する。
「ね、ここは危ないから、建物の中で話しましょう」
女性は頷き、劉備達と一緒に建物の中に避難してくれた。
女性は酷く困惑していて、警戒され距離を取った状態で話を進めた。
「・・・・・・本当に董卓兵じゃないんだね?」
「ああ。
俺の身体は慮植先生って言う医者に創って貰ったものなんだ」
「最初は皆ビックリしちゃうんですよ。
サイボーグの身体なんて、董卓兵以外に見たことないから」
女性は劉備の方へゆっくりと近く。
「・・・・・・すまない。
助けてくれたのに・・・・・・さっきは、あんな態度を取ってしまって」
「怪我が無くて何よりだ」
劉備は優しく微笑む。
「自己紹介がまだだったね。
あたしは遮音。
で、こっちはあたしの娘の凛だ」
「俺は劉備だ」
「私は関羽。
で、あっちでムスッとしてるのが張飛」
関羽はくすくすと笑いながら張飛を指差す。
「誰がムスッとしてるって?」
「ほら、また眉間にしわ寄ってるよ〜。
なーに、難しいこと考えてるんだか〜」
「なっ! これが自然体なんだよ」
関羽と張飛の口論を見て遮音と劉備はくすくすと笑い、さっきまで緊迫していた空気がいつの間にか消えていた。
「お兄ちゃん。機械の身体、痛くないの?」
凛が劉備に近づき、腕を興味津々に見つめる。
「痛くないさ。
今はこの身体が俺の一部だからな」
「すごーい。
カッチカチだぁ!」
凛はオモチャを触るかのように、嬉しそうに腕を触る。
その様を見ていた遮音が軽いため息を吐いた。
「あたしも義足だったら、今頃シェルターに避難できていたんだろうね・・・・・・」
「足・・・・・・悪いんですか?」
「ああ。
昔、事故で足をやっちまってね。
それ以来、思うように走ることができなくなったんだ。
家も幽州から少し離れた山の中にあるもんだから、シェルターに避難するのに時間がかかっちまったんだ。
あんた達が居なかったら、今頃董卓兵にやられてたかもしれない・・・・・・。
ホント、ありがとね」
「大丈夫。
シェルターの入り口はもうすぐそこだから。 俺たちがちゃんと案内しますよ。
だから、今日はここで一休みしましょう」
「ありがとう・・・・・・」
劉備の優しい言葉に遮音の感情が揺れ、目頭が熱くなった。
その夜、張飛と劉備が交代で仮眠を取り、見張り番をすることにした。
娘を守る為に警戒心を高め、幾度も神経をすり減らして来た遮音は、今日は劉備達に見守られながら安心して深い眠りについたのだった。
しばらくして、先に仮眠を取った張飛が目覚め、劉備と持ち場を交換し、劉備は眠りについた。
その時劉備は夢を見た。
それは劉備の身体がサイボーグになる5年前のことーーーー
皇帝の兵士として働いていた劉備は、戦場で酷い重傷を負った。
傷口は完治したが、神経が負傷していたため、身体が思うように動かせず、寝たきりの生活を送っていた。
関羽は毎日劉備の自宅に見舞いに来ては、劉備の世話をしていた。
「劉備ご飯できたよ」
劉備の寝室に関羽が料理を運んで来た。
関羽は料理の乗ったおぼんをテーブルに置くとスープをスプーンですくい、劉備の口元まで運ぶ。
「はい。
あーん、して」
「・・・・・・・・・・・・」
劉備は関羽の方を見ずに、窓の外をボーッと見つめる。
「もう、3日もろくに食べてないじゃん。
食べないと怪我が治らないよ」
「・・・・・・もういいから・・・・・・俺のことは放って置いてくれ」
「何言ってんの。
私が居ないと料理とか洗濯物とか困るでしょ?
あたしがちゃんとお世話してあげるから」
「だから、もうしなくていいって」
「あたしがやらなかったら、何もできないじゃん」
「誰も頼んでねーだろ!」
劉備は関羽の目を見つめ、声を張り上げる。 「毎日毎日勝手に家に入り込んで、好き勝手しやがって。
幼馴染だからって、関羽は昔からお節介なんだよ」
劉備は関羽が涙目になっていることに気づき、言い過ぎたと思い、視線をそらす。
「もう・・・・・・放って置いてくれ」
「ごめんね・・・・・・勝手なことして。
お節介だったね・・・・・・」
関羽は無理に笑って、俯いたまま部屋を出た。
玄関口から出たところで顎髭を生やした中年の男性とすれ違い、関羽は会釈をすると、そのまま去って行った。
その頃劉備は、ベットの上でボーッと窓の外を見つめていた。
「入りますよ」
ドアの向こうから聞きなれない男の声が聞こえ、中年の男性が部屋に入って来た。
「あんた誰だ?
何勝手に人の家に入って来てんだよ」
中年の男性は被っていた中折れハットを取った。
「声をかけたんだが、返事が無かったものでね。
君が劉備君だね。
私は慮植。医者をしている者だ」
「何で俺の名前を・・・・・・?」
「公孫瓚から聞いたんだ」
「公孫瓚のアニキが?」
「公孫瓚は私の弟子でね。
君が重傷を追って困っているから、力になって欲しいと頼まれたんだ」
慮植は辺りを軽く見回す。
「悪いが帰ってくれ。
俺は既に医者に診てもらって、もう治らないと言われたんだ。
あんたの出る幕はないぜ」
「ふふっ、公孫瓚の言っていた通り、君はわかりやすいな。
何故そんなに死に急ぐんだ?」
「‼︎」
その言葉にトクン、と劉備の心臓が脈を打った。
「見たところ食事もろくに食べていないようだし。
さっきこの家から出て行った娘さんは、ずっと世話をしてくれていたんじゃないのかい?
君はその娘さんを追い払った。
身体を動かす事も出来ない君が一人で生きていくのは皆無に等しいだろう」
「あんたに何がわかる!」
劉備は慮植を睨みつけ、声を張り上げる。
「指一本もろくに動かせない、この身体のせいで・・・・・・トイレに行くことも、食事をすることも一人じゃ何もできないんだ」
その時、劉備の脳裏に関羽の姿が浮かんだ。
「・・・・・・いやなんだよ。
もう・・・・・・関羽に介護して貰わないと生きていけない・・・・・・こんな身体なんて・・・・・・。
俺は・・・・・・関羽を守るために、強くなろうと努力して来たんだ。
それなのに、こんな身体じゃ、関羽を守るどころか逆に関羽に辛い思いをさせちまう・・・・・・。
俺が居ることで関羽を悲しませるなら・・・・・・いっそ死んだ方がマシだ」
「君が居なくなることで彼女が喜ぶと?
君は本気でそう思っているのかね?
むしろ君が死んだ時の方が彼女は悲しい思いをするんじゃないのか?」
「・・・・・・」
「君の辛さの全てをわかってあげることはできないが。
私も前に足をやってしまってね・・・・・・」
慮植は左足のズボンの裾をめくり上げると、その足は機械でできた義足だった。
「自分で思うように動けない辛さは、私も理解しているつもりだ。
だからこそ、私は君の力になりたい。
これまで私は義手や義足を創り、手足の不自由な人達に手術をして来たんだ」
「それじゃ、俺にも義手や義足を?」
「いいや。
君の場合、全身を創らなくてはならないだろう・・・・・・。
私はこれまで全身を創ったことがないし、手術もしたことがない。
検査しないとはっきりとは分からんが・・・・・・手術が成功するかどうかは、1%にも満たない可能性がある・・・・・・。
だから手術を受けるかどうか、君の意見を尊重したい」
「・・・・・・・・・・・・」
劉備は自分の身体を見つめる。
「もし・・・・・・手術が成功して機械の身体になったら。
また、動けるようになるのか?」
「ああ、なれるとも」
「・・・・・・先生お願いするよ。
俺を手術してくれ」
劉備は瞳を輝かせ、慮植を見つめたーーーー。
劉備が目覚めると、外はまだ薄暗く、関羽達は眠っており、見張り番の張飛も胡座をしている状態のまま、こっくり、こっくりとうたた寝をしていた。
劉備は起こさないようにゆっくりと立ち上がり、ビルの外へ出ると、背負っていた剣を抜いて素振りを始めた。
この剣の名は『龍帝剣』。慮植先生に託された宝剣の一本である。
(俺は先生に誓った・・・・・・。
先生から貰った、この身体と龍帝剣で困っている人を助け、この世界に光を取り戻すと‼︎)
先程見た夢で慮植との誓いを思い出し、劉備の中で正義を思う心が熱く高ぶっていた。
朝日が昇り、劉備達は周囲に気を配り、警戒しながらシェルターの入り口へ向かっていた。
遮音は徐に劉備達に質問をした。
「そういえば・・・・・・。
劉備達は何で地上に居るんだい?」
その問いに張飛が答えた。
「俺達は董卓をぶっ飛ばすために旅をしてんのさ」
「あんた達にできんの?」
「俺たち結構強いんだぜ。
董卓兵は普通の剣や銃じゃ斬れねえし、弾丸も弾いちまうけど。
劉備のアニキは龍帝剣でズバズバ董卓兵を斬っちまうんだぜ。
俺は董卓兵の急所を狙って何度も倒して来たしな」
得意げに話す張飛を見てクスクスと笑う関羽。
「ほとんど力任せにぶっ壊してるだけだけどね」
遮音は劉備の背負っている龍帝剣の方に視線を向ける。
「へぇ〜・・・・・・。
龍帝剣って凄いんだ。
あれ・・・・・・? 凛が居ない⁉︎」
遮音が辺りを見回すと、さっきまで隣を歩いていた凛の姿が無かった。
「ママ。
見て見て、こっちにワンコが居るよ!」
通り過ぎたガレキの山の向こう側から凛の声が聞こえた。
遮音は急いで声の聞こえた方へ向かうと、凛がしゃがんで何かを見ていた。
凛の見つめる方向へ視線を向けると、そこには機械化した犬が居た。
見た瞬間遮音は顔を青ざめ、凛の身体に腕を回し、犬から離そうとする。
「ダメ、凛‼︎」
「え?」
その時、犬が遮音の右腕に噛み付いた。
遮音は犬を蹴り飛ばし、左手で銃を撃ちまくる。
カンカンと弾が鉄に当たる音が鳴り、撃った弾は全て弾かれてしまう。
「くそっ・・・・・・」
「グゥルルルルルルル・・・・・・」
犬は身を屈めて、喉を鳴らして威嚇してくる。
「蛇牙打撃‼︎」
張飛が背負っていた『蛇矛』と呼ばれる矛で、犬の腹の横を勢いよく打つ。
その衝撃で犬が10メートル程飛ばされ、建物の壁に激突し、だらりと力が抜けたように倒れた。
「大丈夫ですか⁉︎」
関羽は遮音に急い近づく。
「くっ、腕をやられちまった・・・・・・」
「待ってて下さい。
すぐに手当てしますから」
関羽は鞄からハンカチを取り出して、遮音の腕に巻いた。
「ママ、ごめんなさい・・・・・・。
凛のせいで、ママが怪我しちゃった」
凛は遮音に寄添い、いまにも泣きそうな表情をした。
遮音は痛みを堪え、無理に笑った。
「大丈夫。
ただの擦り傷だよ。
「ウォォォォーーーーン!」
別の犬が現れ、遠吠えを始めた。
すると四方八方から犬達が集り、劉備達を取り囲んだ。
「なっ! どんだけ居んだよ」
劉備も龍帝剣を抜き、張飛と背中合わせに立ち、身構えた。
「遮音と凛に犬を近づかせるなよ」
「わかってるって」
劉備と張飛はそれぞれの武器を振るい、犬を倒して行く。
関羽は遮音の手当てが終わると持っていた『青龍偃月刀』と呼ばれる太刀を手に取り、深く腰を落として刀の切っ先を向かって来る犬に向け、標的を貫く。
「鬼牙粉砕撃‼︎」
攻撃を受けた犬の前足の関節部分が砕け、犬は5メートル先まで飛ばされた。
劉備、張飛、関羽は凛と遮音を守りながら次々と襲いかかって来る犬を倒して行くが、人型の董卓兵まで現れ、苦戦していた。
その頃遮音は右腕の体温が冷たくなっている様な感覚とビリビリと電気が走った様な痛みに歯を食い縛り耐えていた。
「マ・・・・・・ママ・・・・・・く、るしい・・・・・・」
凛を見ると、自分の右手で凛の首を締めていた。
傷口から機械化が始まり、数秒で右腕全体が機械化した。
「機械化が始まった⁉︎」
遮音は凛の首から右手を外そうとするが、右手は遮音意思とは関係なしに動き、凛の首を締め続ける。
左手で右手を外そうとするが、右手はびくともしない。
「・・・・・・くっ、取れない・・・・・・」
《・・・・・・私・・・・・・命令に従え・・・・・・》
遮音の頭の中に声が響いて来た。
《・・・・・・私の可愛い機械達よ・・・・・・人間は敵だ。
人間を殺せ。人間を殺せ。人間を殺せ。人間を殺せ。人間を殺せ・・・・・・》
遮音の首まで機械化が侵食し、頭の中に響いて来る声が段々と大きく、はっきりと聞こえて来る。
(ーーこれが、董卓に支配されてるってことなのか?)
「あぐっ・・・・・・」
遮音の右手が更に強く凛の首を締め上げて行く。
(身も心も董卓に支配されて行く・・・・・・。
このままじゃ、凛が死んじゃう)
「おい、何やってんだ⁉︎」
異変に気づいた劉備が駆け寄って来た。
「機械化が始まった。
手が勝手に動いて、取れないんだ」
「何っ⁉︎」
劉備も加わり遮音の右手を凛の首から離そうとするが、右手はびくともしない。
「劉備。あたしの腕を斬って」
「何言ってるんだ。そんなこと、」
「このままじゃ、凛が死んじゃう!」
「わかった・・・・・・」
頷くと劉備は剣を振るい、遮音の腕を切り落とし、凛の首から右手を取り外した。
「ゲホッ、コホッ・・・・・・」
「大丈夫か?」
遮音は斬られた腕を左手で隠す様に覆い、凛が救われたことを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
「劉備。凛のこと頼むよ」
「ママ・・・・・・?」
「まさか、こんな所で使う事になるなんてね・・・・・・」
遮音は着ていた上着のポケットからライターを取り出し、上着を脱ぎ捨てると、遮音の腰にはダイナマイトが付いていた。
遮音は足を引きずりながら張飛と関羽の前へた。
「張飛、関羽。下がりな」
「遮音さん? 」
「何する気だ⁉︎」
「見てわかるだろ?
こいつで董卓兵を吹き飛ばしてやるのさ」
「よせ。そんな事をしたら、あんたが・・・ーー」
「凛を守るには、もう・・・・・・こうするしかないんだ」
遮音は震える声で張飛の言葉を遮った。
「あたしの身体がウイルスに感染しちまって、身体の殆どが機械化して来ている・・・・・・。
身も心も董卓兵になりつつあるんだ。
このままじゃ・・・・・・凛を守るどころか、あたしが凛を殺しちまう。
だから・・・・・・ 凛のこと頼んだよ。
ちゃんとシェルターまで連れて行ってやって」
「ママ・・・・・・凛のせいなんでしょ? 凛のせいでママが感染しちゃったんでしょ?
ごめんなさい・・・・・・ヒック、凛が悪い子だったから・・・・・・」
凛はスカートの裾をギュッと握りしめ、涙がボロボロと溢れ落ちながらも真っ直ぐに遮音を見つめる。
遮音は少しだけ振り返り、優しく微笑んだ。
「凛のせいじゃないよ。
いいかい凛。
劉備達と一緒にシェルターへ行く、んだ。
シェルターに、行け・・・・・・ば、きっと、凛の力にナッテくれる、人がイルカラ」
遮音の衣服が破れ、身体全体から機械の部品の様な物が次々と現れ、遮音の声が片言になっていく。
遮音は腰のダイナマイトに火を付け、董卓兵の方へ向かって行った。
「さあ、董卓兵ドモ!
あたしが相手シテやる‼︎」
遮音の挑発に乗り董卓兵達が遮音の元へ集まっていく。
遮音の元へ行きたがる凛を劉備は強引に抱き上げて、物陰へ隠れた。
張飛と関羽もそれぞれに遮音から離れ、物陰へ隠れる。
ドカーン‼︎
物凄い爆音と爆風が押し寄せ、近場に落ちていた瓦礫の破片や小石などが吹き飛んで行った。
爆風が収まった後も、凛は劉備の胸の中でわんわん泣いていた。
劉備達は董卓兵に気づかれないように注意を払いながら、シェルターにたどり着いた。
劉備はシェルターに住む住民達に事情を話し、凛の面倒を見てくれるように話をした。
住民達の中から白い髭を生やした老人が劉備達の前に現れる。
「それは大変だったね。
凛ちゃん? だったかな?」
老人はしゃがんで劉備の後ろに隠れている凛と目線を合わせて質問すると、凛はこくんと小さく頷いた。
「私はここで長老をしていてね。
凛ちゃんさえ良ければ、私が面倒を見させてもらうよ」
長老は優しく微笑み、後ろに視線を向ける。
視線の先には6歳くらいの少年や凛よりも小さい子供達が集まって居た。
「ここには凛ちゃんの様に親を亡くした子達がたくさん居てね。
彼らとも仲良くしてもらえると嬉しいな」
凛は劉備の服をギュッと握り、眉を下げて心配そうな顔で劉備を見つめる。
「ここなら大丈夫だ。
皆と一緒に居れば安全だからな」
劉備は優しく凛の頭を撫でる。
「・・・・・・うん」
凛は頷くと、長老の元へ近づいた。
「よろしくお願いします・・・・・・」
「こちらこそ、よろしくね。凛ちゃん」
凛の周りに子供達が集まり、シェルター内を案内されながら、次第に子供達と打ち解け合うようになっていった。
劉備達は夕食をご馳走になり、一晩泊めてもらうこととなった。
関羽は嬉しそうにお風呂へ向かい、劉備と張飛は長老達と一緒に酒を交わし合い、それぞれが旅の疲れを癒した。
凛やシェルターの住民達がまだ眠りについている早朝。
劉備はシェルターを出て、街から少し離れた丘の上に来ていた。
劉備は大きな土の山を作り、その上に大きな岩を乗せた。
「それ、遮音さんのお墓?」
「⁉︎」
背後から聞こえた声に劉備は驚いて振り向くと、関羽と張飛が立っていた。
「水臭いっすよ。
言ってくれりゃあ、俺たちも手伝ったのに」
「お墓作りくらい、あたし達にも手伝わせてよ」
そう言うと、関羽はしゃがんで墓の上に花を添えて、手を合わせた。
「お前らは生身の身体なんだから、もう少し休んでろよ。
地上じゃ、いつ董卓兵に襲われるか分かんないんだぞ」
「それはこっちの台詞!」
関羽は立ち上がり、足のつま先が打つかる程劉備に近いた。
「いっつも朝早く起きて、剣の練習とか見回りとかして。
身体がサイボーグだからって、あんまり無理しないでよ」
「し、知ってたのか?」
「劉備だって人間なんだから。
劉備が死んだらあたし達だって困るんだからね」
「そうっすよ。
俺たち誓い合ったじゃないですか」
劉備は2人の顔を見つめ、目を閉じて頷く。
3人はそれぞれ己の武器を取り出し、空高く掲げ、武器を交差させる。
『我ら3人、生まれた時は違えども、死すべき時は同じと誓う‼︎』
(俺たちは、今はまだ、これくらしかできないが。
必ず董卓を倒し、三璃紗に光を取り戻す!)
そう、劉備は心に強く刻み、張飛と関羽と共に董卓を倒すため、旅を続けるのだった。
その頃、三璃紗随一の都と呼ばれていた許昌の地下では、許昌に住む全男達が大広間に集結していた。
大広間の舞台の上に武装した一人の男が現れた。
彼の名は曹操。許昌を収める覇将軍である。
「許昌の民達よ。
我々はただ、地下に潜り身を潜めていたわけではない。
今まで我らが鍛え上げた力を董卓へ打つける時が来たのだ。
今こそ、この穴蔵から這い上がり、地上へ降り立ち、董卓を倒し、我らの手で地上を取り戻すのだ‼︎」
「おおおおおおおおおおおーーーーーー!!」
男達は全員の歓声が大広間全体に響き渡る。
「必ず余が董卓を裁く!」
曹操は瞳を輝かせ鋭い眼差しで上を見上げる。
三璃紗の各地で男達がそれぞれの正義を胸に董卓打倒の為に動き出していた。