第七話 領主の使いが来た
翌朝、ジールは『闇スペース』にしまっていた水の入った桶とタオルを出した。『闇』能力は「無」も一部という事にして(作者の勝手な設定)、『闇スペース』内は時間が「無」で時間経過がない。
なので、ジールは体を軽く洗っていると一階から騒ぎ声が聞こえてきた。
ジールは隠密型の忍者で確認すると宿の外に馬車があり、入り口でザギ二と執事服を着た男性がいる。
内容はやはり。
「あの領主様の使いか?」
ジールはザギ二達に迷惑をかけてしまっていると気づき、一階に向かう。
「まぁ、いますが、何の御用でしょうか?」
「とりあえず、呼んできてくれ」
途中から話を聞いたのでこの執事が誰かわからないが、ザギ二はいくら金持ちの人が頼んでも簡単には従わないようだ。
そこにジールは話しかける。
「ザギ二さん、何かありましたか?」
「あぁ、どうやらこちらの方が君に用があるらしい」
「君がジール君かい?」
ジールとザギ二が話していると執事の人が話しかけてきた。
「私はこの街の領主様、ジム・オーロン辺境伯様の執事をしております。ハーバーと申します」
「ご丁寧な自己紹介、ありがとうございます」
執事の人は自分の名はハーバーと言い、主人はハアルの町の領主で、辺境伯。
辺境伯は国の外側を担当する公爵より低く、普通の伯爵のより高い重要爵位である。
それも未開の森を任された貴族、重要度はさらに上がる。
ジールはさらに厄介な人物に目をつけられたと思った。
ジールは既にこの執事が自分の事をしていたので自己紹介を省く。
「ジール君、君に領主様がお呼びです。来てくれますか?」
「いえ。結構です。その事は門番を通して領主様に伝えたはずですよね」
「そうですか、残念です」
ハーバーは馬車に乗って帰って行った。
「いいのか?領主様の要望を断って?」
「いいですよ。そもそも僕には徳はありませんから」
「辺境伯だぞ。関係を持てば融通が利くようになるだぞ」
「いえ、それは望んでいません。僕は気軽に旅がしたいので必要ありません」
「そうか」
ジール自身は別に関係を持ちたい訳ではない。それも貴族。
ジールの経験上、貴族と関わると大変な事になる。
今までだって貴族との関係がなかったとは言わないが、大抵は貴族同士の権力争いや裏切りに遭う。
そんな事をされるくらいなら、そもそも関係しなければならない。
それそれで大変な事になるが、そこは『闇』能力でどうにかする。
その後、朝食を今度は野菜料理を頼んだ。やはり、昨日のサンドイッチと同じくらい美味しかった。
朝食後、今日は街を見て回りたいので、宿を出る。