第二話 街に入るのに問題
ジールは歩き出し、予想通り門には門番が一人いた。見た目は三十代後半で多分ベテラン門番さんなんだろう。
「@/_#」
門番が言っている事が理解できなかった。
それでもジールは何回も世界間移動しているから理解している。「止まれ」と言っているという事を何人、何十人、何百人と会って来たから分かる。
そして対処法も分かっている。
『マインド・カオス』
『メモリー・スキャン』
・『マインド・カオス』
マインド系でこれは脳を混沌状態する。つまりは混乱状態に似ている。
・『メモリー・スキャン』
これは脳が『闇』状態の相手の記憶を調べ、学習する。
・『闇』状態
これは混沌状態だけでなく、夢状態や鬱状態などの『闇』に関係する状態の事。
ジールは門番の記憶を調べてこの世界の事とこの辺で使っている言葉を学習した。
この世界はファシスと呼ばれ、ここはナタリー鳳国で王国や帝国みたいに王様や皇帝と呼ばれている鳳様がおり、意味はもしこの国が滅んでもまた蘇るというのを込めての名前だと言う。
それでこの街ハアルはそこまで大きい訳でないが、辺境の街でジールがいた森と近い事もあり、人の行き来はあるらしい。
森は中央の方にもあったが、この世界の端にある森は未開の森と呼ばれおり、今でも調査がされている。
他に情報があるとしたら王国や帝国もあり、人は人間が多くてそれ以外は少数民族扱いになっている。
それで石壁はどうやら未開の森と国の境を各国合同で建てたらしい。だからこの街どころか人間の街にも入れないという事である。
「お前、未開の森から来ていたなぁ。それもお前は見に覚えない」
「まぁ、そうですが」
未開の森から来たなら怪しまれてもおかしくない。それも誰かもわからない。
そもそもジールの見た目が怪しいのだ。ジールは真っ黒ローブを羽織り、フードを被っている。かろうじて顔は見えるくらいである。
「一応聞くが、何者だ?」
「旅の者です。マーリン王国から未開の森を経由して来ました」
マーリン王国というのはこのナタリー鳳国の一つ国を挟んで隣の国だ。
「何故、そんな遠い所から未開の森を通って来た?」
「簡単に言えば武者修行ですね」
「それで何の用でこの街に?」
「お金集めながらこの国が旅しようかと思いまして」
「そうか、一応身体検査してもいいか?」
「いいですよ」
ジールは真っ黒なマントを脱いだ。
「随分と若いなぁ」
ジールの外見は十代後半から二十代に見える。
ジールの年齢はもう何百歳となる。
こんなに生きているのは『闇』の能力によるものだ。
「まぁいいや。身体検査するぞ」
門番はジールが若いのを気になったが、身体検査をしていく。
門番はジールの着ている服の上から触っていく。
「どうやら何もないようだが?」
「いや、ありますけど」
「出せ」
「いっぱいありますよ」
「えっ?」
どう見てもいっぱいあるように見えない。
それも触って確認もしたのにだ。
「収容量が多い魔法の袋か?いや、触った感じそれすらなかった」
「収納魔法は知っていますか?」
さっき、門番の記憶から拾った情報を言う。
「あぁ、知っている。も、もしかしてそれを?」
「はい、そのようなものを持っています」
「そうかー」
やっぱり収納能力を持つ人は珍しいようだ。
「それは困った。お前みたい他国から未開の森経由で来る奴はいたが、身体検査すれば安全奴か危ない奴か判断できる。君は判断できん」
「こんな時の対処法とかはないんですか?」
「いや、あるにはあるが、それも判断できるか分からん」
これでは街に入るのに時間がかかるし、もしかすると入れないかもしれない。
そこでジールはこんな事を提案する。
「これをここの領主様に渡してくれますか。そうすれば街に入る許可も貰えるかも」
「それ程の金をどこで?」
ジールが出した物はサッカーボール程の純金である。
「それはお応えできません」
「まぁ、そうだよな。よし、ちょっと待ってろよ」
門番は一回門番室に戻った。
他の門番に報告するだろう。
数分後、門番がもう一人呼んで、戻って来た。
「すまんな、待たせて」
「いえいえ」
「君は俺と門番室に来てくれ。後はよろしく」
「あぁ、分かったよ。これも仕事だ」
どうやらもう一人の門番はこの門番の代わりに来たらしい。
そしてジールはこの門番と門番室に行く。
「ここに座ってくれ。今、門番の一人が領主様の所に報告しに行っている。帰って来るまで待機だ」
「分かりました」
ジールは門番室にある椅子に座った。
門番室は外が見える部屋とその奥の部屋がある。
今いるのは奥の部屋で、机と椅子が置いてあるだけである。
報告しに行った門番が帰って来るまで一緒にいる門番と話した。
「よく信用してくれますね」
「まぁ、絶対的信用じゃないがな。でも君は悪いようには見えんから信用はある。これも門番視点からの判断だ」
「それはありがとうございます」
「それはそうと名を聞きたい。領主様に会うのに必要だ」
「そうですね。僕自身が言える訳でもないですから。僕の名はジール」
「ジールか。友好の印に俺の名も言っておこう。フジンだ。何か気になった事、困った事ががあったらここに来るといい」
フジンに対して能力を使ってしまった事に罪悪感を覚えてしまったが、この世界ではもう使う事は少なくなるだろう。
そもそもあの方法は非常時だけで、話で情報収集している。
今回も『メモリー・スキャン』を使ってフジンからこの世界の事と地名、言葉、お金などこの世界で最低限必要な知識を得ているだけである。
その後、有益な情報を得ると報告に行ったのであろう門番が帰って来た。
「領主様はすぐに会いたいそうだ」
「いえ、結構です。街に入れればいいので」
「そ、それは困ります」
どうやら領主様はジールを呼びたいらしい。
「とりあえず落ち着け」
フジンはその門番の肩に手を乗せ、落ち着かせる。
「あぁ、すまん。しかし、領主様は会うとおっしゃっている」
「そう言われましても僕自身は会うメリットはありません」
「そもそも何で領主様は会おうとしてんだ?」
フジンは誰とも分からない人と会おうとしているのを疑問を抱いているようだ。
「もし、ジールが領主様と関係を持ちたい悪党だったら大変ではないか?」
「た、確かに」
「まぁ、僕はそんな事考えてはいないけどね」
ジールがマーリン王国から未開の森経由で来たという証拠なんてないし、実際にはそこから来ていないけど。
領主は何を考えているのかが分からない。
「領主様は単純に興味が湧いたとかはおっしゃっていたよ」
「それもそうか、こんな大きな金なんてそんなに見かける物ではない。嘘という可能性も考えているだろうが、本当だった時に領主様から関係を持ちたいと思っているんだろう」
ジールが持っているのは純金、つまりは加工された金という事だ。
これだけの金を集めるのは困難である。
領主は関係を持ち、出所を探ろうとしているのだ。
「まぁ、本人がこう言ってんだ。金だけ領主様に持っていこう」
「あの〜、この金に入る袋とかあるんですか?」
「あるにはあるが、ギリギリになるだろうな」
「なら、これに入れていって下さい」
「それか?」
ジールは何の変哲もない純金が入る大きさの大きな袋を門番に渡した。
「この袋は一緒に領主様に渡して下さい。これでも質の良い袋なんですよ」
「革製か。確かに触った感じによると上質と言える。これも領主様は気にいるだろう」
その袋は縦長の革製の袋だ。
腰に着ける物ではなく、肩にかける物だ。
「よし、これを領主様に持って行き、領主様からジールの入街許可証が持ってこい」
「了解」
「持ち逃げするなよ」
「そ、そんな事しねーよ」
これだけの純金だ。
この門番に持ち逃げされる可能性もある。
なので、
『サモン・忍者』
・『サモン・忍者』
これはサモン系の一つで、サモン系は大きさ設定もジールがサモンされたものの視点を見る事と聞く事も可能。忍者は隠密、暗殺を得意し、暗示も可能とする。
年のために小さい忍者をこの門番に付けておく。
ジール自身は金を持ち出されても自分に損はないが、領主に渡らなければ街に入る事はできない。
これは保険である。
それ以前にフジンがわかるから持っていった門番がそんな事をするはずもない。
しかし、そうは断言できないから保険をつける。
ジールは片方の目と耳を忍者の目と耳に変え、その門番の様子を見ていく。